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第47話 謝罪と言葉

人間生きていれば、どんなに気をつけていても一度は失敗をしてしまう事がある。


大きいものから小さいものまで、そこは人によってさまざまだろう。


で、今の俺の状況はどうなのかというと・・・明らかに大きい失敗だ。


「クレアのやつ、どこへ行ったんだ?」


俺は町から出るときに通った入り口と同じ場所から、町を見て呟いた。


追いかけるのが少し遅くなったせいで、クレアの姿を見つけられていない。


この町を全部見てたらキリがないし、どこか行きそうな所はあるか?


ここ最近はクレアとは別行動だったから、どこに行ってたとかはほとんど分からないからな。


・・・とりあえず、宿に行ってみるか。


俺は走って宿へ向かった。


宿に到着して入り口の扉を開けると、中はいつもと変わらず活気に満ちていた。


まぁ、今の俺はそんな活気の事を気にしている場合じゃないけど。


俺は急いでフロントの横の階段を上がって、部屋に向かった。


部屋の前に辿り着き、ドアをノックする。


「クレア、ガルファットです。

中にいますか?」


何回かノックをして尋ねたが、中から声は返ってこない。


どうやら帰ってきてはいないようだ。


どうする?部屋の鍵はクレアが持っているし部屋の前で待つか?


・・・いや、今もそうだけど他の客が階段を上がって自分の部屋に行く途中でこっちをチラ見してきている。


その状況で待つのはあまりいい気がしないな。


一度町をぐるっと見てこよう。


俺はそう思って宿を出た。


それからしばらくは町を走ってしらみ潰しに探した。


相変わらず町の中も活気があり、人が多くいるせいでパッと見じゃ分からない。


ふぅ、落ち着くんだ。


さすがにクレアもこの町の中にはいるはずなんだ。


慌てずに、慎重に探すんだ。


そう自分に言い聞かせながら、俺はクレアを探した。


ただ、そう言い聞かせてはいたものの実際は少し焦っていた。


クレアの怒った理由も、泣いていた理由も少し考えれば分かることだった。


そして、それが本当に俺が思っている通りだったら・・・俺は最低な事をした。


クレアを探す足がどうしても速くなる。


自分のしてしまった事の罪悪感が、クレアが見つからない事の焦りが、俺から徐々に冷静さを失わせていった。







朝から探しはじめて、今はもうお昼過ぎだろう。


未だにクレアの姿を見つけることはできていなかった。


お店の人などに聴き込みをしてもいるが、皆クレアの姿を見ていないと言う。


さすがにここまで探しているのにいないのはおかしい。


もしかして、クレアはここにはいないのか?


そう思い、俺は右を見た。


今俺がいるのは中流階級のエリアだ。


そして、俺が見ている視線の先には下流階級のエリアの入り口がある。


クレアは上流階級のエリアは好きじゃないと言っていた。


そっちに行く可能性は低いだろう。


中流階級のエリアは殆ど探した。


俺は下流階級のエリアの入り口を通った。


「・・・何だこれ」


そこは、一言で言えば荒んでいた。


さっきいた場所とは、まるで違う。


全てがボロボロで、全てが汚れていた。


空気すら、淀んでいる気がした。


アルマのやつ、こんなところに住んでるのか。


というか同じ町の中なのに、こんなに違うのか。


俺は足を進めた。


周りを見渡すが、クレアどころか人の気配がしない。


根本的に人がいないのか?それとも、人はいるけど皆静かにしてるだけなのか?


どちらにしろ、クレアはいそうにないな。


俺がそう思った時だった、誰かと肩がぶつかった。


「いてっ」


相手は尻餅をついた。


「大丈夫?」


俺はその子に手を差しのべた。


俺と同い年くらいの男の子のようだ。


ヤバイな、クレアを探すのに夢中で前を全然見ていなかった。


「う、うん、ありがとう」


男の子は俺の手を握って立ち上がった。


「いや、俺の方こそ悪かった」


俺が謝ると、男の子はそのまま立ち去っていった。


俺はまた、クレア探しを再開した。


「・・・ここにもいなかったか」


入り口から真っ直ぐ歩いてきて、結局もう1つの出入口まで来たがクレアを見つける事は出来なかった。


ダメだな、完全に行き詰まった。


ふぅ、落ち着くんだ。


焦って見つかる事はないし、昼飯食べてもう一度探そう。


そういえば、今いくら持ってたっけ?


いつも必要な分だけ持ち歩いて、残りは部屋の自分のカバンの中に閉まっているけど、部屋に入れない分少し気をつけて金も使わなきゃいけないからな。


そう思い、俺は自分のズボンのポケットに手を入れた。


・・・あれ?


お金を入れてあるはずの袋がない。


逆のポケットも探る。


・・・ない。


俺は思い付く限りくまなく調べた。


だが、金の入った袋は出てこない。


何処かに落としたのか?


だとしたらもう取り戻せる可能性は0に近いぞ。


平和な日本だったら財布を落としたら交番に届けてくれる事もあるだろう。


だけど、ここは違う世界だ。


交番もないし、金を拾ったらまずそのまま自分の懐に入れるだろう。


状況としては最悪だな。


「お前・・・ガルファットか?」


俺が再度財布を探していると、後ろから声をかけられた。


振り返ると、そこには知っている顔があった。


「・・・アルマか」


俺が名前を言うと、アルマは驚いた顔をした。


「どうしたんだよ?

お前がこんなところに来るなんて」


「あぁ、実は・・・」


俺は今日の出来事をアルマに話した。


「つまり、そのクレアって人を探してこんな所まで来て財布を無くしたってことか?」


「そういうことになる」


俺が言うと、アルマは何か思い出したような顔をした。


「ところでお前、ここで誰かにぶつかったりしなかったか?」


「ん?あぁ、確か同い年くらいの子とぶつかったけどどうして分かったんだ?」


俺が尋ねると、アルマは呆れ顔でため息をついた。


「はぁ・・・お前やっぱりバカだろ」


「な、何だよ急に・・・」


「すられたんだよ、そのぶつかった奴に」


「・・・はぁ?」


俺はアルマの言っている事が理解できなかった。


「すられたって、あんな一瞬の間にか?」


「ここに住んでいる奴なら子どもだってできるぞ。

俺みたいに店の物盗むよりよっぽどバレにくいからな。

うまい奴なら、体ぶつけないですれ違いざまに盗めるし」


「マジか、そんなに危ないのかよここ」


「まずこんな所に金持ってくるお前が悪いんだよ!

すってくれって言ってるようなもんだぞ!」


アルマにものすごい剣幕で怒られた。


「・・・悪い、反省している」


「ここじゃそんなの日常茶飯事なんだよ。

ここに来るときは金は持って来るな、子どもでも知ってる常識だぞ」


「あぁ、すまなかった」


俺が力なく謝ると、アルマが不思議そうな顔をした。


「どうしたんだよ?

前のお前だったら、冗談の1つでも言ってる所だろ」


「・・・そうだな。

悪い、今は冗談言えるような状態じゃないんだ」


「かなりまいってるみたいだな。

クレアってやつを怒らせた事、気にしてるのか?

そんなに気にするなら最初からしなきゃいいだろ」


アルマの言葉に、俺は苦笑いして返した。


「それは分かってるんだけどさ、人って出来事があった後に後悔するんだよ。

やる前に今の気持ちを体験すれば、絶対にしないはずなのにな」


「・・・それは分からなくもないな。

ところで、お前の知り合い本当にこの町にいるのか?」


「どういうことだ?」


「お前はそいつがこの町に入る所を確認してないんだろ?

だったら、そっちの方角に行ったってだけで本当は外にいたんじゃないのか?」


・・・その線は、考えなかったな。


「確かに、言われてみればその可能性もあるな。

ありがとう、もう少し探してみる」


「まぁ、それはお前の自由だけど。

ていうか、本当に大丈夫か?

汗だくになってるぞ」


アルマに指摘されて、俺は自分の額を触った。


手のひらには大量の汗を拭った感触を感じた。


「このエリアに来るまで走りっぱなしだったからな、まぁ大丈夫だろう」


俺はそう言って、アルマに背中を向けた。


「それじゃあ、俺はもう少し探しに行ってくる」


「分かった。

・・・あ、ガルファットちょっと待て」


俺はアルマに呼び止められたので、後ろを振り向いた。


「お前、今どこに住んでるんだ?」


「ん?今は中流階級エリアのお前と最初に会った場所の近くのデカイ宿だけど、どうかしたのか?」


俺が尋ねると、アルマは笑顔で答えた。


「今度、遊びに行ってやろうって思ってな。

飯を奢ってもらいに」


「お前・・・ついさっき金すられた奴に普通飯たかるか?」


「それが俺だからな。

頑張って探してこいよ」


「はぁ、まぁ行ってくるわ」


俺はそう言って、アルマに手を振ってその場を後にした。


「・・・まったく、ガルファットがあんな調子じゃこっちがやりづらいな」







それから俺は町の外もくまなく探した。


それこそ、町を囲っている壁沿いにぐるっと一週した後に近くの森の方にも行った。


その間、出来る限り速く移動できるようにずっと走り続けた。


日頃運動していたとはいえ、朝から走りっぱなしだとさすがに疲れてくる。


俺が疲れて足を止めた時だった、ふと周りが暗くなっている事に気がついた。


まさかと思い山を見ると今にも日が沈もうとしていた。


マジか、朝から探し続けて結局見つからなかったのかよ。


どうする?さすがに宿に戻っていると思うし一度俺も戻るか。


そう思い、俺はまた走り出そうとした。


しかし、足が動かなかった。


いや、正確にいえば足は動く。


歩くことなら出来る、しかしその歩きもふらついていて危なっかしいものだった。


クソッ、とにかく宿に戻って休憩しよう。


そう考えながら、俺はフラフラと町の入り口まで歩いていった。


「はぁ、はぁ・・・着いた」


俺はやっとの思いで町の入り口に辿り着いた。


ここまで来れば、宿まではそんなに遠くない。


俺は一歩、また一歩と足を進めた。


そして、次の一歩を踏み出そうとした時だった。


俺の体は、力なくその場に倒れた。


「え・・・?」


何が起きたのか分からなかった。


ただ分かることは、体に力が入らないという事だった。


どうしたんだ?急に力が・・・。


起き上がろうとするが、手足が痺れていうことをきかない。


・・・そうか、原因が分かった。


そういえば、クレアを探し始めてから飯食ってないし飲み物も口にしては無なかったな。


まったく、前世で脱水症状が原因で死んだっていうのにまた同じことしてるのかよ。


運動する時はちゃんと水分補給しましょうって、学校の先生に習ったじゃねぇか。


俺は力なく笑った。


・・・今度はこんな所で死ぬのか?


もう、日も沈んでしまったのだろう。


辺りは暗くなり、人も通っていない。


なんだよ・・・さっきまで体が熱かったくせにいつの間にか寒くなってきたじゃねぇか。


クソッ、せめて死ぬならクレアに謝ってから死にたかった。


本当に、後悔ってのはしたくないって思うのにしちまうから嫌いだ。


・・・ダメだ、視界が暗くなってきた。


「お前、こんな所で何してるんだよ?」


もうダメだと思った時だった、頭の上から声が聞こえた。


俺は力を振り絞って、声をした方を見た。


そこには、アルマがいた。


だけど、昼間会ったときは明らかに違う姿だった。


まるで誰かと喧嘩でもしたかのように、ボロボロなのだ。


「・・・お前こそ、その格好、どうしたんだよ?

喧嘩でも、したのか?」


俺が尋ねると、アルマは俺に近寄りながら答えた。


「今時体ぶつけてスリをやるやつなんて大体分かるからな、仲間がいたのは誤算だったけど」


そう言って、アルマは俺に小さな袋を俺に見せた。


「お前・・・それは俺の・・・。

取り返してくれたのか?」


アルマが俺に肩をかして、俺の体を立たせた。


俺の体は力が入らないせいで、ブランとなっている。


「俺にも良心ってのがあるんだよ。

金取られた奴に飯奢ってもらっても美味くないだろうし、これでお前は俺に奢らざるを得ないだろ?」


笑いながら言うアルマに、俺は苦笑いした。


「ずいぶんと金にがめつい良心だな」


「何とでも言え、お前の方こそ今までずっと探してたのか?」


俺を引きずるように歩きながら、アルマが尋ねてきた。


「・・・あぁ、結局見つからなかったからな」


「そうか。

ん?ていうことはお前宿に戻ってないのか?」


「戻ってない・・・」


「じゃあ、飯どうしたんだよ?

飯食うのに金が必要だろ?」


「・・・忘れてた」


「じゃあ飲み物は?」


「それも・・・」


「・・・はぁ!?」


耳元でアルマの大声が聞こえた。


「お前あれから飲まず食わずでずっと探し回ってたのか!?バカかよ!?」


「・・・あぁ、バカだよ」


俺はアルマに、力なく返した。


「自分が、傷つけた、女さえ見つけられない・・・」


もう、身体中の水分がなくなって汗すら出なくなっていたはずなのに。


俺の眼からは涙が流れていた。


「・・・何でそこまでして探したんだよ。

ていうか、俺と最初に会った時のお前は、頭が良かっただろ。

宿で待ってれば、時間が来れば会えることくらい何で考えなかったんだよ?」


「・・・早く、謝りたかったんだ」


俺の口からは自然に言葉が出ていた。


「俺は、クレアとの大切な約束を忘れていた。

あいつが、どんな思いで、その約束をしたのか知っていたはずなのに。

俺は、あいつに殴られるまで、それを忘れていた。

会わせる顔がなかった、何て謝ればいいか分からなかった。

とにかく、クレアに会えば謝る言葉は自然に見つかると思っていた。

なのに・・・死にかけている今でさえ、何て言って謝ればいいか分からないんだ」


「そんなの、ごめんって言えばいいだろ」


俺の言葉を聞いて、アルマが言った。


「お前とそのクレアって奴がどんな約束したのか俺は知らないけど、ごちゃごちゃ言い訳考える前にまずは、ごめんって言えば良いんだよ。

そうすれば、その後の言葉は自然と出てくるもんなんだよ。

最低でも、俺はそうしてきた。

お前はやろうとしてる事が逆なんだよ」


まさか、精神年齢30のおっさんが7歳の子どもにこんな事言われるとは思ってなかった。


思ってなかったけど・・・


「アルマ・・・」


「なんだよ」


「・・・ありがとう」


救われた気がする。


気持ちがさっきよりも楽になった気がする。


「まったく、礼は言葉じゃなくて飯で貰いたいな」


「・・・今度、ちゃんと奢るよ」


「約束だからな、忘れるなよ」


そこで、俺の意識は途切れた。

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