第89話 定期報告と個人情報
いつもと変わらない生徒会室に、いつもと変わらぬ面々。
ウィリアムは相変わらずの仏頂面で私の横に立ち、私の正面にはヘレナが座って姿勢を真っ直ぐに正している。
そのレイナの態度は少し緊張気味といえるでしょう。
しかし、それも仕方のないことだと思います。
なぜなら今回は、いつもとは違う話をするのですから。
「それで、観察のほうはどうですか?」
「はい。
多くの、とまでは言えないものの色々な情報が部下から入っております」
そう、今日はガルファット・ファーリンの観察を命じてから一ヶ月の節目の日。
経過報告、というのは少しおかしいかもしれませんが入手した情報の発表をレイナにしてもらう日である。
「それでは、その情報を教えてもらえるかしら?」
「はい!」
レイナは返事をすると、何個かの薄い紙の束をテーブルの上に置いた。
「まずは、ガルファット・ファーリンの受けている授業についてご報告します。
授業は主に光、闇の上級、そして基本四属性の超級魔法の授業を受けています。
そして、どの授業でもその日の授業内容はその日のうちに自分のものにしているようです」
レイナの言葉に、私は耳を疑った。
「たしか、ガルファット・ファーリンは今七歳でしたよね?」
「はい、その通りです」
「七歳で、超級魔法を扱えるのですか?」
私の質問に、レイナは重く頷いた。
「信じがたい事ではありますが、実際ガルファット・ファーリンが超級魔法を使った様子は部下が直接確認しています。
そして、これもかなり信じられないことではあるのですが・・・」
「何ですか?」
「はい。
・・・ガルファット・ファーリンは、無詠唱で四属性の上級、そして光・闇・治癒魔法の中級を扱えるようです」
「・・・」
私は、開いた口が塞がらない状態だった。
到底、七歳の子どもにできる芸当ではなかったからだ。
「たしかそれは、王宮に仕える魔法使いと同じレベルではありませんでしたか?」
「はい、その通りです。
ですが、ガルファット・ファーリンはそれを無詠唱で扱えます。
もはや才能や努力の問題ではないかと」
「おい、レイナ。
それは本当に確かな情報なのか?
お前の部下の情報が間違っているという可能性は?」
私の隣に立つウィリアムがレイナへと尋ねる。
しかし、レイナはそんなウィリアムを見て首を横に振った。
「すべてを扱えることを確認したわけじゃないが、本人が言っていた事だ。
それに、この話で驚いていては次の話には進めない」
「どういうことだ?」
レイナが私の顔を見つめた。
「これは後ほど話すつもりでしたが、ガルファット・ファーリンにはロミア・サダージュという同い歳の同郷の友人がいます。
そして、このロミア・サダージュはガルファット・ファーリンを超える逸材でした」
「ガルファット・ファーリンを、超える?」
「はい。
ロミア・サダージュも無詠唱で魔法を扱え、この学校に入学する前から水の属性は超級を扱えたそうです」
「デタラメを言うな!」
レイナの言葉を聞いて、ウィリアムが叫んだ。
「あの歳で超級を、しかも無詠唱で扱えるなど聞いたことがない!
きっとお前の部下がデマカセを言っているに決まっている!」
ウィリアムがそう言うと、レイナはウィリアムを睨んだ。
「別にそう思っていたければそう思っていろ。
まぁ、お前としてはそうでなければ面目が丸潰れだから必死になるのも無理はないか」
ウィリアムが「くっ・・・」と言って、顔を背けた。
ウィリアムは三年生にして魔法の全属性を中級まで扱える。
歳などを考慮して考えると、これでもかなり優秀なほうではあります。
しかし、先程のレイナの話が仮に本当だとしたらガルファット・ファーリンとロミア・サダージュ。
ウィリアムは、最低でも自分よりも歳の低い者二人に抜かれているということになる。
ウィリアムは元々プライドが高い。
そのため、この事実が受け入れられないのでしょう。
「ウィリアム、落ち着きなさい」
私がそう言うと、ウィリアムはこちらへ頭を下げた。
「・・・失礼しました」
「レイナ、報告の続きをお願いします」
私が頼むと、レイナは頷いた。
「はい、では次にガルファット・ファーリンの食事についてです。
これに関しては、驚くような情報はありませんでした。
偏食なども特になく、しいてあげるならロミア・サダージュが考案した料理を食べている事が多いという事くらいです」
「ロミア・サダージュが考案した料理?」
「はい、少し前に食堂での人手不足の際ロミア・サダージュ本人が調理の手伝いなどをしてその時に作られた料理です。
本人曰く、注文された料理で分からない物があった時に代用で作ったとの事ですが、その料理があまりに美味しかったらしく今では爆発的に人気な看板料理になっているらしいです」
そういえば、噂でそんな話を聞いた事がありましたね。
「ふん、でしゃばりが入って運良く成功しただけではないか」
隣でウィリアムが鼻で笑った。
「いや、実はこの判断はロミア・サダージュ本人の実力があるからこそ成功している」
「どういうことですか?」
「エマ様は、ギラール・ワルギナスという方をご存知ですか?」
レイナの質問に、私は頷いて返した。
「えぇ、たしか先代国王の時代から名を轟かせていた伝説の兵士でしたか?
彼が戦場に現れれば、どんなに劣勢な状況でも味方は勝利を確信し雄叫びをあげるとか」
「はい、そのギラール・ワルギナスが現役を退いた後この町で宿を経営しているというのは?」
「知っています。
たしかかなり有名な宿で、宿でありながら料理にも力を入れていてどの料理も絶品だとか」
「どうやらロミア・サダージュは、その宿で短い期間ですが料理を作っていたらしいのです」
「それはまた、なかなかに信じがたい話ですね」
しかし、私もこうは言ったものの先程までのガルファット・ファーリンやロミア・サダージュの性能を考えると、どこか驚かなくなってきていた。
「ですが、食堂での件を考えると信じざるを得ないかと」
「そうですね・・・」
正直証拠があったとしても信じがたい事ばかりですが、レイナはこういう嘘はつかない人間ですしまずついたとしても利益がありません。
そう考えると、やはり信じるしかなさそうですね。
「分かりました。
では、次の情報を」
「はい、次はガルファット・ファーリンの交遊関係についてです。
・・・正直な所、これに関してが一番驚きました」
「まだ驚かなければいけないのですか?」
私が苦笑いしながら言うと、レイナは頭を下げた。
「申し訳ございません」
「あなたが謝ることではないわ。
報告を、お願いできるかしら?」
「はい。
では、まず初めにガルファット・ファーリンが普段一緒に行動することの多い者達の名前をあげます。
初めに、ロミア・サダージュ、次にシガラ・ワルギナス、ヘレナーゼ・スビル、イヴァン・ビレドル。
この四名がガルファット・ファーリンと一緒に行動をしている事が多いです」
「・・・どの名前も特別生の名前ですね」
「はい、しかもロミア・サダージュ以外の三人もなかなかに濃い経歴を持っています」
まぁ、特別生は色々と特殊な人達の集まり。
多少経歴が濃くても大して驚くことはないと思いますが・・・
「まず、シガラ・ワルギナスからですが彼はギラール・ワルギナスの身内です」
「ギラール・ワルギナスのですか!?」
いけない、最初から驚いていてしまいました。
ここは落ち着いて、冷静に。
私は驚きを隠せずに返してしまったが、レイナは平然と返した。
「はい、姓が同じなので調べてみたところ血の繋がりはともかく身内だというのは事実でした。
そして、彼自身もギラール・ワルギナスの宿で働いていた経歴があります」
「あの伝説の兵士の身内、ですか。
ですが、ギラール・ワルギナスはたしか魔法を扱わず剣術を用いたはず。
そのシガラ・ワルギナスの魔法の腕はどうなのですか?」
私が尋ねると、レイナは人差し指を一本立てた。
「それが、ある日シガラ・ワルギナスとガルファット・ファーリンが一緒にいるところを目撃した部下がいたのですが、その部下の話によると人差し指と同じくらいの大きさの初級魔法で何本もの木の幹を貫通させたとか」
「それは、可能性なのですか?」
「理論上は。
しかし、それを可能にするにはとてつもない集中力と魔力コントロールの腕が必要になります。
特別生とはいえ、とても一年生の扱えるものではないかと」
「なるほど。
そこはさすがギラール・ワルギナスの身内といった所でしょうか」
伝説の兵士の身内。
ただ者ではなかったようですね。
「次にヘレナーゼ・スビルですが、エマ様もこの名前はご存知なのでは?」
レイナの質問に、私は頷いた。
「えぇ、教師達が慌てていた姿は今でも覚えています」
「はい、改めての説明となりますがヘレナーゼ・スビルは今年の筆記試験において満点を叩き出した天才です。
過去数十年単位で出ていなかった満点を採ったということで、その記憶力の良さと思考力の高さは説明は不要だと思いますので省かせていただきます。
彼女はガルファットと多く会話はしませんが、食事の時などは一緒にいることが多いです」
「そうですか。
それにしても、今年入学した特別生は色々と濃いですね」
「ですが、濃いという事に関しては最後の人物が一番だと思われます」
「・・・イヴァン・ビレドルですか」
私がその名前を口にすると、レイナは露骨に嫌な顔をして頷いた。
まぁ、レイナからすれば二度と顔を見たくない相手でしょう。
「私も報告を聞いた時には驚きました。
あのド変態がガルファット・ファーリンの友人だとは、到底信じられないです」
「イヴァン・ビレドルには昔、手を焼いていましたね」
当時、魔法学校に入学したばかりの頃のイヴァン・ビレドルは会う女性に次々とハレンチな質問をしていました。
レイナも、その質問をされた女性の一人。
今は無くなりましたが、イヴァン・ビレドルの被害者の女性達がよく彼を追い出してほしいと言ってくることがありましたね。
「しかし、彼も特別生。
魔法学校側からすれば、そう簡単には手放したくはなかったのでしょう」
「ですが、他の三名ならともかくイヴァン・ビレドルだけはなぜガルファット・ファーリンが一緒にいるのか分かりません」
「あちらにはあちらの都合があるのでしょう。
変態の考える事はよく分かりません」
私がそう言うと、レイナは少しふて腐れた顔をした。
元々ガルファット・ファーリンの考えている事は私にはよく分かりませんし、話に聞いた面々は誰もがずば抜けたなにかを持っている人達。
皆、引かれ合うなにかがあるのでしょう。
「・・・主だった報告は以上です。
また詳しい内容は、わかり次第ご報告します」
レイナは少しシュンとしながら、頭を下げた。
「色々とご苦労様でした。
私も、自分で色々と考えてみます」
「・・・あっ」
「どうしましたか?」
私が尋ねると、レイナ顔を上げてこちらを見た。
「いえ、一つガルファット・ファーリンに関してある報告があったのを思い出しました」
「それは、何ですか?」
「実は、ガルファット・ファーリンは時々獣人族の女生徒を見ているとの報告が入っています」
「獣人族を?」
「はい、特に耳や尻尾といった獣人族にのみあるものを見ているらしいのです」
獣人族の耳や尻尾を・・・。
「よく考えてみれば、ガルファット・ファーリンの友人には魔族、一角族、エルフ族はいるのですが獣人族はいないのです。
もしかすると、獣人族と友達になりたいと思っているのではないかと私自身は考えているのですが」
「なるほど・・・。
分かりました、とりあえずあなたは引き続きガルファット・ファーリンの観察をお願いします」
「承りました。
では、私は次の授業があるので失礼します」
そう言うと、レイナは立ちあがりこちらにお辞儀をして生徒会室を出た。
それにしても、ガルファット・ファーリンが獣人族を、ですか。
たしか、獣人族は一部の貴族達から性的な対象として見られる事が多い聞きます。
もしかしたら、ガルファット・ファーリンはあの歳にして獣人族を・・・試してみる価値はありますね。
「ウィリアム」
「ハッ、いかがなさいましたか?」
「あなたに一つ頼みたい事があります」




