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第96話 事情聴取と大金

ウィリアムとの決闘の翌日、俺は昨日の事でムミータに事情聴取をされていた。


「なるほど。

では、やはり他の人達が言うようにあの日はウィリアムがあなたを殺そうとしたと」


「はい、それを庇ってアネッタさんが怪我をしました」


俺が頷いて返すとムミータは紙に何かを書き、その後俺の方を見た。


「分かりました。

他の人達も同じことを話していましたし、これが真実で間違いなさそうですね」


ムミータはそう言うと、「ふー」と息を吐いた。


「それにしても、まさかこんな事件が起こるとは」


「今までは起きたことがなかったんですか?」


「過去に生徒間での決闘はたくさんありましたが、今回のようなケースは初めてですね。

決闘の後というのは、勝者と敗者でその人たちの格付けが済んでいます。

勝者も敗者も、それについては文句を言わないというのが礼儀でありマナーですから」


「じゃあ、やはりウィリアムさんは・・・」


「退学でほぼ間違いないでしょう」


「まぁ、それが最善な落としどころですね」


ふと視線を感じて、俺は顔をあげた。


すると、こちらを見ていたムミータと目が合った。


ムミータは俺の顔をジッと見つめている。


「えっと、僕の顔に何かついてますか?」


「いえ、私も昨日の現場を見ましたがあの時とはあなたが別人みたいな感じがして」


「・・・ロミアにも話しましたが、あの日の事は途中から覚えていないんです」


「記憶が無いのですか?」


ムミータに尋ねられて、俺は頷いて返した。


「はい。

僕が覚えているのは、アネッタさんが僕を庇ってくれた所までです。

その後僕がウィリアムさんをボコボコにしたらしいですが、そこの記憶は全く無いです」


「・・・そうですか。

確かに、あの時は普段と様子が違っていていたので私もおかしいとは思っていました」


「そういえば、ロミアから僕を先生が止めてくれたと聞きましたがもしかしてムミータ先生が?」


俺が尋ねると、ムミータは首を横に振った。


「いえ、あなたを止めたのはボルグ校長です」


「ボルグ校長が?」


「えぇ、止めたといってもあなたの肩に手を置いて何かを囁いただけですが。

そのあと、あなたが気絶したのでイヴァンが寮の部屋へ運んでいました」


「そうだったんですか。

それにしても、ボルグ校長が」


俺、何言われたんだろう。


何か気絶させられる魔法でもかけられたのかな。


「今度会う機会があれば、お礼を言っておいた方がいいですよ」


「分かりました。

ムミータ先生にも、色々ご迷惑をおかけしました」


俺はそう言ってムミータに頭を下げた。


「気にしないでください、これも教師の仕事です。

あなたこそ、これから大変ですよ」


「ん?どうしてですか?」


「あなたに関して色々な噂が流れています。

大体は良い噂ではありませんが」


「・・・それは、本当ですか?」


「えぇ、そのほとんどがあなたがウィリアムにした事に尾ヒレ背ビレがついたものですが。

ただ、不意打ちで殺されかければ誰だって怒りますしやり返しもします。

いささか今回の噂はやりすぎだとは思いますね」


「まぁ、僕自身これまでに色々な噂がありましたから。

そのせいで余計に酷くなっているんだと思います」


今さら噂が増えた所で俺は何とも思いはしないけど、問題はロミア達だよな。


あいつらに変な被害がいかなきゃ良いけど。


「その事に関しては、申し訳ありません。

私が早めに気付いて手を打っていれば、こんなに噂を広めずに済んだのですが」


そう言うと、ムミータは俺に向かって頭を下げた。


「そんな、別にムミータ先生のせいじゃないですよ。

僕の日頃の行いのせいですよ」


「いえ、教師とは生徒に授業をするだけが仕事じゃありません。

生徒が過ごしやすい学校を作るのも、教師の仕事です」


「・・・良いんですよ。

先生は充分教師の務めを果たしているでしょう」


ロミアから聞いた話だが、ムミータの授業で丁寧で分かりやすく生徒から人気があるらしい。


ムミータ自身も生徒から質問などがあれば親身に答えてくれるからだろう。


「私はまだまだ半人前ですよ。

勉強しなくてはいけないこともたくさんありますし」


「先生は、そういうところ真面目ですよね」


「よく可愛いげがないと言われます」


ムミータの言葉に、俺と彼女は笑った。


その後、少し話しをして俺の事情聴取は終わった。








今日は受けたい授業が無いので俺は寮の自室で読書を、シガラは授業の復習をしていた。


前までだったらこれが当たり前の光景だったのだが、今回は前までいなかった人物が俺のそばに立っていた。


「ガルファット様は読書がお好きなんですか?」


俺は質問をされて、読んでいた本に栞を挟んで質問してきた人物を見た。


「えぇ、趣味みたいなものですね」


「どんな本をお読みになるんですか?」


「うーん、特にジャンルにこだわりはないですけどバーデン・アリソンを題材にした冒険物とかはそこそこ読んでますね。

というかアネッタさん、別に立ちっぱなしじゃなくても椅子とかベッドに座って良いんですよ?」


俺がそう言うと、アネッタは首を横に振った。


「私はガルファット様に仕えるメイドです。

ご主人様の前でそんな事できません」


「僕は怒ったりしませんよ」


アネッタはこう言っているが、俺は別に何もない時はメイドだって休んでいいと思う。


今日の朝だって、アネッタは俺とシガラの洗濯物を洗ってくれて俺たちがいない時は部屋の掃除もしてくれた。


前までは俺やシガラが自分でやっていたし、俺もシガラもそれだけでも充分ありがたいんだ。


しかも、アネッタはシガラが褒めるくらい手際が良い。


むしろ、立ちっぱなしだと俺達のほうが申し訳なく感じる。


「・・・本当は、そういう優しさに慣れていなくてどうすれば良いか分からないんです」


そう言うと、アネッタは少し困ったように笑った。


この人、ウィリアムの所でどんな生活送ってきたんだよ。


「分かりました。

じゃあ、慣れた頃にもう一回言いますね」


「ありがとうございます」


アネッタはそう言って、俺に頭を下げた。


まぁ、フィーネも俺に敬語使わなくなるまで少し時間がかかったしアネッタも時間をかければ良いか。


「ふー、終わったー」


机の方から声が聞こえたので見てみると、シガラが伸びをしていた。


どうやら、勉強のほうが一段落ついたようだ。


「お疲れ様。

相変わらず真面目だな、シガラは」


俺がそう言うと、シガラはこちらを向いて笑いながら返した。


「復習しないとすぐに忘れちゃうからね。

この頃他の授業も難しくなってきてるし」


「シガラ様、そのまま後ろを向いて下さい。

肩をお揉みしますよ」


そう言って、アネッタがシガラに近付いていく。


「え?いや、何か悪いですしいいですよ」


「私はガルファット様のメイドですが、この部屋に住めているのはシガラ様のおかげでもあります。

それくらいさせてください」


「う、うーん、そう言われても」


少し困ったような顔をしているシガラに、俺は笑いながら言った。


「シガラ、アネッタさんもそう言ってるんだし揉んでもらったらどうだ?」


「うーん・・・そうだね。

それじゃあ、お願いします」


「はい、承りました。

それでは、後ろを向いて下さい」


アネッタに言われ、シガラが後ろを向くとアネッタがシガラの肩を揉み始めた。


多分、しばらくアネッタはこの部屋で過ごすことになるだろうしシガラにも少しずつ慣れてもらわなきゃいけないからな。


ああいうのもコミュニケーションの一つだ。


”コンコン“


突然、入り口の扉をノックする音が聞こえた。


「ん?誰だ?」


「僕が出ようか?」


「いや、俺が出るよ」


俺はベッドから降りて、入り口の扉を開いた。


「・・・ん?」


そこには、見たことのないクレアと同い年くらいの二人の魔族の姿があった。


二人とも、大きな麻の袋を持っている。


「えっと、どちら様、ですか?」


俺が尋ねると、二人は怯えた顔でソワソワしながら尋ねてきた。


「・・・シガラ・ワルギナスさんはいらっしゃいますか?」


「え?シガラなら中にいますけど」


「ん?あー、あの時の」


こちらの会話を聞いていたのか、シガラがこっちに来た。


「こ、これを」


そう言って、二人の魔族は持っていた計3つの袋を渡してきた。


「ん?これは?」


「昨日の賭けのお金です」


「昨日の賭けのって、あの決闘のですか?」


シガラが尋ねると、ブンブンと首を縦に振った。


「そ、それではこれで失礼します」


二人はそう言うと、逃げるように走ってその場を後にした。


「・・・とりあえず、中に運ぶか」


「そうだね」


俺とシガラは扉を閉めて、袋をベッドの上に置いた。


「それにしても、何でこんなに袋が大きいんだ?

細かいので入ってるのか?」


袋は一つ一つがずっしりと重く、大きさが俺の顔よりデカイ。


「ひとまず、中を確認するか」


「じゃあこれを開けてみるよ」


そう言って、シガラが袋の一つを開けて中を見た。


その瞬間、シガラの体が固まった。


「どうしたんだ?」


俺が尋ねると、シガラは震えながら俺を見て袋の中を指さした。


「こ、これ、これ、大変」


「ん?」


俺はシガラに近づき、指の指された袋の中を見た。


「・・・はああああ!?!?!?」


袋の中には、大量の金貨が入っていた。


多分、この袋の中身すべてが金貨だろう。


ここで、一つ確認しておく。


金貨は四か国すべてで統一されたお金の中で、一番価値が高い。


一枚あたり、日本円の一万円くらいの価値があるだろう。


それが、袋の中に、びっしりあるのだ。


「まさか!」


俺は残りの二つの袋を開けた。


「・・・嘘、だろ」


残り二つの袋にも、同じようにビッシリと金貨が入っていた。


「な、なんだこれ」


「こ、これは・・・」


俺の隣にいたアネッタも驚いた声を出している。


当たり前だ、誰だっていきなりこんな大金が目の前に現れたら驚くだろう。


「いや、確かに俺が勝つ方に賭けたら倍率は高かったけどこれはいくらなんでも・・・」


「は、初めて見たよ。

こんな大金」


隣でシガラが開いた口が塞がっていない状態で、3つの袋を見ている。


いや、俺だって実際の現生でこんな大金は見るの初めてだよ。


「と、とりあえずいくらあるか確認してみようぜ」


「う、うん、そうだね」


「アネッタさん、手伝ってもらえますか?」


「は、はい」


その後、俺、シガラ、アネッタの三人で一人一つの袋の中身を調べた。


「・・・なんだよこれ」


俺は二人に教えてもらった数字を紙に書き、自分の数えた金貨の数を書いてその数字を足した。


「600枚って、バカか」


そう、3つの袋には計600枚の金貨が入っていた。


日本円に換算すると、600万円だ。


「あの一回の決闘で、何でこんな大金が動いてるんだよ」


「多分、貴族の人達とかが大金を賭けたんだと思うよ。

ああいう人達は、そういう賭けごと好きな人が多いから」


いや、にしてもだろ。


たった10分ちょっとでどんだけの金が動いてんだよ。


まぁ、それよりもだ。


「この金、どうしよう」


「何に使うかってこと?」


シガラから尋ねられて、俺は首を横に振った。


「いや、ロミアは分からないけど俺はいきなりこんな大金の使い道なんて考え付かねえよ。

ただ貯金するにしても、さすがに7歳の子どもが持つような金じゃないしな。

うーん・・・シガラ、悪いけど預かってくれないか?」


俺が頼むと、シガラは慌てて首を横に振った。


「む、無理だよ!

こんな大金保管してたら、心配で眠れなくなっちゃうよ!」


「そうだよなぁ」


この世界には銀行なんてものはないし、あと預かってくれそうなのはイヴァンかな。


いや、イヴァンも誰かと一緒の部屋だから保管出来ないか。


と、なるとあと頼めそうなのは・・・


「アネッタさん、預かってもらえないですか?」


「わ、私がですか!?」


俺の言葉に、アネッタが驚いた表情で返す。


「はい、他に頼めそうな人もいませんし。

ロミアは分かりませんが、最低でも僕のは保管してもらいたいんです」


「そんな、私なんかにそんな大金を・・・」


戸惑いながら言うアネッタに、俺は笑いながら返した。


「まぁ、僕のお金だったら少しくらい使っても大丈夫ですから」


「そ、そんな事できません!」


「それくらいの気持ちで良いって事ですよ」


「・・・わ、分かりました。

責任をもって保管します」


こうして、俺は自分の身に余る大金の保管をアネッタに頼んだ。

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