204 羅生門
【羅生門】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「呪力回路を繋いだ! バイパスを通して、羅生門と繋げるぞ」
朱雀は自ら親指を切り付けて、その滴る血を描いた方陣に降り注いだ。その血が地面に落ちた瞬間、その方陣に金色の光が走る。
すると地響きを上げで、地面から巨大な門が迫り上がって来た。屋根瓦を備えた巨大な木製の門だ。平安のその昔、京の都に存在した羅城門とまったく同じ門。だが一つ違うのは、その大きさが、実際の羅城門より大きい。近世以降は、羅生門と呼ばれるその門の両開きの扉がゆっくりと開き出す、
「な、なんだこりゃ? 」
クラビスはその巨大な門を見て呆気にとられた。このクザン渓谷の北側出口を覆い隠すように出現した門が、化け物共の出現も阻んでいる。
「この門を潜れば、もとの渓谷に出られますよ」
奇門遁甲で捻じ曲がった空間に、バイパスを通して、通常ルートに繋ぎ直したのだ。
「なら、問題ないね。残った化け物をさっさと片付けて、先にすすんじゃおうね〜」
驚いた風も無く、カズキは相変わらず能天気だ。
◆◇◆
「奇門遁甲を破った者がいる……これは仙術ではないな? 神の力である陽の神仙術では無い。真逆の陰の力だ……面白い。惇! 陣を移動させますよ」
男は、側にいた少年に指示を出して、自らも幕舎を出た。
男が、陣の周りにいる兵たちの間をすり抜けてゆくと、前から偉丈夫が歩いてくる。
「予定通りです。砦に敵軍を誘い込みます」
「油断は出来ません。私の神仙術を破るほどの使い手がいる。だがこの術は、中華から遠く海を隔てた島国の鬼道に似ている……だがそれよりも洗練された術ですね」
「先生が知らない術があるのですか? 」
「私とて人間です。広い現世でまだ見知らぬ術や技がある。だから楽しい。この術は太公望から続く仙道の道士が使う術ではなく、呪いを素とした術です。中華では外法と呼ばれる陰の術です。その力で、私の奇門遁甲の陽の力を打ち消して中和した。並の術師では出来ない」
「色んな才能を持った者がいるのですね」
「そうだね。君が現世で助けたいと思う彼や、彼と戦うであろう好敵手達、全てに様々な才能がある。戦争とは、その最大の浪費だ……だが、始めた以上は、勝たなければ意味がない」
「はい先生! 」
「では、向かうとしますか」
◆◇◆
エルファン王国より発した【蒼炎の軍】は、軍を三軍に分けて侵攻した。その中央軍にいるジンギス・カァンは、巨大な軍馬の上から、隣を進む男に話しかけた。
「【白銀の軍】をどう見る? 」
「……強いな……個々が、何をすれば良いかを理解している。それにあの銃という武器。俺の時代には無かった物だ。初めて体験した敵は総崩れだろうな」
銀色に輝く胸当てをした男は、口髭を撫でながら笑みをこぼす。
「嬉しそうだな」
「ペルシャ軍よりも骨の有る軍とみた。ペルシャとやる前の訓練にちょうど良い」
「アハローンと共に前衛を任せる。見事止めてみせい! ガハハハハハ!! 」
ジンギス・カァンは、豪快に笑ってみせた。この男は惚れ込んだ男には、とことん心を開く。
「貴様に命令される筋合いは無いが、前世に帰る為だ。仕事はこなして見せるさ」
そう言って馬足を早め、軍の前方に向かって走り出した。
アハローン。ユダヤ教における司祭の祖。ユダヤの秘技、魔術奥義を全て体得した古代オリエント最強の魔術師。ヘブライの民をエジプトより脱出させる手伝いをした。(出エジプト)
預言者モーゼの実の兄である。
ローマ帝国のエジプト駐留軍にあがらい続けて、弾圧されたヘブライの民をモーゼと共に約束の地へと導いた。シナイ山にて、モーゼは神託(十戒)を受け取るために山頂に登ったが、アハローンは登る事を許され無かった。そして残った民達を扇動し、悪魔おろしの儀式を行い神の怒りを買う。その呪いの力を常に身体に受けている。
【羅生門】をお送りしました。
(映画【羅生門】を観ながら)




