136プレイ目 カナリア
「それが噂の武器と防具か。キラッキラじゃな」
「男性用のバンダナも白銀の煌めきだったよ」
「…他は」
「帽子も白銀の煌めきだったよ」
椛が《神殺しの塔》の武器と防具のリボンに装備変更したのを見てからかったロウガイは、自分が入手した時のことを想像したのか、片手で目を覆っていた。
金属製の鎧ならともかく、布製の防具が白銀なのはかなり目立つだろう。
リボンはまだキレイだねで済む範囲だとしても。
「…入手手段がないのじゃ!」
「そうだね」
椛がタダで貰えたのだから、きっと入手イベントはあるはずだ。特殊クエストだったにしても、そこまで獲得アイテムに格差をつけるとは考えにくい。
呪い関係のイベントはたくさん用意されている気配だから。
それはともかく、ロウガイは『暗黒街の掟』だけでも入手しておくと言い、下町で情報収集するそうだ。
その間、椛は暗黒街を再調査して来る予定である。呪い耐性が70%になっているので、今度は呪われないはずだ。
「プレイヤーが多いから気をつけなよ」
「呪われプレイヤーが量産されても困るしのう…」
隠したい訳ではないが、呪われプレイヤーがあちこちに行って混乱をばら撒くのはマズいと思っただけである。呪われているとちょっと不幸になる、つまり隠しパラメーターのluckが下がっている可能性もある。
イベントは終わったが、プレゼントボックスの中身に影響でもしていたら大惨事になっていただろう。
そんな不幸な事件は起きなかったと信じたい。
椛を尾行しているプレイヤーはいないだろうが、一度門の外に出て騎獣でちょっと走ってから暗黒街の入口に向かった。
貧民街の中に入口があるため、ここを通るのはちょっと気が滅入る。
そして入口の前にいるゴロツキたちを見て、椛は思い至った。
暗黒街に出入りしている連中は、耐性装備がない限り全員呪われているのだと。
「いや、なんで突然憐れみの眼差しになってんだ、お前」
「ううん、ちょっと悲しい事件を思い出して…痛ましい事件でした…」
「なんでオレを見て思い出した!?」
ゴロツキたちを怒らせつつ、テントに入る。そして街壁に開けられた穴を潜って建物の中に入る。
廊下が延びているが、暗黒街の入口は近くの階段の下である。
「この廊下はどこに繋がってるの?この前は階段を見て下に直行したんだけど」
「外には出られねえよ。鍵のかかった部屋はあるが、オレたちは入れねえし」
「そこから別の階段で特別区に行けるらしいな」
見張りのゴロツキたちにはそれ以上のことは教えられていないらしい。
「お貴族様たちの別の入口に繋がってるとも言ってたし、金のない奴には関係ねえよ」
「別の入口…そりゃあるよね」
貴族や大商人が貧民街に出入りしていたら目立つ。冒険者がうろつくのとは訳が違うだろう。
そしてそちらは、わざわざ外に回らなくても暗黒街に入れるルートなのだ。
地下のマップは貰ったが、そこには載せられていないルートだ。
小さな疑問が解消したので、椛は改めて地下に通じる階段を降りた。1歩降りるごとに喧騒は大きくなって行く。
入口は屋台の並ぶ広場になっていて、暗黒街の住人らしいゴロツキや冒険者らしき人たちで賑わっている。
椛には魅力的に思えない怪しい商品ばかりに見えるが、購入者がいるから成立する商売なのだ。
軽く眺めるだけにして、マップを確認しながら進む。
暗殺者組合には用事がないが、邪神教団と闇組合のほうは探っておきたい。どちらも接触するための支部だか事務所といった小さい建物はあるらしい。
本部などは特別区にあるんだろう、と予想できた。
裏カジノや裏オークションの大きな建物の入口を通り過ぎてしばらく歩くと、けっこう奥のほうに闇組合の建物があった。邪神教団はさらに奥だ。
「知らない顔だね。誰を呪いたい?」
「呪いの依頼が出来るの、ここ?」
事務所っぽい小さな建物の入口をくぐると、開口一番に物騒なことを言われた。
「ちょっと話が聞きたかっただけなんだけど、客じゃない奴は帰れってやつ?」
「話の内容にもよるな」
出て行けとは言われなかったので、椛はカウンターにいた男の前に椅子があったから腰を下ろしながら聞いた。
お茶などは期待してないし、怪しいから欲しくもない。
「呪いって邪神由来って聞いただけだから、邪神教団と何が違うの?っていう基礎の基礎から」
「本当にズブの素人の質問だなあ」
男は呆れを覗かせたが、質問には答えてくれた。
「邪神教団の連中は世界の全てを呪って、邪神を復活させて世界を滅ぼしたがってるイカれた奴らなんだよ」
「滅ぼした後のことは考えてないの?」
「邪神が世界を支配するとかなんとか言ってたが、支離滅裂だから詳しく聞く気も失せるんだよ」
「そっかー。世界は滅んでも神様はピンピンしてるんじゃね?とか聞いても無駄なやつだね」
「無駄だな」
邪神教団は話が通じない。それは理解した。
「あ、そっか。闇組合は邪神を利用してるだけなのか」
「察しが良くて何よりだ。世界が滅んで暮らしにくくなったら困るが、邪神の力は強力だ。邪神のお力を知らしめているって言っておけば教団は黙認してくれるんだよ。今のカナリアは商売繁盛で最高さ」
闇組合は邪神教団のような壮大な目的のない、営利目的の組織なのかもしれない。
小悪党の集まりっぽいが、質が悪いやつだ。
しかし窓口になっている男がそういうタイプなだけで、他の構成員にはイカれた奴だっているかもしれない。
「…金にならなくても無差別に呪いをばら撒く愉快犯とかいない?」
「どうだったかな」
否定しないならそういうのもいるのだろう。
「そう、道化師の恰好してる奴ら」
「全部じゃないからな」
あれは闇組合の名前を印象付けるためのユニフォームであって、イカれた道化野郎の目印ではないそうだ。
でもイカれた道化野郎が混ざっているらしい。恐ろしい話である。
「それで、呪いたい奴はいるのか?」
「呪うよりボコる派だけど…あとあんな連中のためには1Rだって使いたくないな…」
聖人君子ではないので、椛には呪いたい連中くらいたくさんいる。アンセムで付きまとって来やがった連中とか自分本意なことを喚いていた連中とか、椛の悪口を掲示板で書き込みまくった連中とか。
思い出したら本当にたくさんいた。
「まあ、全財産を払ってでも呪いたい奴が出来たら来てくれや」
「そこまで腹立つ奴なら、やっぱりボコりたくなるだろうなあ…」
どちらが物騒か分からないことを言いながら椛は事務所を出た。
そして気付いてしまった。
椛は利用しないが、椛を呪う奴も現われかねないことに。
出来るだけ呪い耐性のある防具を装備しておこう、と心に誓った。性能は高いので防御力が落ちる心配はなかった。
王都の冒険者組合に戻った椛は、受付嬢に魔神の話をしていたらギルドマスターに呼び出しを受けた。
組合内にそこそこいたプレイヤーたちの視線が痛い。
「…わたし、何かやっちゃいました?」
ラノベの無自覚主人公っぽいセリフを言ってみたが、何も変わらなかった。
渋々とギルドマスターの執務室に入る。ここのギルマスは元冒険者らしい鋭い目つきの壮年の男だった。目立たないが筋肉質なのは服越しでも分かる。
「お前、そのリボンはまさか…」
「あ、これ?ちょっと呪いを受けた時に聖女様のお世話になって、呪い耐性が必要ですって話になって」
なんやかんやで帝国の13騎士筆頭の聖女様ファンが融通してくれた件を説明した。
聖女様がらみなら仕方がないとギルマスも一発で納得してしまった。
聖女様が無敵すぎる件。
「取りに行けるならと思ったが、無理か」
「アンセムの教官たちが無理なら無理ですな。最強執事サマとか」
「セバス様は引退して長いだろう」
「現役の冒険者より強そうだったけどな」
「…それは何よりだ」
やはり最強執事は有名だった。
頼むわけにはいかないのは、なんとなく伝わって来る。それが出来たら通りすがりの椛に声などかけていないだろう。
「あ、ついでだから暗黒街で聞いた話をしていい?組合でどのくらい把握してるのか知らないけど」
「暗黒街?どこの」
「この王都の」
ギルマスが顔色を変えたので、イベントが進んでしまったことを悟った。
検証クランに任せるべきだったかな、とちょっと後悔した椛だった。




