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第94話 ギャンブルと圧倒

魔法学校の演習場。


普段この場所を使う人はそこそこいる。


しかし、今日に限っては皆使うよりも使うやつらを見るに徹していた。


「なんか、すごいことになってるね」


俺の隣で辺りを見渡しながら言ったのはロミアだった。


彼女の言うとおり、この場所はすごい事になっていた。


俺達を取り囲むように大量のギャラリーがいるのだ。


人族、魔族、エルフ族、一角族、獣人族、いる人達の種族はバラバラだが皆ここにいる理由は多分同じだろう。


「どうやら、どこからか君とウィリアムが決闘するという情報が漏れたみたいですね」


イヴァンが苦笑いしながら俺に言ってきた。


「これだけ人に見られていると、逆に戦いにくいな」


「仕方ないよ、なかなか見れない組み合わせなんだし」


俺の言葉に、シガラが返してくる。


「しかも、なんかギャンブルの対象になってるしな」


誰か仕切り役でもいるのだろうか、周りから「俺はウィリアムに賭ける!」「俺はガルファットのほうだ!」と俺とウィリアムどちらが勝つかに金を賭けている声が聞こえる。


ちなみに悲しむべきかそれとも必然というべきか、8.5対1.5くらいの割合でウィリアムに賭ける人が多い。


何故だろう、気にしないようにしてはいるのだが少し悲しい。


・・・俺もひと口乗るか。


「シガラ」


俺はシガラの名前を呼んで、ポケットから小さな袋を取り出してシガラに手渡した。


「ん?これは?」


「俺の持ち金。

これを俺に全額かけてきてくれないか?」


俺の言葉を聞いて、シガラが袋を開けて中身を確認した。


「えっと、1、2、3・・・だっ、ダメだよこんなに!

かなり入ってるよ!?」


シガラが慌てて袋を返してきたが、俺はそれを受け取らなかった。


「いいんだよ、俺にだって師匠や指導してくれた人達の為にも負けられないっていう小さいプライドがあるんだ。

それに、これで負けるわけにはいかなくなったからな」


「・・・わ、分かったよ」


俺が笑いながら言うと、シガラは渋々と言った感じで頷いた。


「ねぇ、ガル」


隣で俺とシガラのやり取りを見ていたロミアが俺の名前を呼んだ。


「ん?どうした?」


「今日の決闘、ガルは勝てると思う?」


ロミアの質問に、俺は真面目に答えた。


「さぁな、正直相手の実力が分からないから何とも言えない。

ただ、元から負ける気はないさ。

何がなんでも勝つ気だよ」


「・・・そっか」


ロミアはそう呟くと、自分のポケットから俺のと似たような小さな袋を取り出してシガラに渡した。


「シガラ、これもガルが勝つ方に全部賭けてきて」


「ロミアちゃんまで!?」


ロミアの急な行動にシガラが驚いた。


「ロミア、止めておけ。

ていうか、その金どうしたんだ?」


「オアシスで働いていた時にもらったお金だよ。

何に使うか考えていたんだけど、結局決まらなかったから」


「だったらなおさら止めておけ。

それ、お前が自分で働いてもらった大切な金だろ。

こんな賭け事に使うべきじゃないよ」


俺がそう言うと、ロミアは頬を膨らませて俺を見た。


「大切なお金だから、自分で使い道を決めたいの。

それに、ガルが勝てばお金が増えるんでしょ?

もしこれで賭けなかったら後悔するもん」


「お前、俺が負けるってことは微塵も考えてないんだな」


俺が呆れながらそう言うと、ロミアが笑顔で俺の顔を見ながら言った。


「だってガル、勝つ気なんでしょ?」


ロミアのその言葉に、俺は何も言えなくなった。


そういえば、昔ジークが言ってたな。


ロミアにとって、俺は目標だって。


・・・たまには、自分に自信を持つのも悪くはないか。


「ロミア」


俺は彼女の名前を呼び、優しく頭を撫でた。


「増えた金の使い道、ちゃんと考えておけよ」


「うん!分かった!」


ロミアが笑顔で頷く。


「君達のそういう所が、とても羨ましいです」


イヴァンが笑いながら言ってきた。


「多分しないとは思いますけど、イヴァン先輩はどちらにも賭けないでくださいね」


「分かっています。

私はあくまで、公平な審判ですから」


俺たちがそんな話をしていると、前の方がどよめいた。


そして、少しすると前にいた人達が左右に避けそうやってできた道を知っている面々が歩いてきた。


エマ、ウィリアム、レイナ、そしてアネッタだ。


「どうやら、あちらも到着したようですね」


「そうですね。

じゃあシガラ、そういうことだから俺とロミアの金を頼んだ」


「う、うん」


シガラは頷くと、隣にいたヘレナと一緒に人混みの中に消えていった。


俺はそれを見た後、ロミアとイヴァンと共に前を向いて歩き出す。


そして、魔法結界の中に入りエマ達と再び対面した。


「それではガルファット様、ルールの確認をいたしましょうか」


「えぇ、そうですね」


俺はエマの言葉を聞いて、イヴァンを見た。


「まず初めに、審判はイヴァン先輩にしてもらいます。

本当はお互いに平等な人を審判にするのが適切だと思ったんですが、逆にお互いに面識があるイヴァン先輩のほうが審判がしやすいと思いまして」


俺がそう言うと、イヴァンが話し出した。


「そういうことで、私も審判を請け負ったのですがいかがですか?

まぁ審判といっても勝負がついたと思った時に、止めるだけですが」


「分かりました、それで構いません」


「良かったです。

それで確認ですが、もし僕が勝ったらアネッタさんを貰います。

逆にもしウィリアムさんが勝ったら、僕はエマさんの後ろ楯になります。

これも、よろしいですね?」


俺が尋ねると、エマは頷いた。


「はい、了承しました」


俺はアネッタのほうを見た。


アネッタは少し心配そうな顔で俺を見ていた。


俺はそんなアネッタに、少し微笑んで小さく頷いた。


「それでは、早速ですが始めますか」


俺がそう言うと、エマとレイナが結界から出るために左へ歩いていく。


「それじゃあガル、頑張ってね!」


「あぁ、勝ってくるよ」


俺がそう言うと、ロミアとイヴァンもエマ達のあとについて行く。


ウィリアムはすでに俺に背を向けて、結界の端のほうへと歩いていっている。


「ガルファット様」


俺の名前を呼んだのは、アネッタだった。


「ん?どうしました?」


俺が尋ねると、アネッタは相変わらず心配そうな顔で俺を見ながら言った。


「その、どうかお怪我だけはなさりませんように」


アネッタの言葉に、俺は笑いながら返した。


「まぁ、善処します」


俺の言葉を聞くと、アネッタも皆のいる方へ行き結界を出た。


俺も、ウィリアムとは逆のほうへ歩いていき結界の端へ辿り着くと後ろを振り返りウィリアムを見た。


ウィリアムはすでに、腰にさしていた剣を抜いて準備万端という感じで俺を見ていた。


それを見て、俺もジークから貰った愛用の両手剣を抜いて構える。


イヴァンが右腕を挙げて高らかに言った。


「それではこれより、ガルファット対ウィリアムの決闘を始める!

よーい・・・始め!」







イヴァンの合図と共に、ウィリアムがガルファットへと向かって一直線に走り出した。


ガルファットはそれを見て、その場から一歩も動かなかった。


そして、ウィリアムが一太刀浴びせようと下から上への斬り上げでガルファットへ攻撃する。


しかし、ガルファットはその攻撃を横へ華麗に避けた。


またウィリアムが攻撃をすると、ガルファットもまたそれを余裕だと言わんばかりにかわす。


必死に剣を振るいガルファットを攻撃するウィリアムと、涼しい顔をしてそれを避けるガルファット。


「あのウィリアムが、簡単にあしらわれている・・・」


剣術の事を知らない私でも悟った。


ガルファット・ファーリンは剣術ですらウィリアムより上なのだと。


「そんな、ガルファットが剣術を扱えるなんて報告は一回も・・・」


そう言ったのはレイナだった。


たしかに、レイナの報告ではガルファットが剣術を扱えるという報告は聞いたことがなかった。


ずっと隠していた?


それとも、つい最近身に付けた?


いえ、ウィリアムは剣術は中級クラス。


その辺の剣王と対等に渡り合えるくらいの腕前は持っている。


最近身に付けた程度の腕では大抵敵わないはずですが。


「やっぱり彼は強いですね」


そう言ったのは、私の隣に立つイヴァンだった。


「あなたは、こうなる事が分かっていたのでしょう?

ロミアさん」


イヴァンはそう言いながら、隣に立つ少女の方を見た。


その少女は前を向いたまま首を横に振った。


「ううん、私はガルが勝つって言ったからそれを信じただけ。

それに、あのウィリアムって人はガルに勝てない」


「それは、何で、かな・・・」


息を切らしながらロミアにそう尋ねたのは、いつの間にか後ろにいた魔族の男の子だった。


その後ろにはピッタリとつくように、エルフ族の女の子がいる。


もしかして、この子達が報告にあったガルファットの友人たちかしら。


「シガラ、ヘレナ、おかえり。

だって、あのウィリアムって人の剣を振るスピード遅いもん」


『・・・え?』


私が、レイナが、それを聞いていた者すべてが固まった。


「少し待ってくれ!」


ロミアに向かってそう言ったのはレイナだった。


「ウィリアムはあれでも剣術に関しては中級の腕を持っている。

ヘタな剣王には負けないくらいの腕だ。

そんな者の剣が遅いとは考えにくいんだが」


急に話しかけられて驚いたのが、ロミアは驚いた後少しそわそわしながら話した。


「え、えっと、ガルのパパも剣王でガルと戦っているの見たことあるけどガルのパパよりもウィリアムって人の動きが遅いです」


「じゃあ、ガルからしたら・・・」


シガラの言葉に、ロミアは頷いて返す。


「うん、私で遅く見えるんだもん。

多分ガルにはもっと遅く見えてるんじゃないかな」


ロミアの言葉を聞いて分かった。


たしかに腕はウィリアムのほうが上かもしれない、しかしガルファットはそれより早い攻撃に慣れてしまっている。


つまり、ガルファットがウィリアムに剣術で勝っているのではない。


ガルファットとウィリアムでは、生きてきた環境が違いすぎる。


七歳の子どもが自分の倍も年が上の人間をあしらう。


この言葉だけでも恐ろしい。


「・・・レイナ、諦めましょう」


私が呟くようにそう言うと、レイナは悔しそうな顔をした。


「しかし・・・」


「あなたは賢いからもう分かっているのでしょう?

ウィリアムには、ガルファットに勝てる要素がない事に」


私の言葉に、レイナが顔を背けた。


元々ウィリアムはガルファットに剣術で勝負をすることを決めていた。


魔法ではどう足掻いても勝てない、それなら魔法使いの弱点である接近戦で勝負をするのは基本。


しかし、その剣術ですらガルファットのほうが上手だった。


もうウィリアムに、勝ち目はなかった。


二人の決闘に目を向けた。


その時、勝負が動いた。


今まで攻撃を避けるだけだったガルファットがその隙をついてウィリアムの手を剣の腹で叩き持っていた剣を落とさせた。


慌てて剣を拾おうとしたウィリアムの喉元に、ガルファットの剣の剣先が突きつけられた。


この瞬間、勝敗は決した。


「それまで!勝者、ガルファット!」








「ふぅ・・・」


俺は自分が勝利者だという声を聞いて、安堵の溜め息を吐いて剣を鞘へと納めた。


「ありがとうございました」


そして、ウィリアムに頭を下げた。


ウィリアムは何も言わず、顔を伏せたままだった。


俺はあえて声をかけず、ロミア達の元へ向かった。


真剣勝負で、勝者が敗者に多く言葉をかけることはない。


それが礼儀だ。


「ウォォォー!ヨッシャー!」


「クソッ!なんだよ!」


周りからは色々な声が聞こえてくる。


多分喜んでいるのは、この決闘で俺が勝つ方に賭けた奴らだろう。


そして悔しがっていたり、ウィリアムに向かって悪態をついたり悪口を言ったりしている奴らはウィリアムが勝つ方に賭けた奴らだろう。


それにしても、なかなかにヒドイ野次が飛んでいるな。


まぁ、俺も普段だったら庇うのだが今回はそういうことはしない。


これが相手が友達だったりしたら別だけど、ウィリアムと俺は友達でもないし仲が良いって訳でも無いからな。


「ガル!お疲れ様!」


俺に笑顔でそう言ってくれたのはロミアだった。


「やっぱり私の予想通りでしたか」


イヴァンが安心したように俺に言ってきた。


「いえ、ウィリアムさんもなかなかに強かったですよ」


「でも、ガルが圧倒しているように見えたよ」


シガラの言葉に、俺は首を横に振った。


「いや、ウィリアムさんだって基本の技から応用技も何個か混ぜていたしなかなかに強かったのは確かだよ。

俺が勝ったのは、ただ見ていたからだよ」


「・・・見ていたとは?」


俺にそう尋ねてきたのは、エマだった。


俺はエマのほうを見た。


「僕の師匠の教えです。

見えないものを見ようとするのは難しい。

だから、まずは見えるものを全部避けられるようになれば良い。

そうすれば、見えないものもいつか見えるようになる。

僕の場合、未だに見えないもののほうが多いんですけどね」


「・・・私には分からない領域の話です」


「まぁ、簡単にいえば相手をちゃんと観察しろって事です。

それでは、約束通りアネッタさんは貰っていきますね」


「はい、約束は約束です。

お譲りします」


俺はエマの言葉を聞いて、アネッタの元へ歩いていった。


「依頼はちゃんと果たしましたよ」


俺が言うと、アネッタは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。

ガルファット様、これからよろしくお願いします」


アネッタはそう言って、俺に頭を下げた。


うーん、あまり固いのは好きじゃないんだけどまぁ後々直してもらうか。


こうして、俺とウィリアムの決闘は俺の勝利で幕を閉じ・・・


「ガルファットー!!」


それは怒声だった。


俺はその声のした方を振り向いた。


ウィリアムだ。


ウィリアムがこちらに走ってきていたのだ。


その両手には先程の決闘で使われていた剣を持っていた。


そして、ウィリアムの剣が俺に突き刺さ・・・


「ガルファット様!」


「え・・・」


俺の足は動かなかった。


多分、そのままウィリアムの剣が突き刺さっていただろう。


アネッタが俺の前に出なかったら。


「アネッタ!」


ウィリアムの剣はアネッタの背中を、腹を貫いた。


その剣先は俺の顔の前、ほんの数センチの場所で止まっていた。


アネッタの血にまみれ、その刀身を濡らしながら。


「ガルファット、様・・・」


アネッタは、俺の顔を見て安心したように笑った。


「ご無事で、よかった」

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