第90話 言語と尋ね人
魔法学校に入学してから、色々な魔法を覚えていった。
実用性のあるものからなかなかに使わないもの、取り扱いを間違えたら死に直結しそうなものなど様々だ。
しかし、この学校では魔法以外にも様々な事を教えている。
そして俺も、今は自室で魔法以外の事を教わっていた。
「どうやら、日常会話程度なら問題はなさそうですね」
俺の目の前に座るイヴァンが笑顔で返してきた。
しかし、その言葉は俺たちが普段使っているいわゆる人間語ではなく一角族の言語だった。
「はい、イヴァン先輩の教え方が上手なおかげでスラスラ覚えられました」
俺も笑顔で、一角族の言語でイヴァンに返す。
「いえ、そんなことはありませんよ。
君の物覚えがいいおかげです」
「ありがとうございます。
ですが、初めて習った言語で最初に下着の色の訊き方を教えるのはやめてください」
「何を言いますか。
言語を覚える時は、普段よく使う言葉から入るのが一番覚えやすいんですから」
「いつから僕は、普段初対面の女性に下着の色を尋ねる人間になったんですか」
「初対面の女性に下着の色すら訊けないのは男として恥ずかしいですよ」
「初対面の女性に下着の色を訊く人は色々と恥ずかしいですよ」
会話のとおり、イヴァンは相変わらずで一角族の言語を教えている時にもちょくちょくエロイものなどを入れてきた。
個人的には大して覚える気はなかったのだが、イヴァンがそういう言葉を言う度につっこんでいたら何個か覚えてしまった。
「そういえば、エルフ族や獣人族の言語もあるんですよね。
エルフ族のほうは、ヘレナあたりに頼んで教えてもらおうかな」
「一角族も獣人族もエルフ族も、言語は魔族語がベースになっていますから。
一角語を覚えていれば、他の言語を覚えやすいかもしれませんね」
「魔族語がベース、か。
シガラなら魔族語分かるかな」
ちなみに、俺と同じ部屋の主であるシガラはヘレナと個人レッスン中だ。
「獣人語のほうは教えてくれそうな方はいますか?」
イヴァンに尋ねられて、俺は首を横に振った。
「あいにく、知り合いに獣人族はいないんですよね。
獣人族の方と友達になった時には、ぜひともさせてもらいたいことがあるんですけどね」
「ほぉ、それは何ですか?」
「耳と尻尾を触りたいです」
俺の言葉を聞いて、イヴァンが苦笑いした。
「それはまた、なかなかに難しいことですね」
「そうですか?
たしかに、初対面の人には触らせてくれないとは聞きましたけど」
「獣人族の耳や尻尾は、我々一角族の角と同じくらい敏感な部分ですからね。
ですが、その分の見返りは大きいですよ」
「見返り?」
「えぇ、獣人族の方は耳や尻尾を触られると体の力が抜けて甘えてきます。
うっとりした目で求めてきてそのままの流れで、なんていう事は結構あることなんですよ。
いつもは厳しい年上のお姉さんも、素直じゃない年下の子も、皆耳と尻尾を触って誘惑すれば大抵の方は落とせますよ。
普段のギャップを見れるのも良いことですし」
「それはまたすごいですね。
そこらの媚薬より効果的だ。
でも、何でイヴァン先輩がそんな事知ってるんですか?」
俺が尋ねると、イヴァン先輩は誇らしげに胸を張った。
「昔、獣人族の女性から教えてもらいました。
ちなみに、実践も兼ねて」
「実践したんですか!?」
「えぇ、効果は抜群でしたよ。
最初に耳を触った瞬間からとても艶かしい声を出していました。
とてももどかしそうな、切ない顔をしながら潤んだ瞳で私を見つめて押し殺しながらも息が荒くなるのが見て分かりました。
そんな状況で、尻尾の付根を触ったらとても可愛い反応をしてくださいました。
相手もガマン出来なくなったのでしょう。
そのまま私を押し倒して、流れでしてしまう寸前までいきました」
「・・・すごいですね。
あれ?でも、イヴァン先輩結婚していないって事は・・・」
「えぇ、残念ながらその方は処女ではありませんでした」
イヴァンはとても悲しそうな顔をして、窓の外を見つめた。
「それは、悲しいですね」
「本当に。
まぁ元々そのあたりのノリは軽い方で、色々な人と経験があると有名な方でしたので予想してはいましたけど。
それに、幸いにもその方は巨乳の方でしたからダメージは少なかったです」
「あ、やっぱりそこは気にするんですね」
「もちろんです。
そこを妥協するわけにはいきません」
この人は、こういうところ妥協しないのが本当にスゴいよな。
これで中身が残念じゃなければいいのにとつくづく思う。
「そういえば、シガラ君は今日も個人授レッスンのほうを?」
「はい、相変わらずヘレナと仲良くやっていますよ。
ただ、シガラの教え方がやっぱり上手いらしくヘレナも扱える魔法が着実に増えてますね」
「それは良いですね。
正直、あの二人はなかなか良い組み合わせだと思っているんですよ」
「まぁ、確かにヘレナもシガラとの個人レッスンは楽しみにしていますしね」
「それに、君は知っていますか?
エルフ族というのは、巨乳の女性が多いんですよ」
イヴァンが少しにやつきながら言った。
「・・・まさか、イヴァン先輩シガラとヘレナがくっつくって考えているんですか?」
「えぇ、わりと本気で考えていますよ。
彼は面倒見が良いですし、何より二人とも仲は良いですからね」
まぁ、確かにシガラとヘレナは仲が良い。
シガラはヘレナに合わせた練習内容を考えたりするし、ヘレナもシガラの指導方法は自分に合っていると言っている。
だけど、あの二人が、ねぇ。
「まぁ、そういう事は本人同士で決めるものですからね。
周りがとやかく言うことでもないでしょう」
「それもそうですね。
ところで、あの机の上に置いてある手紙はどうされたのですか?」
そう言って、イヴァンが机の上を指差した。
「ん?あー、あれですか。
あれは僕の師匠から送られてきた手紙です」
実は昨日、クレアから俺とロミアへ手紙が届いた。
手紙によると、どうやらクレアは今バルファンクにいるらしい。
特に体調に変わりなく、バイトで貴族のお嬢様の護衛をしているらしい。
クレアが護衛ならそのお嬢様も安心だろう。
「君の師匠ですか、どんな方何ですか?」
「どんな方、ねぇ」
イヴァンに尋ねられて、俺は考え込むように上を見たがクレアの特徴をポツリポツリと言った。
「年は僕の8歳上で、カッコいい女性です。
少し女性らしからぬ発言をしますが、中身はなかなかな乙女ですね。
あと武術の使い手で、僕は一度も勝ったことがないですね」
「ほぉ・・・ちなみに胸のサイズは?」
「貧乳ですね」
俺の答えに、イヴァンは嬉しそうに笑った。
「ぜひともお会いしたいですね」
「イヴァン先輩、うちの師匠に手を出すのはやめたほうがいいですよ」
「おや、ダメですか?」
「ダメというか、僕の師匠は自分より強い人がタイプですからね。
僕なんて修行の時に投げ飛ばされたり殴り飛ばされたり関節技決められたり、よく死ななかったなぁって思うこと多々ありますよ」
ちなみにこれは大袈裟に言っているわけではなく事実である。
紅に体を丈夫にしてくれって言っておいてよかったとつくづく思う。
「それは・・・やめておきましょうかね」
イヴァンが苦笑いしながら言う。
申し訳ないクレア、またお前の結婚が一歩遠のいた。
「そういえば、イヴァン先輩ってウィリアムって人知っていますか?」
「ウィリアムといえば、あの生徒会のですか?
まぁ、多少は」
「実は、最近ウィリアムの噂を耳にする事があるんですけどなんか悪い噂ばっかりなんですよね」
俺がそう言うと、イヴァンは心当たりがあるのか「あー」と言いながら少し困ったように笑った。
「あの方は女性関係に関しては私よりも酷いですからね。
本命の方はおらず、女性を取っ替え引っ替えに相手してすぐに捨てるという男の風上にも置けない人ですから」
「やっぱりそうでしたか。
なんか、そのいわゆる捨てられた女性達が噂話していたんですよね」
「私もあの方には少し困っているんですよ」
「なんでイヴァン先輩が?」
俺が尋ねると、イヴァンはものすごく悲しそうな顔をした。
「あの人のせいで、この学校から・・・処女が減っていくのです」
・・・あー、そういうことか。
イヴァンは腕で顔を隠してはいるが、明らかに泣いていた。
「うぅ、こっちは一人一人吟味しているのに。
何ですかあの人は!何であんなにモテるんですか!
顔ですか!家柄ですか!お金ですか!
何であんな人がモテて私はモテないんですか!」
「いや、イヴァン先輩がモテないのは・・・」
この人の場合、初対面の女性に処女か尋ねたのが効いてるんだろうな。
まぁ、あっちは貴族の家系で金もそこそこ持っている。
かたやこっちは、顔は負けていないが財力は乏しく脳内がピンク色だからな。
まぁ、女を取っ替え引っ替えしている奴と脳内ピンク色のやつどっち選ぶかって言われたら、俺は脳内ピンク色を選ぶけど。
「まぁまぁイヴァン先輩。
いつか良い人に出会えますよ」
「・・・期待しています」
まぁ、この人脳内はピンク色だけどれっきとした紳士だからな。
その魅力に気付く女性は多分いてくれるはずだ。
・・・その人が処女で貧乳なのを願うしかないか。
「では、私はそろそろ自分の部屋に戻りますね」
そう言うと、イヴァンは立ち上がった。
どうやら、涙も止まったらしい。
「今日はありがとうございました。
また次も教えてください」
俺がそう返すと、イヴァンは笑顔で頷いた。
「えぇ、私の都合の良い日であればいつでも良いですよ」
そう言って、イヴァンは部屋を出た。
「はぁ・・・」
俺はベッドで横になり、天井を見ながらあることを考えていた。
獣人族についてだ。
せっかく一角語を少し使えるようになったんだし、出来ることなら他の言語も使えるようになってみたい。
ただ、俺は獣人族に知り合いはいない。
まぁ、誰か獣人族の人と友達になれれば手っ取り早いんだけどなかなか出来ないんだよな。
おかげで、時々遠くから獣人族の人を見ている事が多いんだけど実際のところあれは大丈夫なのだろうか。
端から見て、俺は危ない人になっていないだろうか。
まぁ、耳や尻尾を触りたいって気持ちを抑えれば良いんだろうけど、どうしてもあれを見ると触りたくなるんだよなぁ。
”コンコン“
俺が自分の欲望について考えていると、入り口の扉をノックする音が聞こえた。
シガラが帰ってきたのかな。
俺はベッドから降りて、扉へと向かう。
あれ?でもシガラって部屋の鍵持っているよな。
俺は疑問に思いながら、扉を開けた。
「え?」
そこには、モデル体型で猫耳と猫の尻尾のついているお姉さんが立っていた。
しかも、微笑みながら。
「・・・誰?」




