第74話 教師と空き教室
「うっ、うぅー」
俺はベッドの上で上半身を起こし、伸びをした。
昨日は色々と疲れる事があったせいか、夜はグッスリと眠れた。
俺は自分のベッドの横を見た。
前までは隣にアルマがいたりロミアがいたりすることが多かったから、一人だとなんだか寂しい気がする。
いや、それが普通の事なのは分かってるんだけどさ。
俺は自分に言い訳をしながらベッドを降りた。
隣のベッドを見ると、まだ朝早い時間だからかシガラはグッスリと眠っている。
俺はシガラを起こさないように、なるべく静かにいつものやつを用意した。
修行用の服、ジークから貰った両手剣、木製の双剣と短剣。
修行は今まで欠かさず続けてきたし、これからもなるべく続けていくつもりだ。
ただでさえ、魔法、剣術、武術の三種類を覚えようとしているんだ。
毎日の修行をサボるなんてしたら、基本の型すら忘れかねないからな。
着替えを終えた俺は、なるべく物音を立てないようにして部屋を出た。
「スゥー・・・フゥー」
部屋を出た俺は、大きく深呼吸をした。
この朝の新鮮な空気はいつ吸っても気持ちいいな。
さてと、今日は一発目のホームルームがあるしその前に皆で朝飯食おうって約束してるからな。
さっさと行くか。
俺はそう思い地面を蹴って走り始めた。
まずは、寮から校門へと向かう。
昼間と違い、外に人の姿はない。
修行をする時はこういう静かな雰囲気のほうが俺は好きだ。
時間を決めていると、それまで一心不乱になれるからな。
俺は走りながら、右手を目線の少し下まで上げて手のひらを上にした。
そして、5本の指を立てる。
ちょうど、ワイングラスを持つような感じだ。
5本の指に魔力の注入を始める。
そうして作られたのは、大きさがろうそくの火ぐらいの5つの炎弾だ。
これを維持しながら、俺は校門を出た。
中流階級エリアの大通りを走る。
ここもまだ皆寝ているか、早い人は起きてはいるものの家の中だ。
俺は構わず走り続ける。
指先の炎弾を次は水弾へと切り換える。
ここら辺の切り換えも最初に比べたらスムーズに出来るようになったな。
走りじゃなくて歩きなら誰かと話しながらでも一応は出来るんだが、そこまで長くは維持できないからなぁ。
もっと努力が必要か。
そんな事を考えながら走っていると、いつの間にか町の入り口まで来ていた。
俺はそのまま入り口を走り抜け、左へ曲がり丘に一本生えている木の元へ行った。
ここまで走るとそこそこ良い距離になるな。
ふと、丘の下の光景が目に入った。
「ん?なんだ?」
気になって見てみると、ここからでは顔が確認できないが誰かが魔法を発動していた。
しかも、無詠唱でだ。
誰だ?ロミアではないし、あの風貌どこかで・・・あ。
俺はその女性を知っていた。
この町に来てから少しした頃に、俺が殺した女性。
エミリアだ。
エミリアは俺が見ている事には気付いていないのだろう。
こちらを見ずに、魔法を撃ち続けている。
こんな朝早くから練習か、感心するよ。
それにしても・・・
俺はエミリアが魔法を撃つ姿を見ながら、前と同じ変な感覚に襲われていた。
なんだ、この感覚。
違和感、不自然、それに似ような感覚がずっと俺の脳に何かを訴えかけている。
俺がそんな謎の感覚に襲われていると、エミリアはふと魔法を撃つのを止めた。
何だ?魔力切れか?
しかし、彼女は魔法を撃っていた時と同様に右腕は上げたままだ。
「我が身の力を如何なる物をも燃やす炎へと変える」
!?
「炎弾」
エミリアの手のひらには炎の弾が形成され、放たれたそれは空へと消えていった。
そうか、違和感の正体はこれだったのか。
・・・見つかると面倒だし、剣術の修行は寮に帰った後やるか。
俺はそう思い、エミリアに見つからないように音を消しながらその場を去った。
ただ、寮に戻る途中俺の中にある考えが浮かんでいた。
俺は少し、エミリアって人間を勘違いしていた。
もし俺の仮説が正しければ、エミリアは間違いなく天才だ。
剣術と武術の修行を終えて、俺は寮の部屋に戻った。
扉をノックして鍵を開けると、シガラが着替えをしていた。
「あっガル、おはよ」
「おう、おはよう」
俺はシガラに挨拶をして、扉を閉めた。
「どこか行ってたの?」
「あぁ、朝の修行をしてきた。
学校始まったからってサボる訳にはいかないしな。
シャワー、使って良いか?」
「うん、僕は先に使わせてもらったから大丈夫だよ」
俺はシガラに確認をとりシャワーを浴びた。
朝のこの汗を流すシャワーはやっぱり気持ちいいな。
「ふぅー、気持ち良かった」
俺はパンツ姿で濡れた頭をタオルで拭きながら、浴室を出た。
「そういえば、ガルはどの教科を受けるの?」
着替え終わったシガラがベッドに腰を降ろして俺に尋ねてきた。
「俺か?うーん、色々と受けたいのはあるからなぁ。
シガラはどうなんだ?」
「僕は基本の四属性と、あとは軍略とか集団戦術の事とか学びたいかな」
「へー、なんか意外だな。
シガラは平和主義ってイメージがあったから、そういうのは学ばないと思ってたけど」
「・・・使う時があるかは分からないけど、戦争では色々な人が被害者になるからさ。
そういう被害を抑えれる方法がないか知りたいんだ」
シガラが少し悲しそうな笑みを浮かべて言った。
そうか、こいつは両親を戦争で亡くしてるんだよな。
「あっ、そろそろ行かないとロミアちゃん達を待たせちゃうね」
シガラはそう言うと、いつも通りの笑みを浮かべながら立ち上がった。
俺の前だからあんまり暗い顔はしたくないんだろう。
まぁ、俺もわざわざそこを指摘するほど野暮でもない。
「少し待ってくれ、今着替えるから」
その後、着替え終わった俺はシガラと一緒に部屋を出た。
「あっ、ガルー!シガラー!」
待ち合わせ場所に行くと、ロミアとヘレナが先にいた。
「おはよう、ロミアは朝から元気だな」
「うん!だって今日から授業があるもん!」
そういえば、ロミアは新しいものとか新しい事には張り切るタイプだったな。
で、一方のヘレナはというと
「ふあ~~」
ロミアの隣で眠たそうに欠伸していました。
「ヘレナちゃん、おはよう」
そんなヘレナにシガラが笑顔で声をかける。
ヘレナはそれに慌てて返事をする。
「お、おはようごじゃいます!」
焦って返事をしたからか噛んでしまい、顔を赤くするヘレナ。
そして、それを笑顔で見つめるシガラ。
多分シガラ本人にその気はないのだろうけど、端から見るとSな奴に見えるな。
「ヘレナちゃんは、早起きは苦手かな?」
そう優しく尋ねるシガラに、頷きながらコクッと頷いた。
「はい、早起きは少し苦手です」
「まぁ、俺たちは慣れてるから平気だけど慣れないうちは大変だよな。
ロミアなんて最初、俺にくっついたまま立って寝てたし」
俺が言うと、ロミアが頬を膨らませた。
「だってあの時はまだ早起きしたことなかったんだもん」
「二人は、前から知り合いなの?」
ヘレナの質問に、俺とロミアは同時に頷く。
「俺とロミアは四歳の頃から一緒にいるから、三年は経つな」
「早いよね、もう三年だもん」
ロミア、それ七歳のお前が言うセリフじゃない。
「まぁ、この話しは後にしよう。
それより、早く朝飯食いに行こうぜ。
修行した後だから、なんか腹減ってきた」
俺が言うと、シガラが頷いた。
「ガルは体動かしてるもんね。
それじゃ、食堂に行こっか」
そう言って歩き出したシガラに、俺を含めた三人は付いていった。
食堂で朝飯を食った俺たちは、指定の教室に行って担任から学校生活の説明を色々受けた。
ただ驚いた事もあり、まず俺たちみたいな入学試験を受けて入学した生徒は一般の生徒とは違い学年関係なく一つのクラスにまとめられる。
まぁといっても、人数がそこまでいるわけでもなくだいたい二十五人くらいだ。
田舎の小・中学校の一クラス単位だな。
次に驚いたのは、授業についてだ。
俺はカリキュラムがありそれに沿って学んでいくのかと思っていたのだが、俺たちのクラスに限ってそうではないらしい。
自分の好きな授業を受ける事ができ、最終的に論文を提出すれば卒業できるらしい。
つまり、やろうと思えば好きな授業を受け続けるのも可能という訳だ。
これはかなりありがたい。
今さら初級の魔法とか教わっても何だかなぁって感じだったし。
ただシガラは復習のため、ヘレナは筆記はできても実際に魔法を使用した事が無いため初級の授業から受けるらしい。
ロミアはやはりというべきか治癒魔法の授業を受けると言っていたな。
そして、最後にちょっとだけ驚いたのは俺たちの担任がムミータだった。
そう、俺達の試験の試験官をしていた胸を気にしているあのムミータだ。
彼女は俺たちのクラスの担任であり、混合魔法を教えているそうだ。
身長は小さめだが、堂々としているからカッコいいんだよなあの人。
それでだ、説明が終わり俺は三人と昼飯を一緒に食べる約束をした後ムミータに声をかけていた。
「ムミータ先生」
俺が声をかけると、前を歩いていたムミータは足を止め後ろを振り返る。
「あなたは確か、ガルファット君だったわね。
私に何か?」
「先生が混合魔法を教えていると聞いて、相談したい事がありまして」
「相談ですか?何でしょうか?」
首を傾げるムミータに、俺は魔法を学びはじめてから自分が疑問に思っていた事を尋ねた。
「なるほど、つまり他の魔法はある程度使えるのに混合魔法だけが使えないと」
指に顎を当ててそう言ったムミータに、俺は頷いて返した。
「はい。
自慢するわけではありませんが、僕も基本四属性と光、治癒魔法は扱えます。
ただ、混合魔法だけは未だに扱えなくて」
「・・・少し、場所を移動しましょうか」
何か思い当たる事でもあったのだろうか、ムミータは呟くようにそう言って歩き出した。
俺もその後に付いていく。
ムミータに付いていってたどり着いたのは、使われていない空き教室だった。
俺とムミータは教室に入ると、ムミータが扉を閉めてボソリと言った。
「ここなら、誰にも聞かれませんね・・・」
「え?」
俺の頭の中に?が浮かぶと、ムミータはゆっくりと近づいてきた。
なに?俺ここで何かされるの?
え?まさか、会って日が浅い教師に生徒の俺が食べられるの?
嫌だ!失うときはロマンチックが良いって心に決めてるんだ!
しかし、俺の感情とは裏腹にムミータは近づいてくる。
いやたしかに教師と生徒が誰もいない教室でっていうのはよくあるシチュエーションだよ!
だけど俺と先生は出会って日が浅いんだ!
もう少し互いの事を知ってからでも遅くはないですよ!
ダメだ!壁際に追い込まれた!
クソッ!観念するしかないのか!
俺が自分の初めてを手放すのを覚悟した時、ムミータは口を開いた。
「ガルファット君、一つ質問してもいいですか?」
「は、はい!」
胸の大きさには拘っていません!
「あなたは、神選者ですか?」
「・・・え?」
それは、俺が予想してすらいない質問だった。
何で、ムミータがそんな質問を?
俺が神選者だって事は、家族とロミアとクレアしか知らないはずだ。
どこからも漏れる事はないと思うが。
「い、一応そうですが」
「そうですか・・・」
俺が答えると、ムミータは少し残念そうな顔で俺から離れた。
「ガルファット君。
あなたからしたら、少しショックかもしれないことだけど」
「は、はい」
ムミータは真面目な顔で俺に言ってきた。
「あなたは一生、混合魔法を使えない」




