第67話 第二次試験と合格発表
魔法学校入学試験、第二次試験を俺とロミアは無事終えることが出来た。
そして、俺達の三人の中で最後の一人で今まさに受けるところだ。
「では次!受験番号125番、シガラ・ワルギナスさん!お願いします!」
「は、はい!」
ムミータに名前を呼ばれ、シガラが前へ出る。
「シガラ!頑張って!」
ロミアの声援にシガラはこちらを向いたが、顔に全くもって余裕がない。
多分、本人的には笑っているのだと思うが多分と言うしかないほどの顔だ。
シガラがまた前を向く。
「シガラ、大丈夫かな・・・」
ロミアがシガラの背中を見ながら不安そうに呟く。
「出来るかはシガラ次第だからな。
あとは、あいつの力に賭けるしかない」
「それでは、ご自身の得意な魔法を1つ使用してください」
「はい!」
ムミータに言われ、シガラは大きな声で返事をすると右手の人差し指で前を指さした。
「我が身の力を如何なる物をも切り裂く風へと変える」
シガラが詠唱を始めると、その指先には徐々に風の塊が出来ていく。
ロミアは俺の隣で、目を閉じて顔の前で両手を握り祈っている。
俺は、シガラから目を離さずじっと見つめていた。
・・・初めて俺がシガラの魔法を見た時に思った事がある。
シガラが魔法を使う時、詠唱から魔法の形成がとても綺麗なのだ。
魔力の流れがスムーズに、まるでそれが当たり前かのように淀みがない。
俺やロミアでさえ、あそこまですることはできないだろう。
しかも、シガラは詠唱しながらだ。
こればっかりはシガラの持って生まれた才能だろう。
シガラの指先の風の塊は、最初はサッカーボールくらいの大きさだったが次第に小さくなっていき今は野球ボール位になっている。
もっとだ、もっと小さく。
俺の気持ちに呼応するかのように、風の塊はさらに小さくなっていく。
だが、風の塊が小さくなるにつれてシガラの表情に疲れが出始めてきた。
額には汗が滲み、息が切れ始めている。
ここが踏ん張りどころだな、もう少しだぞシガラ。
シガラの指先の風の塊は今も少しずつ小さくなっていっている。
まだだ、もっと小さくだ。
シガラからすればかなりキツイはずだ。
だけど、ここさえ越えれば・・・。
そして、シガラの作り出した風の塊がゴルフボールくらいの大きさになった時だった。
・・・今だ!
まるでシンクロしたかのように、俺の考えが分かったかのように、シガラは目の前を見つめて
「いっけぇーー!!!」
自分で作り出した風弾を前へ撃った。
弾丸のように一直線に飛ぶそれは、森の木々の幹を次々と貫通していき奥へと消えた。
「やりやがった・・・」
シガラのやつ、この短期間でアレを完成させやがった。
「あ、ありがとうございます。
下がってもらって大丈夫です」
ムミータにそう言われた瞬間、シガラの体はまるで糸が切れた人形のように力が抜けた。
「シガラ!」
俺は走りだし、スライディングをしてシガラの体を受け止めた。
「大丈夫か?」
俺が尋ねると、シガラは力なく笑った。
「カッコ悪いね、安心したら緊張と一緒に力も抜けちゃったよ」
俺はそんなシガラに真剣に返した。
「カッコ悪くなんかねぇよ」
「え?」
シガラの体を支えて、一緒に立ち上がる。
「さっきのお前、すげえカッコ良かったよ」
「・・・そっか、ありがとう」
シガラは静かに、しかしものすごく嬉しそうに答えた。
俺がシガラに教えたのは、普通なら習得するのに1ヶ月かかってもおかしくない事だった。
それぐらい、魔法を小さくするのは大変な事なのだ。
正直試験に間に合うかはギャンブルだったし、間に合わなくても不思議じゃなかった。
それをシガラは、たった2週間で物にしたんだ。
賞賛をすることはあっても、笑ったりバカにすることは絶対にしないし誰にもさせない。
「ガル、もう大丈夫だよ。自分で歩くよ」
「おう、分かった」
俺はシガラにそう言われて、体を支えるのをやめた。
そして、二人で並んで元の位置へ戻った。
「シガラ、上手くいったね」
帰ってきたシガラに、ロミアが笑顔で声をかける。
「うん、何とかなったよ。
二人とも、本当にありがとう」
こうして、俺達三人の第二次試験は無事に終わり最後の一人が魔法を撃ち終わった後ムミータに召集された。
「皆様、お疲れ様でした。
これから、他の試験官と審議をした後に今年の魔法学校入学試験の合格者の発表を行います。
少々お時間を頂きますが、しばらくお待ちください」
そう言うと、ムミータは他の試験官の元へと急いで行った。
「とりあえず、もう一度待つんだよね?」
ロミアに尋ねられて、俺は頷いた。
「そうだな、これで合格者が決まるみたいだ」
「うぅ、また緊張してきた」
「もう緊張しても仕方ないだろ。
あとは祈るだけだ」
俺は笑いながらシガラの背中を叩いた。
「神様にお祈りしようかな」
「まぁ、多少効果あるんじゃないか?」
紅い着物の女神様なら、笑いながら「きっと大丈夫ですよ」とか言ってきそうだ。
それはそれで励ましになってるし、ありがたいんだけどね。
「そういえば、ロミアちゃんは全然不安じゃなさそうだね」
神頼みをしながら、シガラが隣にいるロミアに言った。
「だって出来ることはやったし、ガルも手伝ってくれたからこれでダメだったら諦めるしかないもん」
なんと潔い子だ。
「ロミアって、そういうところ潔いっていうか男らしいよな」
「ガルの影響じゃない?」
いや、違うと思うぞ。
俺も何だかんだ言ってシガラと同じで緊張してるし。
緊張していないのを装ってないと不安で仕方ないってだけだ。
「俺はそんな男らしくはないぞ」
「ガルは男らしいっていうよりは、大人びているって感じだもんね」
シガラに言われ、俺は変に否定せずに納得した。
だって中身33歳だからね。
「ガル、本当に私と一緒の歳?」
ロミアに言われ、俺は苦笑いしながら頷いた。
「一緒だよ」
肉体年齢は、な。
「じゃあ逆に訊くけど、ロミアから見て俺って何歳くらいに見えるんだ?」
俺が尋ねると、ロミアは首を傾げた。
「うーん、パパ達と同じくらいだから30歳ちょっとかな」
冷や汗が出てきた。
うわ、何だこの胸を何か冷たいもので射抜かれたような寒気は。
両腕に鳥肌も立っている。
昔からロミアの勘はスゴイって思ってたけど、これはもうそういう言葉で片付けられる気がしないんだが。
「そ、そっかぁ、俺そんな老けて見られてたのかぁ」
俺の誤魔化し方下手くそだな!
自分でびっくりしたぞ!
ていうか、俺が転生者ってバレるとしたら1番初めにバレるのはロミアになりそうだな。
まぁ、仮にバレてもどう反応すればいいか分からないから何とも言えないけど。
「受験生の皆様!これより合格発表を行いますのでお集まりください!」
雑談をしているうちに、ムミータの声が聞こえた。
「いよいよか、二人とも行こうぜ」
『うん』
俺達三人はムミータの元へ向かった。
「えー、それでは今年の魔法学校入学試験合格者を発表します!」
ムミータを中心に、他の試験官が左右に横一列に並んでいる。
俺達受験生はその対面に並んでいるという感じだ。
「番号の小さい順に発表をします!
自分の番号と名前が呼ばれた方は、後でお話しがありますのでこの場に残ってください!」
いよいよか。
何だろう、高校とかの受験だとボードに番号貼り出されるけど、こうやって呼ばれる形式の合格発表はまた違う緊張があるな。
「では、発表します!受験生番号・・・」
頼む!最悪俺以外の二人だけでも合格しててくれ!
とても長い沈黙が漂う。
いや、俺が長く感じているだけだ!
「123番!ガルファット・ファーリンさん!」
「・・・俺?」
え?今、俺の名前呼ばれた?
「ガル・・・」
ロミアが嬉しそうに俺の顔を見てきている。
「俺の名前、呼ばれた?」
「うん・・呼ばれたよ!」
「・・・イィィヨッシャーー!!!」
盛大に、もう喜びを体現したようなガッツポーズをした。
「ガル!!」
シガラが笑顔で俺に向けて、拳を突き出している。
俺はその拳に自分の拳を合わせる。
合格したのも嬉しいけど、こうやって一緒に喜んでくれるやつがいるのが1番嬉しいな。
「では、次の合格者を発表します!
受験番号・・・」
頼む!二人も合格していてくれ!
「124番!ロミア・サダージュさん!」
ロミア、ロミアが・・・ロミアが呼ばれたー!!
「ロミア!うぉ!?」
俺がロミアの方を見ようと瞬間、ロミアがものすごい勢いで抱きついてきた。
「やったな!」
「うん!」
俺はロミアの頭を優しく撫でた。
いつもなら人目を気にしたりとかですぐに離れてというが、今回は特別だ。
「ロミアちゃん!」
シガラがロミアの肩をトントンと叩いた。
ロミアはそれに気付き、後ろを振り返るとシガラと俺がやったようにお互いに拳を合わせた。
それにしても、良かった。
ロミアなら大丈夫だと分かってはいても、発表されるまではやっぱりドキドキするもんだな。
「では、次の合格者を発表します!
受験番号・・・」
残るのはシガラのみ!頼む!
ムミータの口から、受験番号が告げられる。
「125番!シガラ・ワルギナスさん!」
俺はその名前が聞こえた瞬間、シガラの方を見た。
『シガラ!』
俺とロミアに名前を呼ばれ、シガラがこちらを見る。
「僕、合格、した?」
状況が理解しきれていないのか、シガラが俺とロミアに尋ねてくる。
「おう!」
「ちゃんと名前呼ばれたよ!」
俺達に言われ、シガラは自分が合格したのに気付いたのだろう。
一瞬で笑顔になったが、すぐに涙を流し始めた。
「よ、良かったー!!」
シガラが俺とロミアに飛び付いてきた。
「泣いてどうするんだよ」
「だって、嬉しいんだよ・・・」
シガラは俺とロミアに抱きついたまま、泣いている。
つい数十分前まで年上として威厳を見せようとしてたのに、これじゃもはや俺とロミアのほうがシガラより年上みたいだ。
まぁ・・・
「良かったな」
「うん・・・」
こういう人のほうが親しみやすいよな。
「以上三名が今年の魔法学校入学試験合格者です!」
このあと、俺達三人は入学に関しての説明などを聞いてクレアとアルマの元へ行った。
「二人ともどこにいるんだ?」
俺達三人はただいまクレア達と合流するために学校の校門の近くまで戻ってきたのだが、人が多すぎて見つからない。
「あっ、あそこにいるのそうじゃない?」
シガラが指さした先を見ると、たしかに校門の横にクレアとアルマがいた。
「ほんとだ!クレアー!アルマー!」
ロミアが二人に気づいて大きく手を振った。
二人もこちらに気づいて、ものすごい勢いで走ってきた。
「三人ともどうだった!?」
クレアがそのままの勢いで尋ねてくる。
そんなクレアに、俺は親指を立てた。
「無事、三人合格してきました!」
俺が笑顔で言うと、クレアは安心したように大きく息を吐いた。
「良かったー」
「ちゃんと約束は守りましたよ」
俺が言うと、クレアは嬉しそうに頷いた。
「三人とも、合格おめでとう」
スゴイ心に染み渡るおめでとうだった。
こんなに嬉しいものか。
「皆合格じゃ、俺が罵る必要はないか」
クレアの横にいたアルマが笑いながら言ってきた。
「そんな事言って、三人が来るまで僕以上にそわそわしてたくせに」
そんなアルマを見たがらクレアが言う。
「べ、別に、もし罵る事になったら何て言うか考えてただけだよ!」
アルマが顔を赤くして、慌てて否定する。
「残念だったな、罵る事ができなくて」
俺が言うと、アルマは少し嬉しそうに笑った。
「どうせ言う言葉も思い浮かんでなかったからな。
三人とも合格で助かったよ」
そう言うと、アルマが拳を俺に突き出してきた。
俺は、試験を受ける前のようにその拳に自分の拳を合わせた。
ロミアとシガラも、アルマの拳に自分の拳を合わせる。
「それじゃあ、宿に戻ってギラールさんに合格報告しにいこうか」
「そうだね、今頃仕事が手についていないかもしれないし」
その後俺達はギラールさんに三人合格の報告をしに行った。
こうして、俺達の魔法学校入学試験は無事三人合格という形で幕を閉じた。




