第9話 物事にはメリットデメリットが存在する
陽が昇り、朝の訪れを告げる。
ただ、人間伝えられてもすぐに起きれないことが多い。
前世でもそうだった。
冬場なんて、お布団のぬくもりと共に死ねれば本望と考えていたこともあった。
だが、転生してからはそれがなくなった。
俺は、スッキリとした目覚めを感じてベッドから降りた。
外は、陽が昇り始めたばかりでまだ少々薄暗い。
俺は寝間着を脱いで、昨晩枕元に置いといた修行用の服に着替える。
ジークとシルビアは、まだ眠っている時間だ。
俺は、静かに扉を開け玄関へと向かった。
さすがに私用で他の人の眠りを妨げるのは、気が引ける。
ちなみに、スーパーメイドさんはと言うと・・・
「あ、おはようございますガルファット様。
今日も、お早いですね」
手にほうきを持って廊下を掃除していたフィーネが、通りがかった俺にあいさつをしてきた。
ジーク達に気を使ってか、少々小声でだ。
「おはようございます。
フィーネさんこそ、毎朝掃除ありがとうございます」
俺も小声であいさつをした。
すると、シルビアは笑顔で首を横に振った。
「いえいえ、感謝されるようなことではありませんよ。
これが私の仕事の1つでもありますし。
ガルファット様こそ、今日も走り込みですか?」
「はい、毎日続けないと意味がないことですし」
俺が言うと、フィーネは俺の頭を撫でた。
「ガルファット様は、偉いですね。
では、朝食を作ってお待ちしております」
「はい、いってきます」
俺はそう言って、玄関に向かった。
「・・・気持ちいい」
玄関の扉を開け、一歩外へ出る。
早朝独特の気持ちの良い空気を感じた。
「さて、行きますか」
そう言って、俺は走り出した。
走るコースは決まっている。
家を出て右手に走り出す。
30分くらい走ると、縦長の木造の倉庫みたいな物にたどり着く。
人が40人くらい余裕で入りそうな大きさだ。
前にシルビアに尋ねたら、冬場の暖炉の薪用の木材を保存する場所だと言っていた。
俺はその倉庫をぐるっと一周して、元来た道を戻る。
これもジークとの剣の修行以来1週間続けている。
そして、これと同じく後2つ続けている事がある。
「やっと安定したな」
俺は走りながら、自分の手のひらのいつもより小さめの水の弾を見て呟いた。
走り込みを始めるのと同時に、走りながら魔法の調整をする練習を始めたのだ。
やり方は簡単だ。
走りながら各属性の1番初級の魔法、火弾、水弾、風弾、岩弾を大、中、小の3つの大きさに変えていくというものだ。
最初は、結構難しかった。
今まで走りながらのような、動きながら魔法を使うということをしたことがなかったからだ。
魔力の注入に集中にできなかった。
集中するがあまり、木に真正面から突っ込んだ事もあった。
・・・あれは痛かったなぁ。
それでも2、3日すれば慣れてきて、大、中は問題なくできるようになった。
問題なのは、小だった。
大、中は極論を言ってしまえば、いつもどおり魔法を使うのと威力を上げて魔法を使うのだからそこまで難しくはない。
ただ小に限っては、魔法を維持できる魔力の最小限を注入し続けなければならない。
あれにいたっては、集中するがあまりそのまま走るコースを外れて川に落ちたこともあったからなぁ。
その後帰ってからフィーネさんに、
「もうガルファット様、いくら汗だらけが嫌でも川に入っちゃダメですよ。せめて服は脱がなくては」
と、言われたなぁ。
・・・正直、穴があったら入りたかった。
そんなことを考えていると、あと家まで200メートルくらいのところまで来ていた。
慣れ始めているからか、短く感じる。
まぁ、もっと体力をつけなきゃ剣の修行についていけないだろうし。
物足りなくなったら、走る距離を伸ばすか。
そう考えながら、俺は家に戻った。
「おう、ガル。おはよう」
俺が玄関の扉を開け、家に入るとジークと廊下で会った。
「おはようございます」
俺は笑顔で返した。
「今日も、走り込みしてたのか?」
ジークが眠そうに頭をかきながら、聞いてきた。
「はい!父さんを超えたいですから!」
「ハッハッハッ、まだまだお前には負けないぞ!
後10年は早いな!」
俺が答えると、ジークは笑いながら言った。
後10年か。
まぁ、剣王だしそれぐらいかかるか。
それでも、10年切る勢いで頑張ってやる。
「ていうかガル、汗洗い流してこいよ。
フィーネが朝食作ってくれてるから」
俺を決意表明していると、ジークが言ってきた。
さすがに汗だくのまま、食卓に行くわけには行かない。
「はい、行ってきます」
俺はジークにそう言って、風呂場に向かった。
「あ、ガルファット様ちょうど良いタイミングです。
朝食ができましたよ」
俺が汗を洗い流して食卓に向かうと、フィーネが笑顔でキッチンから言ってきた。
テーブルには、出来立ての朝食が並べられていた。
良い香りのするパン、みずみずしく見える野菜のサラダ、キレイな黄色と白色の目玉焼き、そして香ばしい香りのするベーコン。
「よし、じゃあ食べるか」
席についていたジークが掛け声をかける。
その声に反応して同じく座っていたシルビアと、席についた俺とフィーネが手を合わせる。
ジークも手を合わせている。
「感謝します」
『感謝します』
ジークの掛け声の後に、俺たちも言った。
この世界には、いただきます、という文化はない。
だが、それと似た文化で皆で席についたら手を合わせて感謝を込めて「感謝します」という文化がある。
俺としては、生前の文化と似てるからか何か嬉しい。
「そういえば、父さんは今日は仕事でしたっけ?」
食事中、俺はジークに尋ねた。
「あぁ、今日は夜も泊まりだ」
ジークの仕事は、この村の警備だ。
仕事仲間と一緒に、村の中を警戒している。
時々夜の泊まりもあり、帰ってくるのは次の日の朝だ。
「ガルはどうするんだ?」
ジークが俺に質問を返してきた。
「そうですね・・・剣術の修行をしたら散歩でもしてみようかと思います。」
「では、お弁当を作りましょうか。
ジーク様と一緒の物で、よろしいですか?」
俺の答えを聞いて、フィーネさんが尋ねてきた。
「はい、ありがとうございます」
やった!フィーネさんのお弁当美味しいから好きなんだよな。
「それじゃあ私は、今日はサダージュさんの家にお邪魔しに行こうかしら。
一緒にお菓子作ろうって、約束もしてましたし」
シルビアがお茶を飲んで一息ついて言った。
それの後俺たちは、朝食を食べ終わるとそれぞれで1日を過ごすことにした。
「さて、始めるか」
ジークとシルビアが出掛けた後、俺は庭にいた。
そばには木でできた両手剣と双剣、あと短剣が置いてある。
最初にジークから教わったのは、両手剣の型だけだった。
だが、その後の修行で双剣と短剣の型も教わっていた。
俺はまず、両手剣の修行から始めた。
基本的な素振りをしたあと、こっちの仕掛けた攻撃を相手がどう防ぐか、相手が防いだ後こっちがどうするかのイメージトレーニングに近い修行もした。
まぁ、俺の想像力だと一回の攻防だと3、4連撃が限界なんだよな。
くそぉ、今度剣術の本を読み返すか。
そんなことを考えながら、修行のメニューをこなしていく。
ちなみに、双剣と短剣の型は両手剣とはまず根本的な物が違った。
双剣は刃渡りが両手剣の半分ほどしかないが、両手剣よりも動きがスピーディーだ。
攻撃も、片手を防がれてももう片方で即座に攻撃できるので、手数が2倍になる。
ただ、両手剣より攻撃の威力は劣ってしまう。
両手剣なら相手を鎧ごと破壊できなくはないが、双剣では鎧を壊すのは困難だ。
だが仮に相手が胴体に鎧を着ていても、顔や喉はこの世界だと防具は着けないらしい。
ジークに双剣と短剣の型を教わったときに教えてもらった。
死角の増える物を身に付けるのは自殺行為だ、とジークは言っていた。
短剣の型は、カウンターや一撃必殺に特化した型だ。
刃渡り10センチほどの短剣を己の体の一部のように扱う。
武器のリーチの面では圧倒的に不利なため、一撃にすべてを込めるのがほとんどだ。
何か、暗殺者みたいな感じなんだよな。
まぁ、あえて打ち合いみたいにする人もいるらしいが、よほどの使い手じゃないとまずできないらしいしな。
さて、やっぱり慣れてきているのか。
思ったよりも、修行が早く終わった。
少し早いけど、散歩に行くか。
俺は、使った剣の片付けをしながらそんなことを思っていた。
「ガルファット様、お弁当です」
修行の終えて散歩に行く準備をしていたら、フィーネからバスケットを渡してきた。
多分中身はサンドイッチだ。
「ありがとうございます」
俺は、笑顔でお礼を言った。
「いえいえ、お気をつけていってらっしゃいませ」
フィーネは笑顔で手を振って、俺を送り出した。
「はい!行ってきます!」
俺も元気よく、家を出た。
「さて、どこに行こっかなぁ」
家を出たものの、特にどこに行きたいというものはないしなぁ。
ただの好奇心だし。
ということで、俺はいつもの走り込みコースと逆の方に向かって歩き出した。
前世じゃ、こんなのどかに散歩するってのは高校卒業してからはなかったからなぁ。
仕事で部屋に何日も缶詰状態とかなら全然あったけど。
そう思うと、こっちの生活は健康的でいいね。
そんなことを考えながら歩いていると、左手に川が見えてきた。
そういえば、ここらへんは上の森の方から水を引いてるって言ってたなぁ。
魔法が使えるとはいえ、ここらへんのライフラインは怠れないんだな。
まぁ、皆が皆魔法を使える訳じゃないから当たり前って言えば当たり前か。
俺は、川に向かって歩き出した。
特に理由があったわけではないが、元々目的がないんだ。
どこに向かうのも自由だ。
川のそばに来て分かった。
すごい水が綺麗だ。
透き通っていって、手を入れてみると冷たくて気持ちいい。
俺は、持っていたバスケットを横に置いて川の水で顔を洗った。
・・・ふぅ、スッキリした。
俺は、バスケットを持って川を下る形で歩き出した。
・・・ん?誰だろう?
少し歩くと、川の近くにいる子どもを見つけた。
少し遠いが、見た感じ俺と同じくらいか?
俺は、その子に近づいていった。
「ねぇ、キミ」
俺は、その子に話しかけた。
俺が声をかけると、その子は俺の方を見た。
近くで見ると、可愛い子だった。
フードみたいなもので隠れてしまっているが、キレイな青みがかった髪が見えた。
右頬に、出来たばかりなのか血が流れた後のある切り傷がある。
ただ、それ以上に驚いたのは彼女の目だ。
俺から見て向かって左目は髪の色に似た青色、もう一方は明るい赤色だ。
どちらも、キレイな色だ。
しかし、彼女の目を見たとき俺は感じ取った。
そこには、恐怖が映っていた。
「・・・来ないで」
少女は、膝を抱えて座っていたが俺に左手の手のひらを向けて立ちあがりながら言った。
「初対面の人に冷たいなぁ」
俺は苦笑いしながら言った。
子ども同士って、初対面でももうちょっと打ち解けあえるイメージだったけどこっちの世界じゃ違うのかな?
俺は、少しずつ少女に近づいていく。
「・・・来ないで」
少女は先ほどと変わらず左手の手のひらを俺に向けたまま、少しずつ後ろに下がっていく。
うーん、ここまで拒否されるとちょっとへこむなぁ。
と、少女は足を止めた。
「・・・それ以上近づかないで」
少女が呟いた時だった。
手のひらに、水の弾ができていく。
俺はそれを知っていた。何度も見たことがあったからだ。
「君、無詠唱で魔法が使えるのか!?」
それは水の初級魔法、水弾だった。
「・・・怖いんでしょ?他の子もそう言って逃げていった」
少女の声は寂しそうであり、悲しそうであった。
・・・怖いか。
普通の子だったらそう思うだろうな。
この年で魔法が使えるのは珍しくはないだろうけど、無詠唱だ。
自分の知らないものを否定したり怖がったりするのは、子どもだと結構出るからな。
・・・だけど俺は、少女に近づくのをやめなかった。
「来ないで!撃つよ!」
俺と少女の距離は詰まっていき、後一歩で少女に触れられるところまで迫った。
そして、俺の手が少女の頬に触れた。
「癒せ」
俺は、少女の傷のところに治癒魔法をかけた。
少女は驚きで固まっている。
「可愛い顔なのに、傷があるのはもったいないよ」
俺は笑顔で言った。
今日、俺はあることを学んだ。
魔法を無詠唱で使えるメリットを、そしてその裏にデメリットが含まれていることも。




