第65話 ルールと第一次試験
試験官のあとについていった俺達がたどり着いたのは、前にクレアとロミアと手合わせした草原のもっと奥側の森の手前だった。
目の前には広い道が奥まで続いており、その先の少し坂になった上には一本の大きな木が見える。
道の周りには左右に木が生えていて、森一部分をくり貫いて作った感じになっている。
ていうか、周りの人が大きいから前が見えにくいな。
「ロミア、シガラ、ここだと前が見えないから横に少し移動しないか?」
俺が提案すると、二人とも頷いた。
「そうだね、こっちなら人が少なさそうだからこっちに移動しようか」
そう言うと、シガラは自分がいる方向に移動し始めた。
俺とロミアもそのあとをついていく。
少しすると、人混みから外れたのか前に誰もいない場所に出た。
ここなら前が見やすくていいな。
そう思って前を見ていると、なんか黒くて高級感のありそうなローブを身にまとった人が最前列の前に立ってこちらを見ていた。
「えー、受験生の皆さんおはようございます。
これより魔法学校の入学試験を始めますが、その前に私の自己紹介をさせていただきます」
なかなか大きめのとおる声でそう言うと被っていたフードをとった。
その下から出てきた顔は、白髪の女性だった。
顔を見る限りはまだ若く見えるから、多分白髪は地毛だろう。
「私の名前はムミータ・アルスレル。
今回、この入学試験の試験官兼責任者を務めます。
よろしくお願いします」
そう言うと、ムミータはこちらに向かって一礼をした。
礼儀正しい人だなぁ。
「えー、ではさっそく試験の説明をさせていただきます。
まず皆様には、体力を測定するためにマラソンをしてもらいます。
これが第一の試験です。
ルールは簡単、目の前のこの道を一直線に走っていきあの大きな一本の木を目指してもらいます。
そして、木の下にいる係員からハチマキを貰ってそれを腕に巻いてまたここに戻ってきてください」
ハチマキを貰って腕に巻く、か。
なんか珍しいというかおかしな内容だな。
まぁ、簡単にいえばあの目立つ木まで行って、帰ってくるときは中二病を発症させて帰ってくるってことか。
・・・言い方変えるだけで受けるのを少し躊躇わされるのは何故だろうか。
「なおルールとして魔法や能力の使用、その他他の受験生への妨害行為は一切禁止とします。
もし見つけた場合は、その場で受験資格を剥奪しますのでそのつもりで。
また、コースを走られる際はなるべく向かって右側を走り他の受験生との接触を避けてください。
最後に、この試験には時間制限が設けられております。
時間が来ましたら私が試験終了を告げますので、その時点でゴールしていない方は失格とします。
それでは、受験番号1番の方から順番に左に並んでください。
10番目の人が並んだら11番目の人は1番の人の後ろにという感じでお願いします」
そうムミータが告げると、受験生は一斉に自分の番号の所に並び始めた。
・・・って、皆ぞろぞろ動くなー!
もみくちゃにされて動きづらい!
周りが今の俺やロミアより年上の人だらけだから、もう色々と大変だ。
「ロミア!」
俺はロミアの名前を呼び彼女の手を握った。
「放すなよ!」
「う、うん!分かった!」
「シガラ!」
俺はロミアの手を握ったのを確認すると、前で必死に人混みを掻き分けているシガラの名前を俺は呼んだ。
「どうしたの!?」
「このまま俺とロミアを引っ張っていってくれないか?!
俺達じゃ身動きがとれない!」
「分かった!」
俺はシガラから差し出された手を握り、そのまま人混みを突き進んだ。
「ハァ、ハァ、整列だけでも一苦労だな」
やっとのことで所定の位置に俺達はたどり着くが出来た。
子ともが満員電車乗っている時ってあんな感じになるのだろうか。
少しして、人の動きがなくなった。
どうやら皆、自分の位置に着いたらしい。
しばらくすると、俺の列の左横から係員らしき人が来て順番に受験生の指に紐を結んでいる。
そして、係員は俺の目の前へ来ると「利き腕を出して」と言ってきた。
俺は言われたとおりに右腕を出すと、人差し指に赤い糸を蝶々結びされた。
すると係員は1つ横にズレて、次はロミアに同じことをした。
多分、これがシルビアの言っていた魔法を使うと切れる紐だな。
あれ?待てよ、このままじゃ・・・
「えー、受験生の皆様、係員に紐を結んでもらいましたか?
まだ結んでもらっていない方はいませんね?
・・・それでは、これより第一次試験を始めます!」
ヤバイ!
「位置について・・・よーい、スタート」
ムミータの合図とともに、一斉に皆が走り出す。
俺はそれを確認して、ロミアとシガラの手を取って前ではなく左に走った。
「えっ!?」
「ガル!?」
今は二人に説明している余裕はない。
俺達は一目散に、列から外れた。
「きゅ、急にどうしたの?」
シガラが俺の顔を見ながら尋ねてくる。
「あれを見てみろよ」
俺は、先程まで自分達のいた場所を指差した。
「あれって・・・」
ロミアとシガラは俺の指差した方向を見て驚いていた。
さっきまで俺達がいた場所とその周りには、何名もの受験者の地面に倒れている姿があった。
「あれだけの人数が一斉に走り出したんだ。
当然もみくちゃになる。
そうすると、転ぶ人が出てきてその転んだ人につまずいて転ぶ人が出てくるって事だ」
「じゃあ、あのまま僕たちが前に走り出していたら・・・」
「あの人達みたいになって、最悪体中を踏まれたり蹴られたりしてこんな悠長にはしていられないだろうな」
俺はまだ横だったけど、ロミアやシガラはほぼ真ん中にいたからな。
友達が踏んだり蹴られまくるのは見たくない。
「悪かったな事前に言えなくて。
気づいたのが直前だったから言える時がなかった」
俺が謝ると、ロミアが首を横に振った。
「ううん、こっちこそありがとう」
「僕からもお礼を言うよ。
おかげでケガをせずに済んだし」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。
よし、そろそろ行くか。
時間制限もあるんだし」
周りを見ると、俺と同じことを考えていた受験者がいたようで出発し始めている。
俺達は倒れている人達を避けながら走り出した。
走っていて思ったんだが、シガラは体力が結構ある。
俺とロミアのペースに充分ついてきているし、疲れも見えていない。
まぁ、年が離れているから当たり前なのかもしれないがそれでもすごいと思う。
それにしても・・・
「・・・うぅ」
「ハァ・・ハァ」
俺は辺りでうずくまっている人達を見た。
多分この人達は、先頭集団や後ろからの追い上げについていこうとして無理をした人達だ。
よくマラソンで見る光景だよな。
しかも、こうなるとなかなか復帰できない。
マラソンは自分との戦いとはよく言ったもので、ああいう風になってしまうと一部の人を除いて大体の人はゴールまでたどり着くのは難しいだろう。
そんな人達が走っていく度に道にいて、50人以上は絶対にいる。
そして、俺たちのペースが普通に早いからなのか走っていてかなりの数の人達を追い抜いている。
前を見た感じで大体の予想だけど、全体順位の真ん中よりは上にいると思う。
このペースで行けば、良いタイムになりそうだ。
そんな事を考えていると、何だかんだ遠くから見えていたデカイ木のすぐそばまで来ていた。
その前が坂なのでかなり疲れると思っていたが、それでも少しペースを落としたら案外すんなりと走れた。
木の前に行くと、係員の女性が何人か待機していてその手には木箱が持たれていた。
「ここからハチマキを一本とって、腕に巻いたら見せてください」
俺は指示通りに木箱の中から赤いハチマキを一本とり、左腕にグルグル巻きにして両端を握りしめて係員に見せた。
「これで良いんですか?」
「はい、こちらで大丈夫です。
では、このあともゴールを目指して頑張ってください」
俺はそう言われて、隣にいるロミアとシガラを見た。
どうやら二人も無事に中二病を発症できたようだ。
というか、この長さだとハチマキというよりは細い帯みたいだな。
「それじゃあ、帰りも行きと同じくらいのペースで行くか」
『うん!』
俺は二人の返事を聞いて走り出した。
帰りは思っていたよりも疲れなかった。
行きで大体の距離が分かったというのもあるし、ペースが普段のランニングのペースと変わらないというのもあるだろう。
それでも、行きと同じく途中でダウンしている人達は見たけど。
そんな事を考えていると、あっという間にゴールに到着した。
俺は急に止まらずに、息を整えるために少し歩いた。
息はきれているが、それでもまだ余裕はある。
修行してきて良かったとつくづく思う。
「ゴールした人はこちらに来て受験番号の書かれた札を見せてくださーい!」
声のした方を見ると、ムミータが手を挙げて叫んでいた。
「二人とも、歩けるか?」
俺は後ろにいるロミアとシガラに尋ねた。
「うん、大丈夫だよ」
「ぼ、僕も、大丈夫」
ロミアのほうは確かに大丈夫そうだが、シガラは両膝に手をついていて明らかに疲れている。
「シガラ、無理するなよ。
もうゴールはしているんだ、少し息を整えてからでも報告に行くのは遅くないと思うぞ」
「ガルの言うとおりだよ、焦らなくても大丈夫だよ」
「いや、報告は早く行ったほうが良いよ。
それに、休憩は後でも出来るし」
たしかにその通りなんだが・・・まぁ本人がこう言ってるし仕方ないか。
「分かった、それじゃあ先に報告に行くか」
俺はそう言って、二人と一緒にゴールした事を報告した。
ムミータに報告すると「それでは、時間まで近くで休憩をしていてください」と言われた。
俺達はその指示に従い、近くの木を背にしてもたれかかりながら座った。
「それにしても、二人ともスゴいね。
全然疲れてないみたいだし」
そう言うシガラに、俺は前を向いたまま答えた。
「まぁ、俺もロミアも昔からあのくらいの距離を修行で走っていたからな。
体が慣れているんだよ」
「ガルのお母さんに教えてもらってからだから2年くらいだもんね」
ただ、今更だけど5歳児が普段走るような距離ではないと思うけどな。
「・・・やっぱり、二人ともスゴいよ。
僕よりも年は全然下なのに」
「まぁ、育った環境だな。
シガラだって、折り返すまでは疲れているようには見えなかったぞ?」
俺が言うと、シガラは首を横に振った。
「実はあれ、結構無理してたんだよ。
二人が涼しい顔して走ってるから負けられないと思って」
「そうだったのか」
まぁ、気持ちは分からなくもない。
シガラだって年上としてのプライドがあるだろう。
12歳の自分が7歳の俺やロミアに負けたとなったら、悔しいと感じると思う。
「・・・それはそうと、次は多分魔法の試験だな」
「そうだね、大丈夫かな・・・」
シガラが少し不安そうな顔で呟く。
「シガラ、俺がロミアに頼んだ言葉聞いたか?」
「う、うん。
たしかに伝えてもらったけど、本当にそんなことが出来るの?」
不安そうに尋ねてくるシガラに、俺は力強く頷いた。
「出来る。
ただし、やるチャンスのタイミングはシビアだ。
ここぞっていう時に全身全霊をこめるしかないな」
「・・・分かった」
シガラは、納得したけどやはり不安という顔をしている。
まぁ、あとはシガラ次第だな。
「あ、そうだロミア」
俺は隣で座っているロミアの方を見た。
「ん?どうしたの?」
「次の試験で魔法を使うとき、本気で撃っていいぞ」
俺の言葉に、ロミアは驚いていた。
「いいの?」
「あぁ、変に手を抜いて不合格になったら嫌だろ?」
「それは・・・うん」
ロミアは少し戸惑いながらも頷いていた。
俺とロミア、そしてシルビアとの間には暗黙のルールがあった。
それは、ロミアは魔法を使うとき本気でやってはいけないということだ。
ロミアが本気で魔法を撃つと、俺やシルビアでさえ手に負えない時がある。
いや、それが単発ならまだ良いのだ。
問題だったのは、ロミアはその本気の魔法を連発出来ることだ。
一度それをやった時に、うちの庭が一部消し飛ぶという事件があった。
それもありロミアは基本的に本気で魔法を撃つ時は単発でという事になったのだが、本人は単発よりも連発で使うのが好きらしい。
結果、連発の時に本気で撃たないようにしていたら、癖で単発でも全力で撃たなくなってしまっていたのだ。
つまり、今までロミアが俺相手に本気で手合わせしていたのはあくまでルール上の本気だったということだ。
だけど、今回の試験は出し惜しみはしたくないだろう。
ということで、俺はロミアの本気を許可した。
・・・正直な話し、俺もロミアの本気を見たい。
最後にロミアの真の本気を見たのは、5歳の時だ。
それから2年も経っているからな。
本当に町1つが消えそうで怖いけど。
「ただいまの時間で第一次試験を終了とします!
今この場にいる方は、第二次試験の説明をしますので集まってください」
「よし、いくか」
俺はそう言って立ち上がった。
ある意味本番の第二次試験がもうすぐ始まる。




