137プレイ目 カナリア
椛がギルドマスターの執務室を出ると、さらに増えたプレイヤーたちが一斉に顔を向けた。
「ふふっ…ファンに出待ちされてる大スターになった気分…」
その割には憎悪混じりの視線が多い。
先を越されたとかイベントを独占しやがってという、妬みが大半だろうか。
だから検証クランに押し付け…自分で進めたくなかったのだ。
ギルドマスターも組合内の様子がおかしいと感じたのか顔を出し、眉をひそめてから言った。
「なんだ、お前ら。こいつのリボンについて聞いてただけだぞ」
「そんなリボンがなんだって言うんだよ!」
「もう一つ手に入るなら贈りたい方がいただけだ!」
ギルマスの言葉に職員たちのほうが「え」と反応していた。ギルマスは言うだけ言って執務室に引っ込んでしまう。
でもギルマスが贈りたいのは女ではなく、王太子殿下(男)である。
「あの、そのリボンって…」
「帝国でとある殿方から譲っていただきまして」
「あら、椛様も隅に置けませんね!」
勘違いが勘違いを呼んでいるが、嘘は言っていない。詳しく説明していないだけだ。
ここにロウガイがいたら大笑いしていただろうなあ、と思ったのだった。
冒険者組合内は居心地が最悪だったので、椛は宿屋の一室で息をついた。
ここは鍵さえ忘れなければ安全圏になる。
癒し要員の天使のミルクを召喚して、適当にぬいぐるみを並べる。ミルクは嬉しそうにぬいぐるみを撫でたり見比べたりし始めた。
ひたすらに可愛い。
ぬいぐるみ遊びをする天使を眺めながら、ロウガイとシラベにチャットで現状を伝えた。説明が長くなったので、書き込みの途中で[うかつ][見たかった]などと言われたが、椛もうかつだったと思う。
腹いせに可愛い天使のスクショも貼ってやった。
[なんで24時間で消えるチャットに貼るの?メールで下さい]
[天使とクマ・ベアの組み合わせの殺傷力の高さ…!殺れるのじゃ]
誰を殺る気か知らないが、確かにテディっぽいぬいぐるみと天使の組み合わせは最強である。他のぬいぐるみも同じくらい可愛いが。
[でもギルマスは王太子派なんだね。次期国王のはずなのに、王派は冷遇してるって噂もあるのに]
[国王は永遠に王として君臨していたいらしいの。不老不死を求めているとテンプレの噂もあったのじゃ]
[移住者の不死性を探るために受け入れたとも言われてたね。その割に接触して来ないから、噂でしかないけど]
王都にはそんな噂もはびこっているそうだ。
ブラフも多いのだろう。
[暗黒街のことをギルマスが把握してないのは意外だった。知ってるものとばかり]
[そういう思い込みがイベントの進行を止めておるのじゃろう。プレイヤーが切り出さないと呪いと邪神教団を繋げて考えないとかの]
[そこもプレイヤーがフラグを立てないといけないの?NPCから聞いた情報なのに]
[ゲームじゃからな]
確かに、このゲームもたまにゲームらしい展開になる。不自然なのにゲーム的に考えると良くあるやつ、みたいな。
キーアイテムがないとイベントが起きないとか、同じ話を当然と繰り返し説明してくれるNPCがいるとか。
この間も説明したじゃないですか、という面倒そうな顔もせずに。
[昇格クエストもやけに簡単だなあ、ゲーム的な都合かなって思った覚えがあるね]
[ゴーレムさんじゃな]
[メインシナリオもあのレベルだった…?]
全プレイヤーがランクAになりやすいように調整が入っている難度に思えただけだが、そこが難しすぎるとクレームの嵐になっただろう。
シナリオだって、あんまり難しいと進めてもらえない。進行が止まったままでは作った人たちも困るだろう。
このゲームにそんなものはないとしても、あからさまに改善が必要な街の様子を放置しておくのは不自然だ。
[あとドヤって報告する機会を与えた説]
[そういうの好きなプレイヤーもいるよね]
きっとNPCが大げさに褒めてくれるだろう。
たいした情報ではなくても、イベントなら。
シラベは整理してみると言っていたものだ。
椛がロウガイと待ち合わせをした冒険者組合に行くと、男女の別なく「そのリボンを売れ」と言って来た。
イベントのフラグアイテムなんだろ、と。
「なんでお前らのためにわたしがイベントを放棄させられなきゃならねえんだよ。帝都で自力で手に入れろや、ボケナスが」
思わず汚い言葉で罵倒してしまったが、椛がお上品な性格ではないことは伝わったらしい。しつこく言って来る者はなかった。
待っていたロウガイは笑い転げているが。
「笑いごとじゃないんですけど」
「いやいや、椛といると面白イベントに事欠かんのう」
「付きまとわないでよね」
「ワシと其方の仲ではないか」
フレンド以外の仲になった覚えはないが。
「あ、ここに炎の魔神が封印されてたんだよ」
「おお、あれが見つかったのか」
「レベル60で危険度Cのダンジョンですって!どうしろと」
「レベル60か…」
「しかも西の大陸の砂漠で『防熱』スキル付きのアクセサリーを入手して来て下さいって言われた」
「砂漠に行かねばならんとはな」
椛たちが攻略している危険度Cは、レベル50の格下ダンジョンなのだ。属性耐性を100%にして、レベル差10のために物理攻撃だって被ダメージが減っている、そんなダンジョンだ。
同レベル帯の危険度Cなんてクリア出来る自信がない。
「魔神はまだまだ手に入らない設定だね。西の大陸に行けるようになって、レベル70には上げないと無理そう」
「攻略組もレベル70あたりでまた上がらなくなって来たらしいがのう…レベル上げかあ」
「レベル上げ好きだよね、その人たち」
カンストさせないと落ち着かないのだろうか。
椛は適正レベルで遊ぶ要素が残っていたら、遊び尽くすまで上げたくなくなる派だが。
近くで「魔神ってなんだ!?」みたいな顔で振り向いた連中も、難易度を聞いたら興味を無くしたようだった。
聞いても手が出なくて悔しいだけかもしれないし。
そんな話をして、一応クエストのチェックをしてから椛とロウガイは組合の外に出た。
そこで不意にロウガイが消えたので椛は2度見してしまったが、イベントのインスタンスエリアに移動したようだ。
パーティはまだ組んでいなかった。
何のイベントかと思ったら、イカれた道化師の恰好のNPCが現われた。
「キサマかあ!我々を探っていた冒険者というのは!神に変わってお仕置きダァ!」
どういうキャラ設定なのか聞きたくなる口調である。愉快犯のほうだろうか。
何か投げつけて来たので躱したが、イカれた道化野郎はヒャーハッハッと耳障りな声をたてて笑った。
「呪い耐性10%程度の安物じゃあ防げないぜぇ!その邪神の呪いはよう!」
「武器と防具でトータル70%の耐性を実現しておりまーす。プークスクス」
他のプレイヤーはいないだろうから、性格悪く煽ってやった。売れとか言いに来た連中への腹いせも出来てスッキリ爽やかな気分である。
道化野郎は2、3秒止まってから怒り狂って叫んでいた。耐性70%は抜けない呪いだったようだ。
「こうなったら直接やってやるぁ!」
「ふはははは!道化ごときにやられるものかよ!大怪盗さんの弟子を舐めんな!」
適当なことを言いつつボス戦に移行したので戦った。召喚獣は呪われないと思うが念のため呼ばずにおく。
それに助力が必要なほど強くなかった。
倒したところで、大柄な騎士が駆けつけて来た。終わったら出て来るNPCはテンプレだ。
「組合前で騒ぎが起きたと聞いたが…こいつは!?」
「闇組合の道化師ですね。そいつが投げつけた呪いとやらがアレです」
「く、呪いだと…聖法士もいないのに」
そうだった、と椛も呪いとやらを見る。もやもやと黒い煙っぽいものが出ている、黒い謎の物体だ。
「呪い耐性10%だと呪われるとも言ってましたね…」
「それ以上の物などこの国には…」
「道化野郎が自衛のために持ってないッスかね」
騎士も道化から巻き上げる案を採用して、装備を漁った。アクセサリーしか出て来なかったが、耐性20%の上位品らしい。
《神殺しの塔》のさらに上の階層で手に入る素材で作れるそうだ。もちろん、激レア。
「私は持っている。お前が持つといい」
「あー、加算されるから欲しいけど」
きっとフラグを立てれば全員が貰えるアクセサリーだろう。だが武器防具がある身ではなんだか申し訳ない気分だ。
でも悩んで貰っておいた。他に入手手段がなかったら泣くし。
「つまり20%の耐性があれば大丈夫なのだろう。私が片付けておこう」
騎士は汚物の処分をするように呪いを片付け、道化野郎を担いで去った。
見送っていたらイベントが終了したのだった。
椛は特殊ルートで装備を先取りしたからギルドマスターが出て来ましたが、普通は闇組合に接触すると道化野郎が出て来るだけです
ちなみに検証クランは聞き込みはしたけど直接乗り込んだりはしなかったのでイベントが進まなかった
ヤバい組織に近付きたくない心理
条件を満たせば全プレイヤーが体験できるイベントの場合は、インスタンスエリアに入る仕様




