1.目覚め
前話で世界についての説明をしています。
まだご覧になっていない方がいれば、そちらも読んでおいてください。
頬に水滴が落ちる。
朦朧とした意識の中で感じたその冷たさは、僕を目覚めさせるのには十分だった。
「……知らない天井だ」
どこかで聞いたことがあるセリフを吐きながら、目を覚ました僕に目に最初に入ってきたものは部屋ーー部屋というよりはどこかの洞窟の中だろうか?ーーの天井だった。
ここはどこだろう?た
起き上がり、あたりを見回す。
どうやら最初に思った通り、ここは洞窟の中のようで半径10~15mくらいの空間のなかには壁と、どこかにつながっているであろう道が正面と後ろに二つ、そして隅に小さな池があるだけだった。
本当にここはどこだろう?
僕はなぜここにいるのだろう? ……いや、そもそも、
「僕は……だれだ?」
その疑問に答えてくれる存在は居らず、ただ天井から水滴が池におちる音だけが響いた。
……状況を整理しよう。
現在僕は池のある洞窟に一人、自分がだれかわからず、なぜここにいるのかもわからない。
……ひとまず自分の状態を確認しよう。
まずはこの記憶喪失について……名前は、わからない。知識については……まぁこの場にある池などの名詞はちゃんとわかる……どうやら自分についてだけわすれたようだ。漫画で見たな。
……漫画?……漫画は……わかる。でも……それをどこで知った?……だめだ、思い出せない。
……とりあえず記憶についてはわかった。次は体の状態だ。
そう考え、立ち上がって池に近づく、池の前に立ち、覗き込んでみると、池の水に反射されて自分の姿が映し出された。
顔は……全体的に少し長めの黒髪、黒い目と、ぱっとみはたいして特徴のない一般的な顔つきだ。年齢は……15、6くらいだろうか?
次は体の方だ。
身長は……170cm前後くらいだろうか? 体型は全体的に細い印象を受ける。
服装はシャツにズボンにスニーカーと、特に気になる物はない。
「ん?」
なにやらズボンのポケットに何かが入っていることに気づき、漁ってみる。
なんだろう? ……紙きれ?
ポケットの中には何やら折りたたまれた紙片が入っていた。開いてみると、紙片には『ココノエリオ』とかいてあった。
「ココノ・エリオ?ココノエ・リオ?……ココ・ノエリオかな?」
読みはわかったけれどなんだろうこれは? 僕の名前?
「わっ!?」
しばらくその紙片を眺めて考えていたら、紙片が突如燃え出した。慌てて手を放すと、紙片は空中で燃え尽きて消えてしまう。なんだったんだ……。
それからひとまず、体のチェックを再開し、先ほどの紙片以外はおかしなものはなかった。
さて、これからどうしようか。
やはり進んでいくべきか……。
前方と後方、二手に分かれている通路を見る。どちらにいったものだろうか。
そう悩んでいたとき、前方の方の通路から何かが近づいてくるような気配がした。
しばらくそこから動かずにいると、通路の方からある生き物が出てきた。
「グルルルルゥ」
「……ど、どうも」
それは、かなり大きな犬だった。いや、オオカミといった方がいいだろうか? 大きさは全長1mくらいはあるだろうか。そんなオオカミが、唸りながら近づいてきていた。
どうしていいかわからず、気の抜けた挨拶をしたまま固まっていたら、突如目の前にこんなものが出てきた。
【ハウンドウルフ】
「わっ!? なんだ!?」
突如眼前に現れた文字に驚く僕、これは何だ? あのオオカミの名前だろうか? だが、今そんなことを考えている場合ではない。
「グルァッ!」
「う、うわぁあああああ!? ……わっ!?」
僕の声が合図となったのか、オオカミが吠えながらこちらへ来た。どう考えてもじゃれつくという雰囲気ではない。僕は逃げようとしたが、慌てすぎて尻餅をついてしまう。そしてそのままオオカミは僕にとびかかってくる。
「っ……!」
僕は顔を腕で覆い隠し、ギュッと目を閉じる。だが、どうしようもないだろう。このままオオカミに襲われる。……そうおもっていたのだが、
「ギャン!?」
「……え?」
何やら熱気を感じ、そしてオオカミの悲鳴が聞こえたかと思えばすぐに聞こえなくなり、ドサッと言う音がしたあと、再び何も聞こえなくなった。
そっと目を開けてみると、目の前に先ほどのオオカミが真っ黒になって倒れているのが見えた。
「……なんだこれ? ……わっ!?」
訳も分からず茫然とし、ふと、降ろした腕の方を見てみると、
「なにこれなにこれ!?」
燃えていた。僕の腕が黒い炎のようなものに包まれていた。
慌てて腕をぶんぶんと振り回し、その炎のようなものを消そうとする。
「消えろ消えろ消えろ!」
必死の努力の甲斐あって(?)すぐにその炎は消えた。
なんだったんだ……不思議と熱くなかったけど……。
もしかしてこのオオカミって……僕がやったのか?
炎の消えた腕と、真っ黒……おそらく焦げたのだろうオオカミの死体をみて考える。
「……いまは考えないでおこう。とりあえずここから出ることが先決だ」
そう考え、立ち上がってオオカミが出てきた方とは逆の通路へ向かう。
通路に近づくと、気のせいかもしれないが、かすかに風を感じる。出口があるのだろうか?
……まぁじっとしていてもしかたないし。このまま動かずにいてまたオオカミなどが出てきても嫌なので、通路を進むことにした。
……しばらく通路を進む、すると、うっすらと明るくなってきた。風もちゃんと感じられるようになっている。
そしてそのまま進み、ついに出口を発見する。
「出口だっ!」
思わず駆け出してしまい、そのままの勢いで外に出る。
外に出たことによって一瞬目がくらんだが、すぐに元に戻る。
そして元に戻った視界に映ったもの、それは木だ。
あたりを見回し、この洞窟の出口ーー入口?--が森の中にあったことを理解する。その事実に混乱しながらも周りを散策する。
幸い現在位置は森の浅いところだったのか、すぐに木々の切れ目が発見でき、そこに向かう。
そしてその開けた視界にとらえたもの、それは草原だった。
一面緑色で、人の手が加わったあとなど全く見えない。
「……本当にどこだよ……ここ」
二度目の疑問に答える者はおらず、今度はビュゥッという風の音が響くだけだった……。
「……はぁ、本当にここはどこなんだ?」
もう何度目かわからないほど繰り返した言葉を吐きながら、僕は草原を歩いていた。
かれこれ1時間くらい歩いただろうか、人っ子一人見えやしない。いや、どうやら右に6mあたりのところに兎がいるようだ。
移動中、いきなりなにか出てこないだろうかと、警戒しながら草原を歩いていたとき、なぜか半径10mくらいの周囲の状況を逐一把握できるようになった。
どうしてそうなったといわれても僕にもよくわからない。
ともかく、そんな訳の分からない能力を使用ーー訳が分からないのは確かだが、使わない手はなかったーーし、あたりを警戒しながら、僕はさらに草原を歩き続けた。
またしばらく歩き続け、やっと草原以外のものが目に入ってきた。
「……また森か」
しかし今から引き返すよりはましだ。
僕はそのまま、森の中へと入っていった。
森の中は日が照っていたが木々によって日光が遮られ、薄暗く、じめじめとした雰囲気があった。
そんな中で歩き続けていた僕は、とある音を耳にする。
「ーーかーーけてーー」
「ん? ……人の……声?」
どうやら僕の耳はいいようで、聞きとれた音が女性の声だということが分かった。
声はここからさらに森の奥の方から聞こえているが、やっと発見できた人だ。僕は導かれるように、声の聞こえたほうへ進んでいった。
声の聞こえた方向に進んですぐ、正体不明の空間把握の能力が、前方7mあたりの地面の下に、女性が一人いることが分かった。……地面の下?
「ーーどうーーことに」
声は聞こえることから、不審に思いながらも少しづつその女性がいるほうへ近づいていく。
「……あぁ、そういうこと」
少し近づけばわかった。どうやら声の主は目の前の落とし穴(?)におちているらしい。
穴に近づき、覗き込んでみれば、
「もう……こんなことになるんだったらだれかについてきてもらえばよかったよ」
エプロンを身に着けた僕と同じくらいの女性が、膝を抱えて穴の中ですわっていた。
どうやら何かしらのハプニングによって彼女はこの穴に落ち、抜け出れないでいたようだ。
彼女は上から覗き込んでいる僕に気が付いていない。このまま眺めていても仕方ないので、声をかけることにしよう。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
僕の声に反応し、彼女は上の方を見上げ、僕の存在に気付く。
「いや、声が聞こえてきーー」
「ーー助けてください!」
「あ、はいわかりました」
そして僕が事情を説明するのをぶった切り、僕がだれだとかそんなことを聞かずにいきなり助けを乞うてきた本題に入った。その判断力はすばらしいと思う。
とりあえず僕も、事情を説明する前に彼女を助け出すことにしよう。
「……いやー、たすかりました。ほんと穴に落ちたときはどうしようかと」
「いえ、見つけることができてよかったです」
穴に落ちていた彼女を発見した少しあと、僕はその彼女を背負って、再び森の中を歩いていた。
なぜ背負っているかというと、穴から助け出した後、どうやら彼女は足首を挫いたようで、歩くことができなかったからだ。
「わざわざごめんなさい。重くないですか?」
「いえ、大丈夫です。全く重さを感じませんよ」
「へぇー、力あるんですね」
「覚えてないですけどそのようです」
僕のこの言葉に嘘はなく、本当に彼女を背負って歩くことに苦を感じていない。どうやら初めて見たときの細い印象にふさわしくなく、この体は力があるようだ。これだけあるいて息すら乱れないことから、体力もあるようだ。
本当に僕は何なのだろう、とくにこの周りの様子を把握することができる能力、そして、
【ヒューマン:リッカ・ストラウト】
【オークの木】
【ただの石ころ】
今背負っている彼女のことから道端に落ちている石ころまで、じっと見ていると目の前に出てくるこの文字は何なんだろう。おそらく見ているものについての説明なのだろうが、オオカミに襲われたときの黒い炎といい、この能力といい、わからないことが多すぎる。
「それで、リッカさんが住んでいる村までどのくらいですかね?」
「あ、もう少しでこの森を抜けるので、すぐ見えてきますよ」
リッカさんを背負いながら、目的地までどれくらいかを尋ねる。どうやら目的地である彼女の住んでいる村は近いようだ。
ちなみに、彼女を背負って歩いている最中に、僕が記憶喪失で困っていることなどをはなし、彼女からは、なぜあんなところにいたのかを聞いた。
どうやら彼女はその村で宿屋の手伝いをしているようで、夕飯の材料を切らし、この森に取りに来たところで穴に落ちてしまったらしい。ちなみにその材料は僕が持って運んでいる。意外というかやはりというか、彼女ちゃっかりしている。
「あ、見えましたよココさん! あれがモガ村です」
それからさらに少し歩き、森を抜けたところで彼女の言う村が見えてきた。
……ココというのは僕が彼女に名乗った名前だ。名前がわからないので、とりあえずあのおかしな紙切れに書いてあったものを使わせてもらっている。
「それじゃココさん! ようこそモガ村へ!」
彼女から歓迎の言葉を受けながら、僕はモガ村の方へと進んでいった。
初めましての方は初めまして、他の作品を読んでくれている方はありがとうございます。アオイです。
はい、ファンタジー物を書きたくなったので書いてみました。
現在執筆中に作品の息抜きに書いていくつもりなので、不定期更新となります。
どれくらいの期間で書くのかはわかりませんが、その話ごとに前話のあらすじを書いておくつもりなので、ご安心を……。
では、よろしくお願いします。




