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第41話 バイトと宿

「それじゃあ、3人共元気でね」


ソロモンの中に無事に入れた俺達は、入り口を入ったすぐの道脇で馬車から降ろしてもらった。


「ありがとうございました。

お二人もお元気で」


ミレルダとブロンさんにクレアがお辞儀するのを見て、俺とロミアもお辞儀をした。


『ありがとうございました』


「ハッハッハッ!

また移動手段が無かったら声をかけてくれ!

運が良ければ運んでやるよ!」


「そうだね!また見たかけた時は声をかけておくれ!」


『はい!』


俺達はミレルダとブロンを乗せた馬車に手を振りながら、見えなくなるまで見送った。


「さて、じゃあ僕達は泊まる宿を探そうか」


「そうですね、俺とロミアは初めてだから分からないんで師匠に任せっきりになりますけど」


「それは大丈夫。

何軒か心当たりがあるからまずはそこを当たってみよう」


「分かりました、それじゃあ行きましょうか」


俺の言葉を聞くと、クレアが歩き出したので俺とロミアもそのあとを付いていくように歩き出した。


「この町ってこんなに大きいんだね。

迷子になりそう」


「確かに全部の場所に行こうとしたら迷っちゃうだろうけど、人によって大体の行く場所は決まってるから大丈夫だよ。

それに、この町は場所によって階級が決まってるしね」


周りをキョロキョロしながらロミアが言うと、クレアが説明してくれた。


「階級?」


「そう、この町は壁で周りを囲まれていてその中では場所ごとに階級が違うんだ。

今僕たちが歩いているこの場所はいわゆる中流階級のエリア。

ここから右が下流階級のエリア、左が上流階級のエリアになってるんだ」


「そういう風になってるって事は、何かしら違いがあるんですね」


俺が言うと、クレアが頷いた。


「うん、上流階級のエリアには貴族やお金持ちの人達がいるね。

それ以外の人達は用事がない限りは、基本的にはそっちのエリアには行かないね。

まぁ、行こうとしてもまずは門番に言わなきゃいけないんだけど」


「門番がいるんですか?」


「うん、あのエリアはお金持ちの人達がどうしても多く集まるから、盗難や誘拐を防ぐためにエリアの入り口に門番がいるんだ」


「じゃあ、もしかしたら私は行けないのかな?」


ロミアに尋ねられたクレアが、苦笑いしながら頷いた。


「何か特別な事でもない限りはそうだね。

まぁ、魔族とか関係なくあの場所は苦手な人が多いから行く機会自体が無いと思うよ」


「じゃあ、僕でも何かない限りは行かなそうですね」


「そうだね、個人的にガルファット君は好きじゃない雰囲気だと思うよ」


「そうなんですか。

ところで師匠、そこまで知ってるって事は行ったことがあるんですか?」


「ううん、入り口から中を見たことがあるだけ。

それでも、雰囲気みたいなのは分かったよ。

僕もあそこは好きにはなれないかな」


苦笑いしながら、クレアが周りを見ている。


心当たりのお店を探しているのだろう。


「それで、あとの2つはどんな感じなんですか?」


「ここは中流階級のエリアだけど、見たまんまだね。

商人が多いから色々なお店があるし、そのおかげで人の交流が多いね。

ここは階級関係なく色々な人達がいるよ」


クレアの言葉を聞いて、俺も辺りを見渡す。


確かに、魔族もいれば貴族のような人達もいるし普通の人達もいる。


「ん?あれって・・・」


俺は、ある光景を見て呟いた。


「そんな悪いですよ」


「いいんだよ、君の奥さんにうちの妻が世話になってるんだからこれくらい日頃の感謝として渡させてくれ」


「そう言われても、私の妻は趣味でやっていることを奥さんに教えているだけですし、それでこんな高価な物をいただくのは・・・」


「これでプレゼントしなかったら、私の顔が立たないんだよ。

ここは私の顔を立てると思って受け取ってくれ」


この会話だけなら特に珍しくもない光景だろう。


ただ、この会話をしているのが貴族と思われる男性と魔族の男性となると話しは変わってくる。


「あぁ、あの光景はこのエリアじゃ珍しくないよ。

ミレルダさんが言ってたように、貴族でも魔族を嫌っているかは人それぞれだからね。

ああいう風に仲の良い光景もそこそこ見かける時があるよ」


「へぇ、じゃあ残るは下流階級のエリアですね」


「そうだね、あそこは貧困な人達が集まっている場所だね。

治安もそこまで良くなくて、盗みや恐喝なんかも日常茶飯事だよ」


「同じ町なのに、エリアが違うだけでそんなに違うの?」


「人っていうのは自分と似た雰囲気の場所に固まりやすいんだよ。

この町でそれが顕著に表現されたのがエリアで別れている所だね」


「そんなものって言えば一言で済むんでしょうけど、なんとも言えない感じですね」


そう言って俺はまた辺りを見渡す。


周りには人や店がたくさんあり賑やかだ。


俺は雰囲気が人を変えるのか、人が雰囲気を変えるのかどちらだと問われたら後者だと思う。


こういう雰囲気は嫌いじゃない。


前の世界じゃ自宅で部屋に籠って仕事する事が多かったけど、祭りとかクリスマスや年末年始なんかのイベントみたいなのがある時は外に出たりしてたし。


・・・カップルを見ると少し泣きたくなったけど。


「あ、あったあった」


そう言って、クレアがある建物の前で立ち止まった。


「ここが師匠の言っていた宿ですか?」


「うん、ここは大きい宿の中でも評判の良い宿でね。

僕も使ったことがあるから、どんな感じか分かってるけど評判どおりで良いところだよ」


「確かに大きいですね、中からも人の声が沢山聞こえてきてますし」


俺は建物を見つめた。


改めて思う・・・デカイ。


高層ビルや前の世界のホテルとかと比べたら全然小さいが、この世界じゃかなり大きいほうだろう。


しかも全面が白い壁で出来ているので、周りが茶色系統の色が多いこの場所だと目立つ。


そういえば、この世界で宿に泊まるのって今回が初めてだな。


どんな感じか分からないから緊張してきた。


「よし、それじゃあ入ろうか」


「そうですね、ここでいつまでも立ち止まっているわけにもいきませんし」


俺がそう言うと、クレアが入り口に行くため目の前の階段を上り始めた。


俺とロミアもそのあとに付いていくように階段を上る。


階段を数段上がった目の前には、周りの白い壁と区別をつけるように茶色のドアがあった。


クレアはそれを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。


「どういうことだ!!」


俺たちが扉を開けて聞いた第一声は、若い男の怒声だった。


中を見渡すと、周りには大量の丸いテーブルと椅子。


椅子に座り、飲食をしている人達。


そして、奥には受付のようなカウンターがありそれを挟んで白髪頭に眼鏡をかけた老人がいて、その目の前には鎧を着た金髪のおそらく男であろう人がいる。


鎧を着た男の方はこちらに背を向けていて顔は確認出来ないが、老人の方は無表情で男の対応をしている。


「先程も申し上げたとおりです。

今、この宿の他のお客様の宿泊状況ではお客様がおっしゃられた人数は許容範囲外です。

根本的に部屋の数が足りないのです」


「だから!

それなら他の宿泊客を追い出せばいいだろう!

金なら宿泊費の3倍は出す!

それだけの金を出されて何の不満があるというんだ!」


「お金で解決出来ることではありません。

この商売ではお客様との信頼関係が第一です。

常連のお客様もありがたいことに大勢いらっしゃいます。

ここで一時の大金のために他のお客様を追い出すようなことをすれば、この宿の信用はたちまち地に落ちます。

何より他のお客様へ申し訳が立ちません」


「アガルタ家当主グリーダ・アガルタの次男であるこのダリア・アガルタがこうして直々に頼んでいるのだぞ!」


「たとえこの国の国王の願いであっても、首を縦に振るわけにはいきません」


なるほど、会話を聞いてて何となく状況は分かった。


つまり、あのダリアって男がここに宿泊したいって来たら部屋に空きがなくて断られたと。


周りに連れがいないところを見ると、どこか別の場所にいるのだろう。


それで、素直に引き下がらずにあのフロントの老人を困らせていると。


まぁ、話の内容を聞く限り老人の方が完全に正論だな。


むしろ感心するほどだ。


「おや、新しいお客様ですかな?」


老人が俺たちに気付いたらしく、こちらに話しかけてきた。


「は、はい、この宿に泊まらせてもらいたいんですが」


「それはありがとうございます。

そちらでは何ですから、どうぞこちらにお越しください」


俺達は老人の言葉に従い、カウンターの方へ歩き出した。


「おい!こちらの話しはまだ終わってないぞ!」


「どういう条件を提示されても、お客様のご要望にお答えすることはできません。

どうぞ、お引き取りください」


老人とダリアが会話している間に、俺達はダリアの右横に来た。


俺はダリアの顔を見た。


何もなければ普通のイケメンの顔だった。


子どもが駄々をこねるようなこんな会話をしているせいで、色々台無しになっているのが残念だ。


ふと、ダリアがこちらを見た。


俺の視線に気付いたのだろうか。


いや、俺とダリアは目が合わなかった。


どうやらダリアは俺ではなくロミアを見ているようだ。


「ん?」


ロミアはダリアの視線に気付いたらしく、ダリアの方を見る。


ロミアとダリアの目が合った瞬間だった。


ダリアの顔の険しさが増した気がした。


「・・・おい、店主。

まさかとは思うが、この娘を宿に泊める気か?」


ダリアはロミアの方を見ながら、老人に尋ねた。


あの老人、この宿の店主だったのか。


店主の方を見ると、俺たちの顔を一通り見渡していた。


「そうですな・・・ご宿泊は3名様ですかな?」


店主がクレアに尋ねる。


「は、はい、そうです」


「2名様用のお部屋しかご用意できませんが、それでもよろしいですかな?」


「はい、こっちは子どもが2人なのでそれでも大丈夫です。

ガルファット君、ロミアちゃん、2人で1つのベッドを使ってもらう事になるけど大丈夫?」


「はい、僕は大丈夫です」


「私も大丈夫」


俺とロミアは、クレアに向かって頷いて返す。


「それならお部屋を用意できますな。

ご宿泊可能です」


「バカな事を言うな!」


ダリアは店主に怒鳴った後に、ロミアを指差した。


「ちゃんと全員の顔を確認したのか!?

この小娘は魔族だぞ!

なぜ穢れた血が流れて生きている魔族が良くて、この高貴な貴族であるダリア・アガルタはいけないのだ!

理解できない!」


・・・は?


「お客様、今のお言葉訂正してください」


「訂正などしなくても良かろう!

魔族とはあのバーデン・アリソンの子孫だ!

あの者がしでかした事を知らぬわけでもあるまい!

あんな大罪を犯した者の血が入ったのが同じ空気を吸っている事自体がすでに罪なのだ!

こやつらは生きている事自体がすでに万死に値する誤り!

そんな生きる害悪を宿に泊まらせて、私の願いを却下するとは正気を疑うぞ店主!」


正直、ぶちギレそうだった。


初対面の何の罪も無いロミアに対して、ここまで自己の考えで生きている事自体を否定するこの男に俺は腸が煮えくり返った。


俺はロミアを見た。


体が微かに震えているのが分かった。


・・・決定だな。


「・・・師匠、なるべく問題を起こしたくなかったですけどこればっかりはどうにもなりません」


「大丈夫だよ、ガルファット君。

僕も一緒の気持ちだから」


俺が小声でクレアに言うと、クレアも小声で俺に返した。


その声には、確かに怒りが混じっているのが分かった。


「まったく何で神はこのような下衆が生きることを許しているのか。

私が神だったら、このような生物の最底辺は粛正したいな」


もう、限界だ。


俺はダリアに向かって右手の手のひらを向けた。


手のひらに魔力を注入する。


属性は火だ。


跡形も無いように、全身消し炭にしてやる。


自分の体が焼ける痛みで悶え苦しませる。


「ぐぎゃあ!?」


俺がそう考えながら、魔法の準備をしている時だった。


突然視界からダリアが消えた。


そして、先程までダリアの顔面があった場所には店主の右拳があった。


それを見て俺は初めて、店主がダリアを殴ったのだと認識した。


「いい加減にしろ若僧」


店主が放ったその言葉は、先程とは違う声だった。


まるで、その言葉だけで人を殺せるのではなかろうかという殺気が混じっていた。


店主はゆっくりとカウンターの横から出てくると、殴られて仰向けになっているダリアの足元へゆっくりと歩いて近づいた。


ダリアは気絶しているのか、ピクリとも動かない。


「魔族というだけで罪のないお嬢さんにあんな罵声を浴びせるとは。

貴様のほうが穢れている」


店主のダリアを見る目は、文字どおり汚物を見るような目だ。


「最初の頃の状態だったら次来たときは利用させてやろうと思ったが気が変わった。

永久追放だ。この宿への出入りを一切禁止にする」


そう言うと、店主は鎧を着たダリアの首を片手で掴んで軽々と持ち上げた。


「悲しいな、貴様のような貴族がいるおかげで魔族は未だに肩身の狭い思いをすることもある。

同時に、他の魔族に友好的な貴族たちの印象さえ悪くしてしまう。

害悪は誰かと問われれば、間違いなく貴様だろうな」


店主はダリアを持ち上げたまま、入り口の扉まで歩くと外へダリアを投げ飛ばして扉を閉めた。


「はぁ・・・」


店主は溜め息をつくと、振り返って俺たちの方へ歩いてきた。


そして、ロミアの目の前で膝をついてロミアの頭をそっと撫でた。


「すまないねお嬢さん、不快な思いをさせてしまって」


そうロミアに言う店主の顔は先程とはまったく違っていた。


まるで、孫を可愛がるお爺ちゃんのような笑顔だ。


「い、いえ、大丈夫です」


一方のロミアはというと驚いた顔で店主を見ている。


ロミアの言葉を聞くと、店主はゆっくりと立ち上がって真剣な顔をして俺たちに頭を下げた。


「先程は申しございませんでした。

お客様に不快な思いをさせてしまいまして」


「い、いえ!おじいさんのせいではないですよ!」


「仮にそうでも、このまま何もしなければ私の気がすみません。

お客様3名様のご宿泊料金を割引させてはいただけないでしょうか?」


「そ、それは僕たちは構いませんけど、よろしいんですか?」


クレアが尋ねると、店主は頷いた。


「今回の件、あの者をもっと早めに追い返す事もできたはずなのにその手段を取らなかった私にも責任があります。

このままお詫びしなかったら、他の従業員に示しがつきません」


「・・・分かりました、ではお言葉に甘えさせていただきます」


クレアの言葉を聞くと店主の顔は笑顔になった。


「ありがとうございます。

それでは、こちらで手続きをお願いします」


そう言うと、店主はまたカウンターの中へ入り紙とペンをこちらに差し出した。


クレアはそれを受け取ると、俺達3人の名前を書き始めた。


その他にも滞在期間などの少し細かい事も書いていた。


「そういえば、お客様とそちらの坊や。

先程の動きを見る限り、魔法と武術を使えるのですかな?」


店主の言葉を聞くとクレアはペンを置いて、店主の顔を見た。


「はい、一応使えます。

・・・さっきの動きだけで分かったんですか?」


クレアが尋ねると、店主は笑顔のまま頷いた。


「私は昔から剣術を嗜んでいまして、若い頃は数えきれないくらいの戦場へ戦いに行っていたのですよ。

その頃は、よく周りを敵の兵士に囲まれる事がありまして周りの人間の動きを見るのが癖になってしまっているのです」


「なるほど、どおりで見事なパンチだと思いました」


「この年になってもやはり出るときは手が出るものですね、お恥ずかしい限りです」


「いえいえ、もしあのまま殴ってくださらなかったら僕たちが手を出していましたよ。

あ、これで書き終わりました」


クレアが苦笑いしながら言うと、紙とペンを店主へ返した。


店主はそれを受け取ると分厚い本を取り出して、紙と見比べながら本に書き込みを始めた。


「しかし、このご時世になってもああいう考えの者がいるのは悲しい事ですな」


ペンを走らせながら、老人がこちらを見ずに言った。


「そうですね。

昔ならともかく、今じゃ魔族だって人間と変わらない扱いがほとんどだっていうのに」


「おっしゃられるとおりですな。

これは私個人の考えですが、人間よりも魔族のほうが心の優しい子は多い気がします。

それもあって、この宿では魔族の従業員を積極的に雇うようにしているんですよ」


店主の言葉を聞いて、俺は周りを見渡した。


最初は気づかなかったけれど、周りで飲食をしている人達にメイド服姿で話しかけている女の子がいるが、そのほとんどが魔族だ。


客の方はというと、女の子達に笑顔で楽しそうに話しかけている。


女の子達の方も、嫌な顔はしておらず楽しそうに会話している。


先程までの光景とは天と地の差といった感じだ。


「確かに、特にトラブルとかも起こっていないし皆楽しそうですね」


俺が言うと、いつのまにか店主が俺の見ていた方を見ていた。


「あの子達は本当に一生懸命働いてくれていてね。

他にも、この宿の掃除や厨房を担当してくれている子達もいるけど、冗談抜きにあの子たちがいなかったらこの宿はまわらないよ」


すごいな、そこまで信用されているのか。


「お嬢さんも働きたいと思った時は声をかけてくれれば、いつでも面接するよ」


「あ、ありがとうございます」


見ると、店主がロミアに向かって笑顔で言っていた。


・・・さっきからロミアの様子が少しおかしい気がする。


まぁ、あんなこと言われた後だから仕方ないか。


何か、考え事をしているように見えるんだよな。


気にしてないと良いんだけど・・・後でフォローしとくか。


「さて、それではこちらがお部屋の鍵です。

お部屋は左の階段を上がって、左の奥の部屋です。

鍵にお部屋の番号が彫られておりますので、そちらをご参考にしてください」


そう言うと、店主はカウンターの上に手の平サイズの木の板を置いた。


クレアはそれを確認して自分のポケットに入れた。


「ありがとうございます。

それじゃあ、二人とも行こうか」


クレアの言葉に、俺とロミアは頷いた。


クレアはそれを見ると、荷物を持って左の階段に向かって歩き出した。


俺とロミアも、自分の荷物を持ってクレアの後を追う。


階段を上がると、左右に長い廊下が伸びていた。


クレアは店主の説明どおり左に歩いていく。


少し歩くと、部屋の扉の前にたどり着いた。


その扉の上の方には、大きめの文字で5が書かれている。


クレアはそれを確認すると、さきほどポケットに入れた木の板を取り出して扉のドアノブの少し上の窪みに嵌め込んだ。


すると、扉からガチャッという音が聞こえた。


それを聞くと、クレアは木の板をまたポケットに入れて部屋の扉を開けた。


「おぉー・・・」


扉を開けた先の部屋は、そこまで特徴的な部屋ではないがなぜか声が出た。


こっちの実家の俺の部屋よりは大きいが、驚くような広さではない。


だが、掃除が行き届いているのかとても清潔感がある。


外の光が射し込んでいるのもあるのだろう、とても綺麗だ。


ベッドは2つあり、大人一人が寝るのには充分な大きさだ。


俺とロミアが一緒に寝ても問題ないな。


「さてと、じゃあ入ろうか」


そう言うと、クレアは部屋の中に入っていったので俺とロミアも部屋の中に入った。


「ふぅ、やっと到着だね」


クレアが手前のベッドに座って、一息ついた。


「そうですね。

でも、まだ試験の日までは時間があるんですよね?」


俺はバッグを奥側のベッドの上に置いて、クレアと同じようにベッドに座った。


ロミアも同じように、ベッドの上の俺の後ろに座った。


「そうだね、僕もやりたいことがあるからそれまでは二人と一緒にいるよ」


「やりたいこと、ですか?」


俺が尋ねると、クレアは頷いた。


「次に旅に出る前にある程度お金を稼いでおきたいんだ。

何か稼げそうな事がないか、さっきのお爺さんに聞きに行ってくるよ」


「お金、ですか。

それなら、僕たちも何かしら稼ぐ方法を探した方が良さそうですね」


お金は旅に出る前に俺とロミアもある程度もらったけど、それでも自分で稼ぐ方法を見つけるのに越したことはないだろう。


「そうだね、もし良いのがなかったら僕も一緒に探すからその時は言ってね。

じゃあ、僕はお爺さんの所に行ってくるね。

鍵は部屋に置いておくから、部屋を出る時は忘れないでね」


「分かりました、部屋を出た時は一声かけますね」


「そうしてくれると助かるよ、それじゃあ行ってくるね」


そう言うと、クレアは荷物の入ったバッグと鍵をを置いたまま部屋を出た。


さてと、じゃあ俺もちょっとそこら辺を散歩でもしに行くか。


「ロミア、俺は外に散歩に行くけど一緒に来る・・・」


俺が尋ね終わる前に、ロミアが俺に抱きついてきた。


背後からだから、ロミアの顔は確認できないが俺の背中に顔を押し当ててるようだ。


「・・・さっきの事を気にしてるのか?」


「ううん、それは大丈夫。

ミレルダさんから聞いた時から覚悟はしてたから。

今回はガルから勇気をもらいたいの」


「勇気?」


俺が尋ねると、ロミアは少しの間黙ると静かに俺に尋ねてきた。


「ガル、さっきお爺さんが私に言った事覚えてる?

働きたい時は声をかけてって言ってたの?」


「そういえばそんなこと言ってたな。

・・・働きたいのか?」


「うん。

・・・魔法学校に入学するまでの間だけど」


つまり、正社員ではなくアルバイトをしたいと。


・・・さて、応援すべきかそれとも止めるべきか。


いつもだったら応援するんだけど、さっきの事を考えるとなぁ。


俺は少し考えた後、静かに口を開けた。


「ロミア・・・」


俺が名前を言うと、ロミアは俺の体をギュッと抱きしめた。


「迷惑かけないように、頑張れよ」


「・・・ありがとう、ガル」


ロミアが離してくれそうになかったので、少しの間俺はロミアに抱き付かれたままでいた。

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