第75話 スパルタと魔法使いキラー
「一生、使えない?」
俺がそう口にすると、ムミータは頷き黒板へ近付いてチョークで簡単な人型の絵を描いた。
「まず我々人間や魔族、他の種族もそうですが生き物というのは生まれながらにして大なり小なり魔力を持っています」
「それは僕も習いました。
極論を言ってしまえば、魔力を持っている生物は皆魔法を使える可能性があると」
「はい。
例えば単属性魔法を扱う場合、体内で属性変化をして魔力を己の手や指先に集中します。
これを一としましょう。
次に混合魔法を扱う場合、体内で二種類の属性変化をして魔力を己の手や指先に集中します。
この場合は一と一を足して二となります」
ムミータはそう言って、絵のちょうど真ん中に一本の線を引いて左側に縦線、右側に斜め線で絵を塗りつぶした。
「例外を除いて、我々の肉体が制御できるのは二までです。
それ以上は肉体が制御できず、単属性魔法になるかそもそも魔法が発動しません」
「それは理解できました。
ですが、それが神選者とどう関係するのですか?」
「まず、通常だと我々の体は制御をしていない0の状態です。
この状態なら、最大数の二も練習次第で扱えるようになります。
ですが、神選者は生まれながらにしてある制御が体に義務付けられています」
「ある制御・・・もしかして」
「はい、メリットとデメリットです」
ムミータは頷き、黒板にもう一体の人型を描いた。
「神選者は常時、能力の暴走が起きないように肉体の制御をしています。
これが一です。
そして、メリット中デメリット中の肉体への負荷で肉体が壊れないように制御する。
これが二になっています」
そうか、メリット中デメリット中は魔法が使えないっていう理屈はそういう事だったのか。
「つまり、能力を発動していなくても常時一の制御が必要な神選者の人が混合魔法を使用するというのは、不可能なのです」
「なるほど、一に一は足せても二は足せないって事ですか」
「その通りです」
ムミータに改めて説明された俺は、理解もしたし納得もした。
ただ、思ったよりも残念に思ってはいない。
元々出来ないながらに混合魔法は練習してきたし、約五年近くも続けてきたんだ。
多分、根拠はないながらも頭のどこかで半分諦めていたのだろう。
出来るか分からないけど取り組んでいたものが改めて出来ないよって言われただけだ。
そこまでダメージもない。
「ムミータ先生、一つお訊きしてもいいですか?」
俺が尋ねると、ムミータは俺の顔を見つめた。
「何でしょうか?」
「先程の肉体が制御できるのは二までという説明の中に、例外を除いてってありましたよね?
あの例外っていうのは何ですか?」
「あぁ、その事ですか」
ムミータは顎に指を当てて少し考えると、何かを思い付いたのか俺の顔を見た。
「ガルファット君は、バーデン・アリソンをご存知ですか?」
まさか、ここでその名前を聞くとは思っていなかった。
「はい、今から四百年くらい前の魔族の英雄ですよね?」
「その通りです。
バーデン・アリソンは神選者でしたが、混合魔法を扱えました。
そして、この世にさまざまな禁忌魔法を生み出しました」
「禁忌魔法・・・」
俺も本で読んだことはある。
その危険性や過ぎた利便性から使用を禁じられた魔法。
詳しいことは載っていなかったが、まず一般の魔法使いには使用できないものだ。
「その代表的であり、禁忌の最高位にあるのが完全吸収です」
「聞いたことがない魔法の名前ですね」
「通称魔法使い殺しと言われた魔法です。
基本四属性に光と闇の二属性を合わせた超混合魔法。
魔法によって生み出されたあらゆるものを吸収し、魔力に還元して己の体内に取り込む魔法です」
「それって実質魔法使いに対しては無敵って事ですか!?」
俺の言葉に、ムミータは真剣な眼差しで頷いた。
「それに加えて、バーデン・アリソンは剣術もかなりの腕を持っていたとされます。
遠距離は魔法、近距離は剣術。
まさに隙のない完璧な人物でしょう」
「ですが、そんな人でも最終的には封印されたんですよね?」
「はい、バーデン・アリソンは最後に自分の娘に封印されます」
「ん?ちょっと待ってください。
バーデン・アリソンを封印したのって、同じ魔族の赤髪の女性ですよね?
娘なんてどこにも・・・」
「一般に出回っている歴史書ではそう書かれていますが、この魔法学校の図書室にある歴史書にはもっと詳しいことが書かれているんですよ。
そしてその歴史書には、バーデン・アリソンの娘は、命と引き換えに自分の父とその部下を封印したとされています」
「自分の娘に封印された、か。
先生、これは生徒としてではなく一読者として尋ねたい事なんですが」
「何でしょうか?」
俺は首を傾げるムミータに、真剣な目で尋ねた。
「自分の娘がその命を使ってまで封印したバーデン・アリソン、多分理由は戦争を起こし多くの人を殺したからだと思います。
ですが、その戦争を起こした理由が僕には分からないです。
先生は、何か分かりますか?」
俺が尋ねると、ムミータは少し考え込んだ後静かに口を開いた。
「その事に関しては本で読んだことはないので完全な憶測になりますが、案外私達と同じかもしれませんね」
「僕達と、同じ?」
俺が返すと、ムミータは真剣な眼差しで頷いた。
「はい。
バーデン・アリソンも伝説の英雄とはいえ、一魔族です。
それなら、私達が怒る理由と同じような理由で怒っても不思議ではないかと」
俺達が怒るような理由。
逆に言えば何をされたら怒るか、か。
「なるほど。
分かりやすい説明ありがとうございます。
それと、僕の質問にわざわざお時間を割いていただけてありがたいです」
俺はそう言って、ムミータに頭を下げた。
「いえ、私で答えられる質問だったら時間があればいつでも答えますよ。
それにしても、少し意外でしたね」
「ん?意外というと?」
俺が尋ねると、ムミータは少し笑いながら返した。
「幼く、しかも入学試験を合格して入学した方だったのでもう少し傲慢でプライドの高い人だと思っていましたから」
そんなムミータの言葉に、俺も笑いながら返した。
「人に何かしてもらったら、礼は必ず言うこと。
父と母にはそう教わってきましたから」
「なるほど、ご立派なお父様とお母様ですね」
「・・・はい、近いようで色々と遠い人達ですがいつか追い付きたいと思っています」
「その思い、成就するのを楽しみにしています」
俺は笑いながらそう返したムミータにもう一度頭を下げて教室を出た。
その後、何個か授業を受けた俺はロミア達との待ち合わせ通りに食堂へと来ていた。
「そういえばガル、朝ムミータ先生とどこ行ってたの?」
横に長い机を挟んだ向かい側でご飯を食べているロミアが尋ねてきた。
「あぁ、誰もいない空き教室で個人的な話しをしてた」
「・・・ガルがムミータ先生とエッチな事してる」
「してないよ!」
ロミアがジト目で言ってきたので俺は慌てて否定した。
いや、そりゃたしかにちょっと遊びで変な風に言ったけどいざ口に出されると否定しなきゃいけないからな。
「混合魔法の事について訊いてきたんだよ」
「え?でも、ガルって混合魔法は・・・」
「あぁ、今日改めて訊いたらやっぱり俺は使えないってさ。
まぁ、半分諦めていたから大きなショックはなかったけどな。
皆はどうだったんだ?」
俺が尋ねると、隣で食事をしていたシガラが口を開いた。
「僕とヘレナちゃんは初級魔法の授業を受けてたよ。
やっぱり復習って大事だね」
「私は、元々魔法使った事ないから大変だった・・・。
シガラ君スゴかったよ、カッコ良かった」
ヘレナが少し顔を赤くしながら言った。
「シガラは詠唱中の魔力の流れがスムーズで綺麗だからな。
一番お手本にしたいタイプだよ」
「僕なんかよりガルやロミアちゃんのほうがスゴいよ。
入学試験の時の二人の魔法、今でも覚えてるよ」
「まぁ、俺もロミアも母さんのスパルタ指導のおかげだよ」
「あの頃は、授業がある日は魔力使いきるまで魔法使ってたもんね」
ロミアはそう笑顔で言っていたが、実はそれ自体がかなりスパルタらしい。
まず、魔法を使う時は無詠唱だろうが詠唱ありだろうが集中力を使う。
魔力の総量は人によって違うけど、それでも魔力を使いきるまで魔法を使うのはかなり疲労が来る。
俺もロミアも、最初の頃に比べて魔力の総量は確実に多くなっている。
魔法を使い始めたばかりの頃は授業の後はよくヘトヘトになっていた。
だけど、最近は魔力を使いきってもそこまで疲労することは無くなっていた。
慣れというのは恐ろしいものである。
「ロミアは治癒魔法の授業を受けたんだよな?
どうだった?」
俺がロミアは笑顔で返した。
「楽しかったよ!
上級の魔法は多分このままいけば覚えられそうだし、それを覚えたら解毒系の魔法も覚えようかなって思ってる」
解毒系魔法は治癒魔法の派生だ。
文字通り、体に有害な物に対する魔法だ。
なんでも、体内のアルコールなども解毒できるらしい。
覚えたら、真っ先に酒を飲んだ日のクレアに使ってあげたい魔法だ。
「そういうガルはなんの授業を受けてたんだい?」
シガラに尋ねられて、俺は食べていたご飯を飲み込んで話した。
「俺は光と闇の上級魔法と、火の超級魔法の授業受けに行ったよ」
「火の超級って、たしか龍の息吹とかだよね?」
ロミアに尋ねられて、俺は頷いた。
ロミアの言った龍の息吹は火の超級魔法の中でも代表的な魔法だ。
手のひらから、まるで龍の吐く火のブレスのように広範囲を攻撃する魔法でかなり使える。
ただし、この学校では魔法を使用する際は周りに被害が及ばないように特別な結界の中で使用する。
俺もそれに従って結界の中で龍の息吹を使用したのだが、結界が少し小さくて危うく火ダルマになるところだった。
「本当は風の超級も覚えたいところだけど、一度にやっても覚えきれないからな。
地道に行くか」
「えっと、ガル君とロミアちゃんに訊いてもいいかな?」
ヘレナが突然尋ねてきた。
「ん?どうした?」
「二人は、魔法をどれぐらい使えるの?」
ヘレナの質問に、俺とロミアはお互いに顔を見合わせた後ヘレナの顔を見た。
「俺は基本四属性は上級、光と闇は中級、治癒は中級だな。
混合魔法は使えなくて、火と風は大きさだけなら超級にいけるけど超級の魔法を使える訳じゃないから上級止まり」
「私は火、風、土は上級、水は超級。
光と闇は中級で、治癒は中級。
混合魔法も、一応上級まで使えるかな」
俺とロミアが説明すると、ヘレナとシガラは驚いたまま口をポカンと開けていた。
「二人とも、スゴいんだね・・・」
呟くように言ったヘレナに、俺は少し笑いながら言った。
「四歳の頃からお互いに手合わせしてきて、負けたら次相手に勝つためにどうすればいいか作戦を考えて、もしそれに必要な魔法があれば片っ端から覚えるようにしてたからな。
俺もロミアも、ただ負けず嫌いなだけだよ」
「一度私が勝つと、ガル作戦全部変えてくるんだもん。
あれ、対応するの結構大変なんだよ」
「俺は人の頭上に隕石落とすやつの相手するほうが大変だと思うぞ」
俺もロミアも、笑いながらお互いに言っていた。
シガラもヘレナも、俺達を笑顔で見ていた。
「なんか、羨ましい・・・」
「ん?何か言ったか?」
何かを呟くように言ったヘレナに尋ねると、ヘレナは首を横に振った。
「う、ううん何でもない」
その後俺たちは昼休みが終わるまで、四人で雑談していた。




