138プレイ目 カナリアからドゥナン
検証クランが呪い耐性のアクセサリーが手に入るイベントの情報をまとめて、手順を分かりやすく公開した。
おかげで呪い耐性アクセサリーは誰でも入手できるようになったが、一度は呪われないと進まないため、隣街の聖法士たちにはいい迷惑だっただろう。
イベントを作ったやつを恨んで欲しい。だがそこで呪いについてプレイヤーに教える手順にしただけのようだ。
シラベが「余計な気を回して遠回りした気がする」「でも聖女様ルートでしか手に入らないっぽい情報も捨てがたい」とか言っていた。
確かに呪われプレイヤーの量産は既定路線だったのだろう。でも分かっていて野に放ちたくないと思うのは人情だと思うのだ。
そんな訳で王都カナリアは呪われに来るプレイヤーで賑わっていたが、ロウガイもさっさとイベントをこなしたので椛とロウガイは本来の目的である風属性のダンジョンの攻略を粛々と進めた。
生産職でもバトルをそれなりにするほうのプレイヤーも来ていたから、防具の新調には困らなかった。
「そして聞いた情報以上のイベントに発展させるプレイヤーは出ない、と…他人を睨むくせになんで自力で発見できないんですかあ」
「あれは酷かったのう…」
道化野郎イベントの後の、未発見イベントを目の前でこなした椛に対する嫉妬と憎悪の視線と言ったら。
ちょっと暗殺者に転職して来るわ、と言いたくなるレベルのものだった。
早く教えろ!と命令口調だったし。
もちろん椛がキレない訳がなかったので、いつもは笑って見ているロウガイが仲裁に入ったものだ。
椛は思い出すと機嫌が急転直下で悪くなる。
ロウガイはうんざり顔で早くドゥナンに行きたがる。
という訳で、素材が揃った所でボス周回はそこそこに移動することになった。
「ドゥナンの次はどうする?光と闇だけど」
「ダーク・エレメントの時の素材が余っておるし、それで間に合わせの装備が出来んかの」
「そういえば、いや鍛冶師と皮革師に売ったな…」
「間に合わせなら1人分くらいは売れるのじゃ」
「よし、買う」
玄幽の装備は現地調達で揃えることにした。
王都でやり残したことは多分ないということにして、冒険者組合の酒場で最後のクエストチェックなどを終えた2人は席を立つ。
イベントは誰かに進めてもらいたいものだった。
ドゥナンの街の植林場を見て椛は思い出した。
「邪魔な、じゃなくて貯まってる木の苗を売ってしまおう。もういらないかもしれないけど」
「そういえばそんなネタも聞いた覚えがあるのう。貢献度がどうこうで」
「最近聞かないね、貢献度」
別の流行りに乗ってすぐ忘れるプレイヤーが多い印象だ。真面目な人はコツコツと貯めているのだろうが。
椛とロウガイもメニュー画面でふと目に止まった時にちょっと確認する程度だ。
騎獣で植林場の中をゆっくり進み、南門の管理小屋で苗木を売却した。ロウガイもあまり伐採するタイプではないので、たいした量ではなかった。
「いくつあっても困る物じゃないからな。また頼むよ」
管理人は笑顔で買い取ってくれた。
南門をくぐりながら椛とロウガイはメニュー画面を確認した。
「ちょっと増えた」
「うむ、ちょっとでも確実に増えるのう」
貢献度はまだ貰えるようだ。
ちょっとした発見をしつつ冒険者組合に向かう。こちらから街に入るほうが組合は近い。
プレイヤーが少ないので気分良く組合に入って、受付嬢に冒険者カードの照合をしてもらってから2階の資料室へ。
この流れにも慣れて来た。
資料を見ながらロウガイが言った。
「帝国のイベントのほうは進んだらしいのじゃ。邪神教団の存在を聞いたら本当に進んだとシラベが嘆いておったのう」
「イベントのフラグって難しいね」
細かく聞かないと進まないのは、初心者にも難しいだろう。総当りじみて来るし。
「だがカナリアのイベントが先という想定なのか、また止まったらしいがの」
「まあ、そっちで耐性アクセサリーを入手してからだよって設定なのはあるかも」
呪い耐性20%の激レアなアクセサリーを配っているのも、呪い関連のイベントはとりあえずこれで大丈夫という最低ラインだからだろう。
「そういえばイベントで出て来た騎士の名前は聞いた?わたしは聞き損ねたけど」
「聞いたけど答えてもらえなかったという話と、そんなことを聞いている場合かと好感度が落ちたという者と、いくつかパターンがあるらしいのじゃ」
「貢献度か」
「そのあたりじゃろう」
同じことをしても違う反応を返されるのは、貢献度か好感度の差だろう。嫌われ者はツラいよ。
「自分は激レアのアクセサリーを持ってるってシレッと言ってたし、実は王太子説あると思います」
「あるあるじゃな」
名乗らないのも怪しい。
なんて無責任な話をしていたら資料室の職員が、こわごわと尋ねて来た。
「さっきから何の話をしてるの?帝国のイベントとか邪神教団とか、王太子殿下とか…」
「お、お芝居の話を少々」
「続きものの話で、次の展開の予想を少々」
「邪神教団を出したら捕まるよ」
「…暗黒街で少々」
予想が当たると商品が貰えて、とさらなる作り話をしてごまかした。
冒険者がちょっと暗黒街に入りこんでいるのは黙認されているようだが、怒られてしまった。
プレイヤーがいないからとつい大きな声で話してしまったが、NPCに聞かれるほうがまずかったと反省したのだった。
ドゥナンはロウガイの第2のホームのような街らしく、椛の知らなかった美味しいものを売っている店などを教えてもらった。
木工師が多いので武器の杖を新調する時に来るそうだ。
「アルヴィーナ王国から魔術士が良く来ますって最初に聞いた気がするけど、本当だったんだ」
「使える木材も増えてプレイヤーたちもますます拠点にしとるからの」
「…いや、わたしは木材あんまり使わないけど、ロウガイはもっと伐採するべきでは?」
「…なんか忘れるのじゃ。年だからのう」
苦手というより普通に忘れているので、何故か覚えていられないらしい。他のことはそんなに忘れっぽくないのに。
果樹を見つけて椛が伐採したいと言うと、忘れきっていた人の反応を返していた。
あれは素で忘れていたようだ。
不思議だねと話ながら屋台を見て歩く。今日は玄幽も連れているが、少し前に買った焼き鳥の串を食べていて大人しい。
もちろん椛とロウガイも手にして歩いている。
「家具屋も多いけど、家が先だしなあ。ヴィスタの家のデザインがやっぱり1番好みかな」
「ワシはドゥナンが第一候補じゃが、ヤマト国に行って和風建築も捨てがたいしのう」
「そっか。西の大陸もまだ見てないもんね」
「侘び寂びじゃ」
ゼロイスはプレイヤーごとの好みを反映したカオスシティになる運命だろうが、下手に規制されるのは嫌なのでそんなものと思うことにしている。
「お店のデザインもメニューに合わせて作るよね。カレー屋とラーメン屋が隣り合ってたら通いやすいけど」
「日本の商店街そのものじゃな」
和風ではない。日本の商店街である。
異世界台無し。
「でもあの街の方向性が見えてしまった…」
「住み慣れた街の景観に回帰するものじゃ」
「あれこそが日本だった」
くだらない話をしていると、玄幽が美味しい匂いを嗅ぎつけたようなので行ってみた。
路地裏に進むのでちょっと首をかしげていると、屋台が見えて来た。
「うーん、ニンニクの匂い…?」
「あれは、いつだったか話題になっていた立ち食いパスタの店では…!?」
「あ、雑談スレで見たかも」
実在したんだ、と思いつつメニューを尋ねる。
「このニンニクの美味しい匂いは」
「ペペロンチーノだね」
「玄幽もそれでいいよね?ペペロンチーノ2人前で」
「ワシもペペロンチーノにするのじゃ」
ニンニクの暴力的な匂いに勝てるメニューは思いつかない。先に食べていた客たちも、今日はコレだよねとうなづいていたものだ。
そうして絶品ペペロンチーノを堪能したが、この屋台が不定期営業だという残念な情報を得た。
地元の人以外は、運が良くないと出会えない屋台だった。
どうでもいい豆知識:ニンニクは西の大陸に行かないと手に入らない食材




