昔話
今よりもはるか昔、まだこの世界が神によって管理されていたときの話だ。
この世界は神によって整然とした循環を行っていた。
世界に存在するすべてのものは魔素という極小の、目には見えない粒子によって作り上げられ、魔素から作られたものは魔素に帰っていく。それが有機物だろうが無機物だろうが、すべて魔素に帰っていく。
そしてこの世界にはもちろん生物がいた。人はもちろん、昆虫や動物、魚類や鳥類などたくさんの生物がいた。
彼らももちろん、魔素の循環によって管理されていた……。
あるとき、世界の管理を行っていた神は魔素を循環させるだけの作業に嫌気がさし、戯れでとあることを行った。
それは通常よりも多くの魔素で作られた生物、「魔獣」を作り出すことだった。
作り出された魔獣は、周りの生物を片っ端から襲った。
生物たちは、魔獣に対抗することなど全くできなかった。ただひたすら、逃げ惑うだけだった。
神はしばらく、その様を眺めていた。
そんなあるとき、神にとって驚くべきことが起こった。
魔獣に襲われているだけだった生物、その中でもひときわ力の弱かった人間が、魔獣を倒したのである。
人間たちは武器を持ち、群れを成して、魔獣を倒した。
しかし神が驚いたのはそこではなかった。
武器を持ち戦う人間たちの中に、魔素を操り、火や水、風などをあやつり戦うものがいたのだ。
人間たちは「魔法」という、魔素を操る術を得ていたのだ。
神はこれに驚き、そして人間という種に対して強い興味を示した。
ほかにも何かできるのではないか?
まだまだ成長するのではないか?
神はそれから、何度も魔獣を作り出しては、人間たちを襲わせた。そのたびに人間たちは魔法を研究し、さらに高度なものへと変えながら魔獣を撃退していた。
おもしろい、おもしろい!
もっと、もっと私を楽しませてくれ!
神はどんどん魔獣を作り出した。人間はどんどん魔獣を倒していった。
この連鎖は、永遠に続くように思えた。
……しかし終わりが訪れた。
神はやり過ぎたのだ。
本来世界の管理を行う神が、その世界に干渉するなどあってはならないことだ。
神は、ほかの世界の神々によって、断罪……消滅させられてしまった。
そして神を失ったことにより、世界の循環はおかしなことになってしまった。
神が作らずとも勝手に魔獣が生まれ、人間に獣の要素が取り込まれたものが生まれ、そして、魔素の異変によって魔法が失われた。
それはもう、混沌としか言えないようなありさまだった。
この世界はもうだめだ。
そしてほかの世界の神々は、この世界を見捨てた。
放っておけば生物が死滅し、そして世界も死滅する。
そう考え、ほかの世界の神々は、自身の管理する世界にもどっていった。
世界はそのまま消滅していくかに見えた……。
……しかし奇跡が起きた。
神がいない世界で、生物がいまだ生き残っていたのである。
人間たちは、魔法が失われながらも、魔獣の脅威から逃げ延びていたのである。
そして人間たちは、長い年月をかけ、「先祖返り」という魔法が使える数少ない人間の力も借りながら、かつての生活を取り戻した。
そして現在、人間たちを含めた生物はこの世界ーー《アーズ》で今も生きている。




