141プレイ目 メルツ
まだお金に困ってないし、もっと良い手段があるかもしれないし。
と思って椛とロウガイは素材の売却手段は後で考えることにした。
2人が買い取り窓口で売るのは、ダンジョンまでの道中で手に入った低レベルの魔物素材や、罠を仕掛けて得た獲物くらいだ。
たまに採取もしているが、使うかもとしまい込むことが多い。
「山葡萄があったから採ってみたけど、めっちゃ酸っぱい…」
「木通は甘かったがのう」
「山葡萄はワインにするんだよ。ワインは貴族の飲み物だって他国じゃ規制されてるらしいが、この国には貴族なんていないからな」
「店で売っておったかのう?」
「取りに行ける冒険者が少ないし、採取量も少ないからな」
流通するほど作られていないということだ。
買い取り窓口のおじさんが「買うぜ」と言うが、椛たちは拒否した。
飲んでみたいので、料理人に聞いてからでも遅くないだろう。
2人は珍味のカエル肉でビールを飲む気は起きなかったが、酒を飲まない訳ではない。珍しいワインなら興味がわいただけだ。
「それよりマスター、予約しておいたローストは」
「ちゃんと残ってるよ。すぐに完売したんだぜ」
先日売ったレア獲物の山鳥のメニューである。持ち込んだ者の特権で確保しておいてもらったのだ。
食べ損ねたという冒険者NPCたちが羨ましそうに見ていたが、椛とロウガイは一口食べて決意した。
誰にもやらん、と。
そのくらい美味しかったのだった。
椛とロウガイはダンジョン攻略くらいしかしていないが、街歩きはしている。
美味しい物探しもあるが、掘り出し物だってあるし、ランダムクエストを拾うこともある。
メインシナリオが進む訳ないさ、と気楽に出来るところも気に入っている。
街では別行動をして成果を共有するだけのことが多く、その日も椛は1人で歩いていた。いや玄幽は連れていたので、はた目には2人連れだったが。
「山芋か。和食以外のメニューが分からん」
山地の多い国なので、売っている野菜や果物は隣のアルヴィーナ王国からの輸入品が多いようだ。しかしトシュメッツ国でしか見かけない物も時々ある。
山芋なんて名前からして山の幸だ。
詳しく知らない椛は適当にそう判断した。
とりあえず誰かが喜ぶだろうと、土産のつもりで買っておいた。他もそんな適当さで買っていく。
「あ、柿だ。ヤマト国にあるんじゃないんだなあってのがたまにあるな」
柿も好きなので買っておく。
皮むきくらいはさすがに料理スキルがなくても出来るので、さっそく皮をむいて玄幽と味見した。
甘いがシャキシャキしていて、熟しすぎた物より椛好みだった。玄幽も気に入ったようである。木の苗があるなら買っておこうと思った。
そして柿があるのなら、と住民たちに尋ねながら探してたどり着いた。
「干し柿ー!干し芋ー!乾物ー!…乾物?」
干し柿の店ではなく乾物屋だった。
干しシイタケとかキノコ類に魚もある。昆布やワカメもあるが、それは他で聞いた覚えがあった。
こういうのヤマト国の専売じゃないんだなあと線引きが分からなかったが、気になるものは購入した。
「ガウ」
「干し芋の甘さはイケるんだね」
焼き芋も食べるスイーツ嫌いの玄幽の好みは、たまに分からないが美味しいから良しとした。
近くの店も覗いて歩く。
やっぱり和食を連想させるものがたまにあって、ヤマト国から伝来したのかな、でもなあと首をかしげたのだった。
うろうろしていたら、古本屋を見つけた。
ここは客が歩くスペースくらいはちゃんと用意している親切な店のようだ。
玄幽は店の外で大人しく待っているので、椛は1人で入ってみた。一時期どこも完売だったトンデモ本の類も並んでいて、持っていない本は全て確保した。
コレクションの充実は心地よいものである。
「お、めっちゃ売れると見込んで失敗したかのように投げ売りしてるね、お姉さん!」
「売れなくて回って来たのは確かだねえ。奥にまだまだあって困ってんのさ」
「…何故売れると思ったんだろう」
50年前はピチピチギャル(ロウガイジョーク)だっただろうお姉さんが、1冊でいいからさと勧めて来た。普通2冊も買わないと思う。
「『妖艶なる絶世の美女の栄華〜最強で偉大な九尾の妖狐』とか、タイトルがウゼえ…」
九尾の妖狐の最期、くらいシンプルなほうがマシだったのでは?いや、最期は迎えていなかったっけ?
九尾の妖狐を主人公にした小説なのか、とにかく九尾の妖狐アゲがウザい。背面のあらすじだけで買う気が失せるレベルだ。
これは売れない(確信)。
でもまだまだあるという言葉に、全プレイヤーに買えと言っている気がした。分かりやすいフラグ感がするのだ。
ウザすぎて目につくし。
[という本が山になってるけど、どう思う?]
椛がロウガイにチャットで尋ねるとワシの分も頼むと返された。《七つの災厄》関連の本はほぼ見かけないから怪しい、と。
バハムートの英雄譚は探すと多いのだが。
友達が欲しいって言うからと2冊買ったら、お姉さんに感謝された。でも奇特だねは褒め言葉ではないだろう。
「緑茶の専門店…」
「ちょいちょいヤマト国っぽい要素があるのも怪しいのじゃ」
「だよね。団子ウマ」
椛がロウガイに指定された店に来てみると、見た目は喫茶店なのにメニューが峠の茶屋のような店だった。
紅茶があるなら緑茶があるのはおかしくないかもしれないが、団子や饅頭はどうだろう。
餡子もみたらしもないが、三色団子はなかなか美味だった。
「団子って米粉とかそういうのじゃなかったっけ?」
「ここのは小麦粉に芋を混ぜて弾力を出したとか、意味わからん事を言ってたのじゃ」
「そこまでして再現したの…?」
そしてそれでこの味が出るの?と料理をしない椛は思う。ロウガイも料理はしないので、分からんと言うだけだ。
ゲームだからかもしれないが、料理人プレイヤーに聞いたら怒られそうである。
ロウガイがお茶を飲みながら椛の渡した本をパラパラと流し読みしていた。
「これ、本人が自画自賛の自伝を出したと言われたほうがしっくり来るんじゃが」
「あー、そういうノリだね」
「…いるのかのう」
「…嫌ですわあ」
他の人たち、どう思ったのかな。
こういうトンデモ本はネタになりそうにない限り、普通はスルーじゃよ。
団子を食べながらそんなやり取りをした。
トンデモ本扱いに怒るところか否か。
世間の認識は難しい。
「…聞いてもどこが芋か分からん」
「山芋じゃろ、ねばねばする芋」
「山芋か、売ってた」
白いし独特の味が自己主張するタイプでもないし、砂糖を入れたら負けるほうかもしれない。それは分かった。
ねばねばも小麦粉に圧倒されて弾力に変わったのかもしれない。
納得できたわけではないし、リアルで作っても再現できないだろうが。
「美味いのが悔しい」
「緑茶に合うのがまた、なんか悔しいのう」
この敗北感はなんなのか。
芋に負けた気がする。
「饅頭も美味しいの?」
「中華まんというか、おやきじゃよ」
「なるほど」
餡子はないらしい。そうでなければ「ヤマト国に行きたい」が「餡子食べたい」の隠語になることはなかっただろう。
トシュメッツ国で食べられるよ、となってしまうから。
「…まさか九尾の妖狐は餡子スキー?」
「それにどんな意味があるんじゃ…」
考えても分からないことばかりだ。
そういう時こそ検証クランの出動である。
[目の付け所が非凡すぎて意味わからないよ。なんでつまらなそうな売れ残りの本の山からそんな話になるの?]
シラベに怒られたが、思いつきと連想ゲームの果ての産物だ。
ただの与太話だと理解して欲しかった。
山芋に片栗粉を混ぜるレシピ等はたくさんあったけど、三色団子になるのかは知らない…




