140プレイ目 メルツ
伝説の幻獣ミーティアを見つけておきながら、目の前で争奪戦を始めて逃げられたアホたちの話から1週間が過ぎた。
椛には関係ない話だったが、やたらと「この喪失感を埋めるアイドル様の供給が欲しい」と言われたので、仕方なく動画を上げておいた。
反応は見ていない。不快なコメントが目についたら腹が立つだけなので。
フレンドたちからは「可愛い」「もっと下さい」と好評だった。
「そんなに言うなら…って調子に乗りそうになっているわたしがいる」
「乗ったら良かろう」
「やだよ。次に来るのはアングルが悪いだの、素材を活かせてないだのの不満だし」
「…人は贅沢になって行く生き物じゃからな」
今回はちょうどルヴィスの街にストロベリーを買いに行った時に、月詠が初めてのストロベリーに感動する姿を撮れた。
一口かじってぱああ!と顔を輝かせ、目をキラッキラさせてみゅうみゅう言う姿は確かに可愛かった。
しかし毎回あんなイベントは起きないのだ。
そして椛は動画もスクショも素人なので、文句を言われても反論できない。
悔しくなるだけだった。
「それに逃げられた直後にこんな動画出しやがって!って特定の6人が怒り狂ってそうだし
…」
「時期が悪かったのじゃな」
椛だって多少は他者を気遣う気持ちはある。
たとえどんなにアホだなと呆れても。
椛が何かされた訳ではないのだから。
そんな話をロウガイとしながら歩いているのは、トシュメッツ国の首都メルツである。
地下資源が豊富な訳でもない、ただ広いだけの枯れた山地ばかりの小国だ。
元は複数の山岳民族が暮らす国で、各族長たちが会議をして国の方針を決めていたそうだ。
だが数十年前に若者が中心の革命が起きて、国家首相を定めて議会を行うようになった。
メルツはその時に出来たばかりの新しい街だった。そしてやたらと華美な城が建っている。
この国の悪評が立つようになったのは、革命後かららしい。それ以前はむしろ、義理固い真面目で朴訥とした人柄の人々だと信頼の篤い国だったと老人たちが言っていた。
そう、ヤマト国がトシュメッツ国とだけ国交を持っているのも、その民族性が信頼されていたからだ、と。
分かりやすいイベントのフラグだった。
他国で悪評を聞くと分かって来るタイプの話だったが、トシュメッツの名前を出すとけっこう噂話をするNPCは多かったと検証クランが言っていた。
しかしメルツの街そのものは平和で、何も問題がなさそうな雰囲気だ。住民たちも善人にしか見えないし。
「で、そこからまた進まないって言うね」
「うむ。シナリオを進めるイベントが全く見つからないらしいのう」
早くイベントを進めて、ヤマト国解放もついでにして欲しいものだ。
メルツの街の近くにはちょうど良いレベルと危険度で、光属性特化、闇属性特化のダンジョンがあった。光と闇は相剋の関係なので、どちらから進めても便利な素材が手に入って攻略しやすくなる。
ダーク・エレメントと契約した時の素材をロウガイが残していたので、2人は闇属性のダンジョンから攻略を始めた。
「ブリリアントホースが強い」
「ワシも探しておいて正解じゃった」
光属性の召喚獣が活躍中だ。
MPとCTという制限もあってずっと使えないものの、高速で飛び回ることもあって被ダメージも少ない。
次の光属性のダンジョンではダーク・エレメントが活躍するだろうし、どちらも召喚士以外も契約できる幻獣だ。ロウガイも召喚すればかなり攻略しやすくなっていた。
「あと良く知らなかったけど、召喚獣を2人以上で使うとまた経験値の分配が変わってない?」
「…気にしておらんかったが、ログを見るとおかしいの」
多分検証クランがどこかに調査結果を載せているだろうが、面倒なのでなんか変で終わらせた。
経験値稼ぎをしている訳ではないし、現在の経験値はすずめの涙程度なのだ。全て誤差みたいなものである。
「ついでに破邪の双剣が光属性並みに強い」
「光属性じゃなかったのか?」
「聖属性だよ。邪神特攻らしいよ」
邪神も特殊な属性なのだろうが、聖属性は光属性も含むのかもしれない。そのくらい他で使うより強かった。
「これで入手イベントがなかったら…全力でバックレよう」
「いいのう、ワシも欲しいのう」
「シラベがきっと解明してくれるさ」
「聖女様ルートは時間かかりすぎんかのう」
シラベは最初の目的も忘れてアンセムの神殿に通っているフシがある。
聖女様の周囲からも知らない話がゴロゴロと出て来るそうだ。勇者パーティのマル秘エピソードとか。
1人は絶世の美貌のエルフの男だったとか、虎人の英雄は「突拍子のないところが椛さんに似てる」とか。
…悪口だろうか。
勇者たちの職の話から上位職の転職条件が出て来て、あんなに探しても教えてもらえなかったのにと嘆いてもいた。
雑談から得られる情報のほうが多い時もあるらしい。
「『異世界生活シミュレーション』はNPCと交流しろって意味かもね」
「ロールプレイが理解されにくいんじゃ…」
「けっこうな縛りプレイっすなあ」
ショタジジイ概念とか、完璧に理解して対応して来るNPC…そのほうが怖いなと思った椛だった。
冒険者組合に戻った椛とロウガイが買い取り窓口で職員と少し雑談している時だった。
いかにも商人という風体のNPCが声をかけて来た。
「最近高難易度のダンジョンを攻略していらっしゃる冒険者様ですな!お二人の手に入れたダンジョン素材についてご相談したいことがございまして」
「え、自分の装備を作るから余ってないよ」
「高難易度と言ってもレベル50ダンジョンじゃよ」
トシュメッツ国の商人は地雷。
椛たち以外にも広まっている認識だ。椛とロウガイは組合の買い取り窓口以外で売買する気はなかった。
「そうおっしゃらず」
「売る物ねえから聞く価値ねえって言ってんの。それとも自分の装備を後回しにして赤の他人に奉仕しろとでも言う気か、転売屋」
「転売屋とは言っておらんがのう」
「冒険者に寄って来るのは9割転売屋なんだよ!」
窓口の職員も「だよなあ」とうなづいている。住民の間でも常識だった。
つい椛まで「え?」と聞き返したくなったが聞き流す。
「絶対に損はさせません!」
「話が通じないからやだ。わたしの時間を返せ」
「時は金なりじゃぞ」
「ダンジョン素材を必要とされている方がいらっしゃいまして」
「わたしたちも必要だから取りに行ってんの!そいつにもてめぇで取って来いやって言っとけよ!ウゼえ!」
キレた振りで怒鳴って、どうにか追い払う。
「なんで世の中には自分で使うって言ってんのに、当然の顔して横取りしようとする奴がいるの?」
「自分の儲けしか見てないからだろ」
職員のおじさんもうんざり顔だ。
組合で働いていると良く来るから詳しいようだ。特に買い取り窓口だと巻き込まれやすいのだろう。
「買い取ってそっちの売店に並べるだろ?それを根こそぎ買い占めて転売してる連中だよ」
「ガチの転売屋だった…」
組合には買い取った素材やアイテムを販売する売店もある。回復ポーションやスキルブックなども扱っているが、メインは冒険者の売った素材だろう。
生産職が良く買いに来ているはずだ。
「ここにそんなにレアな物など売らんと思うが、定価で買って転売して儲けが出るものかのう」
「お前らはまだ売ってないけどな、危険度Cのダンジョン素材なんて普通はレア物なんだよ。ボスのドロップならさらにな」
その言葉に椛とロウガイは考えて、頭を抱えた。
「やらかしてた…!」
「もっと売り方を考えるんじゃった…!」
高く売れるぜと組合で売却していたが、組合の買い取り価格も売店の販売価格も『最低限』の設定である。
儲け損なったことより、転売屋たちにカモ扱いされていただろうオノレが憎い。
とりあえずフレンドたちに警告メールを一斉送信しておいた。もっと早く教えて!と返って来ていたが、椛たちも今知ったばかりなのだ。
もっと早く教えて欲しかったが、組合の買い取り窓口の職員は仕事なので、あんまり言えない立場なのだ。それは分かっている。
でも言って欲しかった。
次からは商業組合に行こう。
あそこは商人という名の転売屋たちの元締めだけど…
他に売るアテのない椛たちは、そう思った。




