第64話他種族と試験当日
夜が明けていくのを告げるように空が白み始めていく。
いつもと変わらない朝が来る。
いや、今日は少し特別だ。
俺は、いつもより少し早めに起きた。
今日は気合いを入れるべき日だと知っていたからだ。
そう、今日は魔法学校の入学試験の日だ。
オリビアの屋敷でロミアが料理対決をしてから、1週間が経過した。
その間、俺は本格的に修行した。
幸い魔法の方は衰えてはいなかった。
ただそれでも、集中力や持続力が前に比べて切れやすくなっていたのでそこを中心に修行はした。
で、問題は体力面だった。
こっちは明らかに低下しているのが分かった。
前まで息が切れる事なく走れていた距離で、少し息切れを起こしていた。
まぁ、それは流石にマズイと思って徹底的に走り込みをした。
「緊張、してるのか・・・」
俺はベッドから降りて、椅子に座り窓の外を見た。
この世界に来てから、緊張するというのはほとんどなかった。
しいて言うなら、フィーネに小説をプレゼントした後の感想を聞いた時くらいか。
数日前にシルビアが魔法学校きっての天才だと分かったが、俺自身驚きはしてもだからといって魔法学校への入学に対する気持ちに変化はない。
俺は俺、シルビアはシルビアだ。
それに、実際のところ俺はそこまで成績優秀の部類に自分はいないと思う。
決して謙遜しているわけではない。
周りで魔法を使えるのがロミアやシルビアだけで、ああいうのが天才っていうんだろうなぁって思うことばっかりだったからな。
(お前、魔法学校卒業した後どうするんだ?)
ふと、家を出発する前にジークに言われた言葉を思い出した。
魔法学校を卒業したら、か。
たしかに、バルファンクやモンコイストに行きたいというのは本心だ。
色々学びたい事もあるし、色々な場所を見たい。
そう思う理由もちゃんとある。
だけど、それはあくまで理由であってその先にある目的とイコールになっていない。
・・・ダメだな。
いくら考えた所で、今はその目的を思い付く事は無さそうだ。
それに、子どもは目の前の事に全力で取り組んでいる方がいい。
実際、こんな色々と考えて自問自答する7歳児はいないと思う。
俺自身、そんな7歳児は少し嫌だし。
せっかく人生をもう一度楽しめるんだ。
やりたいこと全力でやって、次死ぬときは笑って死んでやるくらいの心意気でいくか。
そう決意した俺は、皆が起きるまで適当に時間を潰した。
「いよいよだね」
クレアにそう言われて、俺は頷いた。
「・・・はい」
「ガル、もしかして緊張してる?」
俺の返事がいつもと様子が違ったからか、ロミアが首を傾げて尋ねてきた。
「少しな。
俺だって緊張する時くらいあるさ」
俺は苦笑いしながらそうロミアに返したが、実際はかなり緊張している。
考えてみれば、200人受けて合格するのは5人いるかだ。
つまり、倍率は40倍。
決して甘くはない倍率だ。
「珍しいな。
お前の事だから入学試験くらい余裕だって笑ってると思ってた」
と、アルマが珍しい物を見るような目で俺を見ながら言ってきた。
「お前は俺を何だと思ってるんだよ。
そう言うなら、何か緊張しなくなるような言葉でもかけてくれよ」
俺が言うと、アルマは少しの間考えた後思い付いたのか急に口を開いた。
「じゃあ、もしお前が不合格で落ち込んでいたら一生立ち直れなくなるくらい罵ってやるよ」
「よっしゃ!ロミア!絶対合格するぞ!」
俺は拳を天に向けて決意表明をした。
「うん!がんばろっ!」
俺の呼び掛けに呼応して同じく拳を天に向けて突き上げた。
「それじゃあ、そろそろ行こっか」
クレアは俺とロミアの姿を見て笑うと、立ち上がった。
「そうですね」
俺とロミア、アルマの3人はそのあとを追って部屋を出た。
階段を降りて下のフロントの所へ行くと、シガラが先に待っていた。
「シガラ、おはよう」
俺が声をかけると、シガラはこちらを向いて少しひきつった笑顔で挨拶をしてきた。
「お、おはよう、ガル」
「どうしたんだ?顔がひきつってるぞ?」
「実は、今日の朝から緊張で・・・」
あー、なるほどそういうことか。
「ふふっ、シガラもガルと一緒だね」
ロミアが笑いながらそう言うと、シガラが俺の顔を見た。
「もしかして、ガルも緊張しているの?」
俺はシガラにそう尋ねられて少し笑った。
「まぁ、少しな。
前まではそうでもなかったんだけど、当日になったら急に緊張してきたよ」
「実は僕もなんだよ。
おかげで、昨日はなかなか寝付けなかったよ」
やっぱりシガラも緊張してたのか。
まぁ、なかなかに厳しい試験だから無理もないか、実際に俺もしてるし。
「皆さん、おはようございます」
俺とシガラが話していると、横の受け付けにいたギラールが挨拶してきた。
『おはようこざいます』
シガラ以外の俺を含めた四人が挨拶をすると、声が四人ともハモった。
俺は頭を下げていたのだが、少し笑ってしまった。
顔を上げると、ギラールが俺とロミアの顔を見た。
「ガルファット君、ロミア君」
ギラールは俺とロミアの名前を呼ぶと、受付からだが深々と頭を下げた。
「シガラの事を、よろしくお願いします」
ギラールの言葉に、俺とロミアは笑顔で返した。
「はい!」
「3人で、絶対合格してきます」
俺とロミアがそう言うと、ギラールは顔を上げて優しく微笑んだ。
「シガラ」
「は、はい!」
ギラールに名前を呼ばれると、シガラは驚いて急いで返事をした。
「頑張ってきなさい」
ギラールの言葉に、一瞬驚いた表情をしたシガラだがすぐに笑顔になり嬉しそうに頷いた。
「はい!」
シガラの返事を聞いて、ギラールもまた嬉しそうに笑っている。
その後、俺たちはギラールに見送られる形で宿を出た。
「ロミア、シガラ」
俺は歩いている途中、隣を歩く二人の名前を呼んだ。
「ん?」
「どうしたの?」
「絶対、合格するぞ」
俺は前を向いたまま言ったが、二人の顔が頼もしい顔をしたのをなんとなく感じた。
「もちろん!」
「最初からそのつもりだよ」
俺はその返事に満足して、前を向いたまま魔法学校を目指した。
魔法学校はソロモンの町の最も最奥部に位置している。
多分、この町の中で1番大きい建物だろう。
入り口にはパリの凱旋門のような門があり、門番が構えている。
中に入るとデカイ庭があり、その奥には堂々と学校の校舎であろう建物が鎮座している。
俺は前の世界で資料とかで大学の資料を見たことあるけど、それに近い感じだ。
「・・・凄いな」
思わず声が漏れた。
それは、庭に大量にいる人達を見た俺の素直な感想だった。
こんなにいるんだな。
3桁は余裕でいそうだけど、まだ手続きをするにも早い時間だっていうのにこれじゃあ最終的に何人くらいになるんだ。
俺は呆気に取られながらも、周りを見渡した。
見たところ、人間のほうが魔族よりも少し多いのかな?
そう思いながら俺が見渡している時だった。
「!?」
俺はそれが目に入ってきた時に衝撃を受けた。
頭の上からちょこんと生えたそれは、時おりピクピクと動いている。
そうそれは、獣耳だ。
まさか、生で拝む日が来るとは思っていなかった。
俺たちの立っている位置から人混みの隙間を縫って見える所に、猫耳、かな?が付いている子が見える。
実の所俺は動物、その中でも猫はかなり好きだ。
普段はこっちが行っても知らんぷりなのに、時々あっちから来て構ってあげた時の反応は本当に大好きだ。
・・・触りたい。
いや、ダメなのは分かっているのだがものすごく触りたい。
ちなみに、よく見たらお尻の付け根あたりから尻尾も出ていてウネウネ動いている。
だけど、知っている人が多いように猫の尻尾は敏感なので触るのはやめましょう。
間違って握ってしまった日には・・親の仇のような目で睨み付けてきます。
付け根は気持ちよく感じるのもいるみたいなんだけどね。
「ガル、どうしたの?」
俺が猫耳の女の子をじっと見ていると、隣でロミアが尋ねてきた。
「あの子を見てたんだよ」
俺は女の子方を見ながら、ロミアに言った。
「あれって、猫耳と・・・尻尾?」
「そうそう、可愛いよな」
俺が笑いながらそう言うと、ロミアが急に俺の腕に抱きついてきた。
俺が慌てて見ると、ロミアは頬を膨らませて少し不機嫌そうに俺の顔を見た。
「あのー、ロミアさん?どうしました?」
「ガル、浮気はダメ、絶対」
いやしてませんけど!?
なんだ!?急にどうした!?
「いや、あの、俺は浮気なんてしてませんけど?
というか、彼女すらいたことないんですけど?」
「二人ともどうしたんだ?」
俺が戸惑っていると、後ろにいたアルマが尋ねてきた。
ちなみに、アルマとクレアは付き添いで来ている。
俺達が試験を受けている間は、終わるまで適当に時間を潰しているとの事だ。
「ガル、ああいう子がタイプみたい」
ロミアがそう言って、猫耳の女の子を指差す。
アルマはその方向を見て女の子をじっと見つめた。
「・・・ガルファット、お前ああいうのがタイプなのか」
と、アルマは言ったのだが。
何故だろうか?本当に、本当に少しだけなんだが怒っている気がする。
いや、きっと気のせいだろう。
「あのー、アルマさん?」
「・・・なんだ?」
あ、こりゃ怒ってるわ。
「あの、その、タイプっていうかただ単に可愛いと思っただけなんだが・・・」
俺がそう言うと、アルマは俺の顔をじっと見つめた。
・・・いやどうした!?
いつものアルマならここで一発殴ってきてもおかしくないだろ!
何で殴ってこないの!?逆に怖いんだけど!?
殴ってきてよ!殴って俺を安心させてよ!
・・・って何このドM発言!?
いつもと違うアルマの反応に、俺は戸惑いを隠せなかった。
ロミアといいアルマといい、何だか今日は様子がおかしい。
何故だ、宿を出るまでは普通だったのに。
「3人ともさっきからどうしたの?」
そう言って、クレアが俺達を見た。
「それが、ガルファットがああいうのがタイプだっていうんだよ」
そう言ってアルマが猫耳の女の子を指差す。
「あれって・・・あぁ、獣人族だね」
「クレア、知ってるんですか?」
俺が尋ねると、クレアは頷いて返した。
「うん、昔武術の道場に通っていた頃に一緒に習っている子が何人かいてね。
ものすごく身体能力の高い子達だよ」
へぇ、そこはやっぱり動物の血が入っているからなのかな。
それにしても良かった。
クレアは他の二人と違って普通の返答だ。
「あ、そうだガルファット君。
後で機会があったらあの耳と尻尾触らせてもらえば?」
クレアの提案に、俺は勢いよく食いついた。
「え!?触っても大丈夫なんですか?」
俺が尋ねると、クレアはニコニコとこちらを笑顔で見て言ってきた。
「獣人族は、初対面の人に耳や尻尾を触られるとあまりの不快感にその人を一生嫌うらしいからね」
悲報!師匠が1番怖かった!
「じゃあダメじゃないですか!」
「仲良くなれば大丈夫だよ。
逆に仲の良い人に触ってもらえるのは嬉しいらしいから」
「それなら、まぁ、大丈夫そうですね」
いや、実際どうなのだろう。
可愛いと言っただけでロミアには、浮気はダメ、絶対って言われたし。
・・・ロミアには内緒で仲良くなろうかな。
そう考えた時だった。
俺の腕に抱きついているロミアの力が少し強くなった。
「ん?どうしたんだ?」
「・・・ガルがいけないことする気がした」
相変わらずこの子の第六感は凄いな。
・・・よし、ロミアも一緒に仲良くなれる方法を探すか。
「皆仲が良いんだね」
俺が困っている姿を見て、シガラが笑いながら言ってきた。
「仲が良いか?この状況」
「うん、羨ましいくらいだよ」
俺の質問に、シガラは笑顔のまま答えた。
「さてと、それじゃあ受付に向かおうか」
そう言って歩き出したクレアに、俺たちはついていった。
「そういえば、受付ってどこでやってるんですか?」
俺が前を歩くクレアに尋ねると、クレアは前を向いたまま答えた。
「僕の記憶が間違っていなければ、たしか校舎の入り口でやってたと思うよ」
そう言うクレアについていくと、校舎の入り口に並ぶ2つの人の列を見つけた。
「あれ?何で列が2つなんだろう?」
そうロミアが不思議そうに言って、俺も同じことを思った。
「これは入学試験を受けるか受けないかで列が別れているんだよ。
試験を受ける方の列は・・・こっちだね」
そう言って、クレアは左の列に並んだ。
「それにしても、さっきの獣人族の子だけじゃなくて他の種族の人達もいるんですね」
辺りを見渡すと、耳が少し尖った形をしていてスラッとした体型の種族やおでこの辺りに角の生えた種族などがいる。
「ここは色々な所から魔法を覚えに来る人がうるからね。
人間、魔族、獣人族、あとは耳が特徴的なエルフ族、額から一本の角が生えている一角族なんかがいるかな」
「エルフ族に一角族、ですか」
クレアの説明を受けて、俺は再度辺りを見渡した。
これまで違う種族っていったら魔族くらいだったけど、魔族って目の色がオッドアイっていうこと以外は俺達と変わらなかったからなぁ。
あそこまで身体的特徴の違う種族だと接するときが来たらどう接するべきなんだろうか。
・・・まぁ、考えても分からないか。
仕方ない、いつも通りに接して何か失礼があったらその都度謝って学んでいくか。
俺がそんな事を考えていると、いつの間にか列が進んでいて俺たちの受付の番が来た。
「はい、ではこちらに必要事項をお書きください」
受付の係員に用紙を渡され、俺達はそれぞれ用紙を受取り必要事項を記載した。
そしてその紙を係員に渡すと、代わりに木の板を貰った。
「その板の番号がご自身の受験番号となります。
無くさずに持っていて下さい。
試験会場への移動の際は試験官が声かけをいたしますので、お手数ですがこの付近でお待ちください」
俺達は受付から少し離れた場所に行き、お互いの板の番号を見せあった。
「俺が123、ロミアが124、シガラが125か」
「これって、試験を受ける人だけの番号なのかな?」
俺はシガラに尋ねられて頷いて返した。
「多分な。
この人数だとまだまだ受験者は増えそうだし、200なんて余裕で超えそうだな」
まだ受験の締切までは時間がある。
俺達は適当に雑談をしながら時間を潰した。
「えー、試験を受けられる受験生の皆様!
これより試験会場まで移動します!
試験官のあとについてきてください!」
しばらくすると、人混みのほうから叫ぶ声が聞こえた。
どうやら試験会場へ移動するらしい。
「それじゃあ、3人とも頑張ってきてね」
クレアが俺達に笑顔でそう言ってきた。
「目指せ全員合格してきます」
俺がそう言うとクレアが嬉しそうに頷いた。
「不合格になって泣いて帰ってくるなよ」
「縁起でもない事言うなよ」
俺はそう言って、アルマに拳を突きだした。
アルマも自分の拳を突きだして、俺の拳にトンッとくっつけた。
それを見ていたロミアとシガラもアルマの拳に自分の拳をトンッとくっつけた。
「それじゃあ、行ってきます」
俺はそう言って、試験官のあとについていっているであろう人達のあとを歩き出した。
後ろを振り返ると、クレアは手を振っていてアルマは少し笑いながら胸の前で腕を組んでいた。
俺、ロミア、シガラの3人はそんな2人に手を振って試験会場へ向かった。




