第37話 恋ばな?
人は旅にでかける時に、何を気にするだろうか。
荷物だろうか?それとも道順やかかる日数などの事前の日程の確認だろうか?
人によっては、誰かに旅に出ることを告げるということもあるだろう。
ということで、俺も出発の前日にして挨拶をしに来た。
「おーい紅、遊びに来たぞー」
俺は毎回と同じように、入り口の扉を開けて紅の名前を呼んだ。
すると、やはりというのか部屋の奥の暗闇の中から紅はこちらに歩いて近づいてきた。
「お久しぶりです、ガルファットさん」
紅は微笑みながら俺に言った。
「おう、久しぶり」
「それで今日はどうなされたんです?」
紅が首を傾げながら俺に尋ねてきた。
「明日家を出るから、お前に報告しておこうと思ってな」
俺が答えると、紅は口元に手をかざして驚いた表情をした。
「え!?
まさか・・・追い出されたのですか?」
「お前、俺がそんな事するように見えるのか?」
「だってロミアちゃんにフィーネちゃんにクレアちゃんまでいらっしゃるんですよ?
間違いの1つや2つ・・・」
「あー、それなら大丈夫だぞ。
俺、あと何年かしたらロミアにお持ち帰りされるらしいから」
「あんな幼い子に今からそんな事される予定があるなんて・・・どんな調教したんですか?」
「やめてくれ、捕まりたくない」
俺が答えると、紅はクスクスと笑った。
「でも良かったじゃないですかそんなにモテて」
「いや、別にモテてるわけじゃないだろ。
確かに前の容姿と比べたら、こっちのほうがカッコいいのは分かるけど中身は俺なんだから。
仮に見た目だけでモテてるとしても、見た目だけで判断する女性はあんまりなぁ・・・」
確かにいくら中身が良くても、その中身を見てもらうためにはある程度の見た目が必要なのは分かるけど。
でも、やっぱり俺は中身で見るんだよなぁ。
相性や価値観が合っていれば、だいたいはOKだと思うし。
「それなら良かったじゃないですか。
3人とも恋愛対象には充分な方達でしょう?」
「そりゃ、異性として見るなら皆魅力的だけどさ。
クレアは明るくて少し子どもっぽいところがあるけど、そこも可愛いし。
見た目だって武術のおかげで綺麗な肉体をしてて申し分はないくらいだ。
自分より強い人って条件を改善すれば、嫁の貰い手なんていくらでもいるだろうな」
「それなら、ガルファットさんだって条件をクリアされてるじゃないですか」
「俺とクレアは師弟だぞ?
恋愛とかそういうのに発展する関係じゃないさ」
「師弟でも、男女ならあり得るんじゃないんですか?」
紅がニヤニヤしながら俺に尋ねてきた。
「仮にそうだとしても俺みたいなのはオススメしないな。
恋愛とか結婚とかに興味がない訳じゃないけど、俺なんかより良い男は有り余るくらいいるだろうからな。
俺は結婚できるまでまだまだ時間かかるし、他の男とのほうが色々と良いだろ」
「それなら、ロミアちゃんはどうなんですか?」
「うーん、まだ幼いから何とも言えない部分があるけど性格は良いと思うな。
素直な所もあるし、俺の誕生日の時のために料理を練習してたって事も正直嬉しかったしな。
見た目だって、あのまま成長したら美人になるだろうな」
「しかも同い年。
それなら、ガルファットさんだってロミアちゃんを恋愛対象に入れる可能性はあるんじゃないんですか?」
「いや、今のところロミアが恋愛対象に入ることはないだろうな」
俺は紅の問いに首を横に振って答えた。
「どうしてですか?
確かにガルファットさんからしたら、ベタベタしてくる所もあるから少し鬱陶しいって思うこともあるかもしれませんが・・・」
「いや、別にロミアが俺にベタベタしてくるのは慣れてるから気にしてない。
それに、ベタベタされるのに戸惑う事はあったけど別に鬱陶しいとかって思ったことはないぞ?」
「それなら尚更どうしてですか?」
「4歳の頃からの仲だからな。
多分、近すぎるんじゃないか?」
俺が答えると、紅が深い溜め息をついた。
「・・・それはかなりロミアちゃんが不憫に思えますね」
「ロミアはまだまだ子どもだからな。
今回魔法学校に行くのもそうだけど、広い世界に出て色んな男と接する機会が生まれればあいつなら俺よりも良い男と結ばれるさ」
「今の言葉ロミアちゃんが聞いたら泣きそうですね。
それならフィーネちゃんは?
確かに生まれた頃から知っていて、近いとは思いますけどあの子なら不満な所はないでしょう?
まさか、年が離れているからダメだと?」
「いや、俺は歳の差はあまり気にしないほうだよ。
そりゃ離れすぎているのはどうかと思うけど、今の俺とフィーネなら10歳くらいだからそのくらいだったら全然気にも止めないな。
見た目も性格も悪いところはないし、家事全般もできるし。
まぁ、それでも多分ダメだろうけどな」
「どうしてですか?」
「・・・完璧すぎるんだよ」
「え・・・?」
俺の言葉に、紅は首を傾げた。
「容姿は、少し低い身長でそれに似合わない豊満な胸。
性格は明るくいつも笑顔だ。
それに人の心配を心の底からできて、自分よりも人を優先する。
可愛いところもいっぱいあるし、趣味の読書のおかげで色々な事を知っている。
家事だってうちのを一手に引き受けているほどの腕前だ。
メイドとしても、1人の女性としても満点だろう。
でも、だからこそ俺なんかには勿体ない気がするんだよ。
それこそ、物語に出てくるような英雄みたいな人と結ばれてもおかしくないような人だからな」
「何か今のガルファットさんの言葉を聞いたら、世の男性は一斉に木に藁人形を打ち付けそうです」
「いや、そんなことにはなんないだろ。
今のはあくまで俺が3人を異性として見たときの事で、3人とも俺なんかと結ばれるはずないからな。
俺が3人の誰かと結ばれようものなら、それこそ世の男性を敵に回すかもしれないけどな」
俺が言うと紅は両手で顔を覆いながら、「何でこの人はその気はないのにこうもフラグを建てて行くのだろう」と言った。
なんの事だろうか?
「それはそうと、人の恋愛よりもお前自身のほうはどうなんだ?」
俺が尋ねると、紅は「え?」と言って俺の方を見た。
「神様達の結婚適齢期が何歳か知らないけど、お前なら男の1人や2人簡単に捕まえると思うんだが?」
俺が尋ねると、紅は頬を膨らませた。
「うー、私そんなに軽そうな女に見えるんですか?」
「違うよ。
お前美人だし、性格だって悪ノリするところとか除けばそこまで悪い訳じゃないから単純に思ったんだよ」
俺が言うと、紅が顔を赤くした。
「私、本当は男性が苦手なんですよ。
この前も、友達が合コンをセッティングしてくれて相手の男性と連絡先を交換まではできたんですよ。
それで後日デートしたんですけど、緊張して私のほうが全然話せなくて。
そのあとから、そのデートの相手の男性とは連絡とっていません・・・」
何か、絵に書いたような男性苦手女子だな。
「ん?男性苦手なら何で俺とは普通に話せてるんだ?
転生する前もそうだけど、苦手にはまったく見えなかったけど」
「多分、仕事関係でお会いしたからだと思います。
あの時は相手が男性っていうよりは、仕事相手として認識してましたから」
「仕事相手を目の前にしてたわりには、お前幸せそうにせんべい食べて緑茶飲んでなかったか?」
俺が尋ねると、紅はえへへと笑った。
「いやぁ、ガルファットさんがいつ来るか分からなかったものでつい・・・。
でも、ガルファットさんだって重い空気で転生するか尋ねられるより、あれくらいの空気のほうが良かったんじゃないですか?」
「まぁ、あまり重く尋ねられてもそりゃ困るけどさ・・・」
「そういえば、何であの時あんなにあっさり転生するにしたんですか?
普通なら、少しくらい悩むと思うんですけど」
「あー・・・あの時は特に考えずに言ったからなぁ。
二択で適当に決めたのが転生だったってだけだ」
「深くは考えていなかったんですね」
紅が苦笑いしながら俺に言ってきた。
「そうだな。
て、話が変な方向にずれていったな。
とにかく、俺は明日魔法学校に行くために家を出るからな。
帰ってくるまでお前の所には来れない」
「ちなみに、どれくらいあちらにいらっしゃるんですか?」
「そうだなぁ。
最短で2年で卒業できるって話だから、早くてもそれくらいだな。
学びたいことが多くあればその分遅くなるだろうけど」
「そうですか。
その間、ガルファットさんと会えないのは寂しいですね」
紅が俯いて表情が少し暗くなった。
「まぁ、帰ってきたらちゃんとここにも忘れずに来るからそんな顔するなよ」
「いえ、その間私が寂しくて死んでしまうのでこれを持っておいてください」
そう言うと、紅は懐から何かを取り出して俺に見せた。
「それは・・・ペンダントか?」
紅が持っていたのは、紅い石のペンダントだった。
「はい、このペンダントを持って私の姿を思い浮かべてもらえればその場で会話が可能になります。
通信機みたいな物ですね」
「ふーん、お前のほうからは俺にコンタクトは取れないのか?」
「これはガルファットさんからのコンタクトしか会話が可能にはならないんですよ」
「なるほど、そんなに万能じゃないんだな。
じゃあとりあえずもらっとくぞ」
そう言って、俺はペンダントを受け取った。
「さてと、じゃあそろそろ俺は帰るか。
魔法学校に到着して落ち着いたら、連絡するよ」
「はい、お待ちしています」
そう言って俺を笑顔で見送る紅に背を向けて、俺はその場を後にした。




