第32話 次の目指すもの
ある晴れた日の午後、俺は自身の部屋にいるであろうシルビアのもとを訪ねた。
「母さん、今大丈夫ですか?」
俺は扉をノックして確認した。
「はい、大丈夫ですよ」
シルビアの返事を聞いて、俺は部屋の扉を開けた。
中では、シルビアがイスに座って読書をしていた。
「ガル、どうしたんですか?」
訪ねてくるシルビアに、俺は持っていた一つの本を見せた。
「母さんに聞きたいことがありまして」
「どんなことかしら?」
「この本は初級の魔法のやり方や、魔法の仕組みについて書かれてる本です。
とても丁寧に書いてあって、参考にするにはもってこいです。
そして、この本の裏にはこれが書かれていました」
俺は、本を開き一番後ろのページをシルビアに見せた。
「“王都立魔法学校図書室“
・・・母さん、ここがどんなところかご存じですか?」
俺が聞くと、シルビアは本を見て懐かしそうな目をした。
「・・・王都立魔法学校。
魔法の国ローリンにある、魔法を教える学校です」
「その本が、なぜここに?」
俺が聞くと、シルビアは笑いながら答えた。
「私がその学校の元生徒で、その本を借りて返し忘れてしまったんですね」
「この魔法学校ってどんなところなんですか?」
シルビアは、昔を思い出すように話し始めた。
「魔法学校として成り立っている唯一の場所。
毎年多くの子どもが入学して、魔法を教わっていってるわ。
ただ入学に必要なお金がなかなか高額で、必然的に貴族や大きな所の商人の子どもが多いわね。
そのせいで、上下関係には少し気をつけないと危ないけど」
「魔法を教われる場所、ですか」
「興味、ある?」
考え込む俺の顔を見て、シルビアが面白そうに聞いてきた。
「・・・ありますね、ものすごく」
「確かに、あの学校なら色々な魔法が覚えられるわね。
まぁ、母親としては集団の中で生活する体験をしてもらうほうが重要なんだけどね」
「母さん、もう少し詳しく教えてもらえますか?
魔法学校について」
俺が聞くと、シルビアは嬉しそうに頷いた。
「分かりました、私が覚えている事で良ければ話すわ」
その後、俺はシルビアに魔法学校について色々な事を聞いた。
「まず、魔法学校は先ほども言った通り入学するのに高額なお金が必要です。
だけど、その反面お金さえ払えば誰でも入学できるんです」
「簡単にいえば、入学したければお金さえ用意できれば良いって事ですね」
「そういうことです。
入学の手続きは、一年に一回生徒の募集日があるのよ。
その時に、入学の費用と個人情報を書いた紙を受付の先生に渡すわ。
まぁ、これだけだとお金を持っていなくて魔法を習いたくても習えない人がでてくるから、別の方法もあるんだけどね」
「別の方法、ですか?」
「そう。
個人情報を書いた紙だけ渡すと、入学試験を受けられるのよ。
やることは単純で、マラソンと、テストと、魔法の詠唱の3つよ」
「マラソンとテストは分かりますけど、魔法の詠唱もするんですか?」
学校入学の前に魔法を使う試験って、何か矛盾しているように思えなくもないけど。
「マラソンは共通だけど、テストと魔法は魔法を試験を受ける段階で使える人と使えない人に別れて行うのよ。
もちろん、その時に魔法が使えなくてもテストの成績が優秀ならマラソンの成績と一緒に評価して入学することも可能よ」
「なるほど、魔法が使える人と使えない人で差別がないようにするんですね」
「そういうこと。
ただ、この試験で入学できる人数は物凄く少ないから入学できる確率はかなり低いわね」
「何人くらいが入学できるんですか?」
俺が聞くと、シルビアは暗い顔をしてポツリと答えた。
「多くて5人、下手をしたら0人の時もあり得るわ」
シルビアの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
「5人って、いったい何人の人が落とされるんですか!?」
「私が入学した時は、試験を受けた人は200人くらいいたっていう話だったから・・・」
40分の1・・・。
「魔法学校も国からお金をもらってる訳じゃないし、他にも一応資金の調達方法がないこともないけどそのラインが許容範囲内ギリギリなのよね」
「母さんは、試験を受けて入ったんですか?
それとも、お金を払って入ったんですか?」
「私は、お金を払って入ったわ。
まぁ、私の場合は自分の意志じゃなくて親の意向だったけど。
ちなみに、試験を受けて入ってもお金を払って入っても待遇は一緒だからそこは心配ないわ」
おぉ、それは良かった。
そうだよな、これで待遇が別だったらバランスが崩れるもんな。
まぁ、試験での入学がかなり大変だからそうしないと悲しくてしょうがないよな。
「ところで、魔法の学校って魔法を教わる場所っていうのは分かるんですが、具体的にどんな事を教わるんですか?」
「そうねぇ、基本の四属性と光、闇、治癒の魔法を先生から教えてもらうわね。
といっても、数十人単位で行うから一人一人にあまり丁寧には教えられないけど。
それでも、普通じゃ知れないような魔法を教えてもらえる事もあるから通って損したってことはないと思うわ」
「どれくらいの期間通うことになるんですか?」
「普通だと5年ね。
ただ、中にはある程度教わったら中退する人もいるから人それぞれね。
あとは、先生たちから卒業の許可を早めにもらえることもあるわね。
まぁ、かなり成績が良くなきゃ無理だろうけど」
なるほど、どうやら俺が思ってた学校とそこまで差はないらしい。
俺は最後に、シルビアに一番聞きたかった事を質問した。
「母さん、僕でも入学できますか?」
俺が聞くと、シルビアは静かに首を横に振った。
「今のガルじゃ、無理だわ。
残念だけど、断言できるわ」
・・・マジか、今の俺じゃ力不足なのか。
「ちなみに、無理な理由は・・・?」
「・・・年齢よ」
「年齢・・・?」
「そう、魔法学校へ入学できるのは最低7歳からなのよ。
集団行動する事になるから、それができるって年齢を考慮して」
「なるほど、だから今の僕じゃ無理なんですね」
俺が言うと、シルビアは楽しそうに笑った。
「そういうこと。
それにガルは、年齢の事言わないと諦めないで行けるようにする方法考えるでしょ?」
そこまでお見通しですか、シルビア様。
「・・・とりあえず、七歳になっても行きたかったら私に言いなさい。
またその時考えましょう」
「はーい。
それじゃ、失礼します」
そう言って、俺は自分の部屋に戻った
「・・・まぁ、今のままじゃロミアちゃんもガルに付いていくだろうし。
ガルよりも、ロミアちゃんの方が心配だものね」
「魔法学校?」
「そう、魔法学校」
シルビアの部屋を出た後、自室で一緒に勉強しているロミアに魔法学校の話題を振った。
「母さんに聞いてみたけど、最低でも七歳になるまでは受けれないって言われたよ」
机に突っ伏して言う俺に、ロミアが顔を覗きこませて言ってきた。
「どんなところなの?魔法学校って」
不思議そうに聞いてくるロミアに、俺はシルビアに聞いた魔法学校の内容をロミアに話した。
「何か、大変なそうなところだね」
「まぁ、入学のシステムだけ聞くとな。
でも、さんも言ってたけど、入学して損する事はないらしいから行ってみたいんだよなぁ」
「そっか・・・」
俺の言葉に、ロミアが少し暗い顔をした。
「・・・ロミアは、魔法学校行ってみたいか?」
「えっ?」
俺がロミアに訪ねると、ロミアは唸って少し考え込んだ。
「うーん、ガルは行きたいんだよね?」
ロミアの質問に、俺は頷いた。
「行きたいな。
まだまだ俺が知らないことを知れるなら、それを逃したくはないからな」
「皆がダメって言っても?」
「多分言わないと思うけど、皆に反対されて俺が諦めると思うか?」
「・・・気付いたら、勝手に行ってそう」
ロミアの言葉に、俺は苦笑いした。
俺、そんな風に思われてるのか。
「まぁそんなことはしないけど、余程の事が無い限りは行く気だよ。
それで、ロミアはどうなんだ?」
「うーん、ガルが行くなら私も行く」
悩みながら答えを出したロミアに、俺は質問を返した。
「じゃあ、俺がいかなかったらロミアも行かないのか?」
「そうだね」
「じゃあ、俺が一人で勝手に行ったら?」
「追いかける」
ロミアは即答した。
そこまでして俺に合わせる事無いだろうに。
「ちなみに、ロミアは魔法学校に行ったら何か教わりたい魔法とかあるのか?」
「うーん、そうだなぁ。
ガルのママに色々教えてもらったからなぁ。
あ、でも治癒魔法は教えてほしいなぁ」
「治癒魔法?
あれなら、母さんに色々教わってなかったか?」
「うん、色々教えてもらったよ。
でもガルのママが言ってたけど、ガルのママ治癒魔法は苦手だからあんまり使えないんだって」
「え?あんなに使ってたのに?」
「うん、もっと使える人ならガルのママの倍は使えるって言ってた」
・・・マジでか、なかなかの数使ってたぞあの人。
「なぁ、ロミア。
俺、一つ思ったことがあるんだけどさ」
「ん?どうしたの?」
「俺母さんの一番すごいところは、あれだけの数の魔法の呪文を覚えてる事だと思う」
「・・・そうだね、ガルのママ使うの呪文間違えたことないもんね」
ロミアが、何かを察したように静かに呟いた。
「俺、今さらだけど無詠唱で魔法できてよかったと思う」
「私も。
ガルのママみたいに、あんなにいっぱい呪文覚えられる自信ない」
俺とロミアは、お互いの顔を見て笑った。
「・・・ロミア、お前変わったな」
俺は、笑いながらロミアに言った。
「ん?そうかな?」
ロミアがきょとんとした顔で首を傾げた。
「お前最初俺に会ったときに、魔法なんて使えてもいいことなんてないって覚えてるか?」
俺の質問に、ロミアは俯いて頷いた。
「う、うん、覚えてる」
「今はどうだ?」
「え?」
ロミアが顔を上げて、俺を見た。
「今もあの時みたいに、魔法なんて使えても良いことないって思うか?」
俺が聞くと、ロミアは首をブンブンと横に振った。
「昔は寂しかったけど、今はガルがいて、ガルのママがいて、フィーネさんがいて、クレアさんがいて、パパもママも皆がいる!
今、とってもしあわせだよ!」
「ちなみに、そこに父さんがいないのは?」
「・・・あっ、忘れてた」
えへへ、と舌を出しているロミアを見て俺は笑った。
「そっか、今幸せか。
良かったな、ロミア」
「うん!」
俺は笑顔で頷くロミアの頭を撫でた。
「でも、やっぱりガルが友達になってくれたのが一番嬉しい!」
そう言って、ロミアは俺に抱きついてきた。
・・・こいつ、将来変な男にひっかかんないか心配だな。
「ロミア、今はいいけどもう少し大きくなってからあんまり色んな男に言うなよ?
騙されたりしたり、変なことされちゃうぞ?」
俺が言うと、ロミアが首を傾げながら俺に言った。
「ガルは、私を騙したり変なことするの?」
「え?いや、しないけど」
「じゃあ大丈夫!
ガルにしか言わないから!」
そう言ってロミアは、俺の胸に顔を埋めた。
・・・こいつ、絶対将来モテるよな。
「ガルは、私と友達になれて嬉しい?」
「え?」
見ると、ロミアが俺の顔を上目遣いで見ていた。
「嬉しいか、って言われたら分からないけどロミアが友達で悪いことはないな」
「・・・そっか!」
そう言って、ロミアは嬉しそうに笑った。
「お前は・・・まぁいっか」
俺はロミアの頭を優しく撫でた。
俺が普通の子どもだったら、素直に喜んでたのかな。
中身30歳越えの俺だと、ロミアの素直な気持ちも素直に喜びにくいんだよな。
すぐにお巡りさんを想像しちまうし。
はぁ、転生してから特に不便に思ったこととかなかったけどこういうのは何か悲しいな。
「どうしたの?ガル」
悲しむ俺の顔を見て、ロミアが訪ねてきた。
「いや、何でもない」
俺はそう言って、窓から見える外を見た。




