↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

第10話 マリーがウチに来てるっ!

 水無瀬が転校してきた日の昼休み。

 蒼は校舎脇の非常階段にいた。

 

 校舎の脇で外壁に沿うように設けられた非常階段。

 ここを通る生徒はめったにいないので一人で過ごすにはうってつけの場所だ。


 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、弁当を持ってここに来る。

 ――これが、教室に居場所がない俺の日課。


 教室にいるとなんか息苦しいんだよな。


 (それに、あいつらの顔を見なくて済むし……)


 ぼっち飯は仕方ないと自分に言い聞かせながら、弁当箱を開く。


「おっ今日はミートボール多めだ。これ好きなんだよな~……あむッ」


 ミートボールを頬張る。


「この卵焼きも甘めでおいし~、茜の料理マジでうめえ……!」


 妹が作った弁当を食べているこの瞬間だけが学校で唯一の幸せだ。

 まさか、こんな高校生活になるとは思ってなかったけど。

 

 ……俺なにもしてないよな。


 みんな悪魔かよ。

 

 あ、伊藤さんは優しいけどね。

 ストーカー野郎の俺と話しているところを見られると迷惑をかけるから、あえて避けてるけど……。


「てか水無瀬だっけ? あいつはなんなんだろう……」


 ……さっきのアレ、距離感おかしかったよな?


 誰にでもあんな感じなのかな。

 でも『迎えに来た』とか言ってたよな……。


 ……あんな美少女の知り合いなんていないんだが。


「じゃあ、やっぱり……」


 夢で会ったあの子なのか?

 いや……でもあの子はもっと小さい女の子だった。

 

 もうわけが分かんねえ。

 蒼は考えることをやめて弁当をかきこむ。


「ごちそうさま」


 弁当を完食した俺は、茜の中学の方角に向かって手を合わせる。

 もう茜さえいれば後はどうでもいい。

 

 ……変に人を好きになってもロクなことにならないしな。

 こんなクソみたいな経験はこれっきりで良いんだよ。




 ◇


「さて、そろそろ戻るか」


 昼休みが終わる10分前になったので非常階段から教室へ戻る。


 (五時間目は数学だったっけ……そういや来週からテストなんだよな)


 『全然勉強できてないな~』なんて考えながら教室に足を踏み入れた瞬間、


 ――教室中の視線が俺に集まるのを感じた。


 (え……? また何か冤罪でもかけられた?)


 ゴクリと固唾を飲み、何にも知りませんというオーラを全開にして自分の席に戻る。

 ……本当に何も知らないんだから当然だ。


 俺が席に戻ってからも多くの視線をばんばん感じる。


 (いやまじで……! 俺が何したっていうんだよ)


 あいつはいない……伊藤さんもいないな、学食かな?


 と、その時――


「あ! いた!」


 妙に人を惹きつけそうなあの声が聞こえてきた。


 (……無視だ無視。こんなのにかまったら、また変な噂を流されてしまう)


 俺は机に突っ伏し、完全防御態勢に入る。


 ――しかし、思わぬ形で防御は破られた。


「ねえってば。無視しないでよ、あーくん」


 その声と同時に、俺の後頭部に柔らかいモノがムニュっと当たった。


 ……それは柔らかすぎず、かといって固くもない。程よい弾力の……。


「……ってなんでやねん!!」


 思わず大きな声でツッコんでしまった。

 周りからの怪訝な視線が痛い。

 後ろに振り返ると、水無瀬が口元に手を当てて『ニシシ』と笑っている。


 ……くそっ、こいつわざとやったな。


 俺は呆れたように口を開いた。


「水無瀬さん? こういうのやめた方がいいよ。勘違いする人もいるから」


 すると、次は小悪魔な笑みに変わり、俺の耳元で囁いてきた。


「あーくんになら勘違いされてもいいよ♡ それに、こんなこと他の人にはしないから♡」


 耳元で囁かれる艶やかな声、独占欲を刺激するセリフ、肌が触れそうな程近くにある整いすぎた顔、ふわっと香るシャンプーの匂い。


 普通の男子高校生なら秒で勘違いするだろう。


 だが、俺は違う。


 勘違いで高校生活を棒に振った人間だ。

 何もときめかない。


 むしろ、こういうグイグイくる肉食系みたいな女が大の苦手なんだ。


 俺は『はぁ』と一息つき、心底呆れたように言った。


「もう構わないでくれる?」

 

 俺の冷たい言葉を聞いても、水無瀬は相変わらず『ふふふ♪』みたいな顔で微笑んでいる。


「それはむり♪」


 ……うぜえええ!


 俺は無視してそのまま机に突っ伏した。

 そんな蒼を、水無瀬は笑顔だけどどこか切ない表情で見つめていた。

 

 

 


 ◇

 

 放課後。

 帰りのホームルームが終わり、俺はいつものように一緒に帰る茜と合流する為に一人で通学路を歩いていた。


「ね、ねえ蒼……」


 急に後ろから名前を呼ばれた。

 だが聞こえてきた声の主は、俺のトラウマを誘発するものだ。


 俺は顔を見ないように前を向いたまま答える。


「ごめん、ちょっと急いでるから」


 後ろにいる凛から離れる為に歩くスピードを上げた――その時。


「待って!」


 ガシッと腕を掴まれてしまった。


 (……どうしよう、どうすればいい)


 俺は凛の顔を見ないように前を向いたまま、どうやって切り抜けようか必死に考えていた。

 しかし、凛はそんなこととはつゆ知らず、言葉を続ける。


「なんで私のこと避けるの……? 今まで何があっても、ずっと一緒だったじゃん……」


 ……今はそんな問いに答えてる場合じゃない。


 蒼の顔は青ざめ、呼吸も少し荒くなっていた。

 凛はそんなことはお構いなしに自分の思いをぶつけている。

 

「蒼……? また前みたいに――」


 凛が話している途中、俺の腕を白くて華奢な手が掴んだ。

 俺はパッと掴まれた方を見る。


「兄さん? 遅いから来た、ほら帰るよ。……あ、凛ちゃん久しぶり。ちょっと今急いでるからごめんね~」

「あ、ああ……」


 (……まじで助かった)


「ちょっと! 蒼!」


 凛は納得がいかない様子で俺の名前を呼ぶが、俺たちはそれを無視して歩き出した。


 ぽつんと立ち尽くす凛。


 その光景を、少し離れた物陰から見つめる人影があった。





 ◇


 学校から家までの道中。

 隣を歩く茜は普段と何も変わらない様子だ。


「その、ありがとう……」


 今回はまじで助かった。

 まるでいじめっ子から弟を守る姉御じゃん。

 ……俺、情けな。


「いいのいいの。茜は何があってもどんな時も兄さんの味方だから」


 すまし顔の茜が、さも当たり前かのようにそんなことを口にする。

 

 ……まじで天使だよな。


 このままだと茜に依存してしまいそうだ。

 気を付けなければ。


 


 帰宅した俺は夕飯を終え、そのままソファでくつろいでいた。

 茜もリビングでスマホをいじっている。


「……兄さん、凛ちゃんのことだけど……」


 ふと、茜が凛について話し始めた。


 そういえば、茜には俺が学校でどういう状況なのか言ってないんだった。

 でも、早い段階でおおよそのことは知ってたっぽいんだよな。


 (朝、凛がここに訪ねてきて俺が倒れた後の態度的に多分知ってる……)


 まあいいか。

 心配かけたくないから言わなかったけどバレたなら仕方ない。

 てか、そもそも茜の前でみっともなくぶっ倒れたしな。


「凛がどうした?」

「実は葉月ちゃんに話は聞いててね、その……いま葉月ちゃんと話すのがつらいんでしょ?」


 ……伊藤さんに聞いたのか。


 そりゃそうだよな。

 伊藤さんが黙ってる方がおかしい。

 

「まあね。茜も知ってると思うけど、今の俺はアレだからさ。伊藤さんに迷惑かけたくないからできるだけ一人でいるようにしてるんだよ」


 気にしてませんという顔で、俺は伊藤さんを避けている理由を説明した。


 すると、茜は目尻を少し下げて言った。


「それ兄さんの思い込みだよ? 葉月ちゃんは兄さんと前みたいに話したいって言ってたし。意味も分からず避けられるのは兄さんも嫌でしょ?」

 

 その言葉を聞いた俺はハッとする。

 

 確かに。

 俺も凛に遠ざけられた理由が分からずに嫌な気持ちになっていたしな。


「それで話を戻すけど、今日凛ちゃんに詰め寄られてたじゃん? ああいうのはよくあるの?」


「いや、ないな。今までは人前で俺を避けてたし……」


「そうなんだ……でもこれからないとも言い切れないよね?」


「……まあね」


 確かにないとは言い切れない。

 

「だからね? 葉月ちゃんに兄さんの護衛みたいな事をお願いしようかなと」

「なるほど……助かるっちゃ助かるけど、伊藤さんはこの話を知ってるのか?」

「今さっき本人に提案してみたんだけど、兄さんが良ければ協力するってさ」

「そうか。ならお願いしようかな、学校に茜はいないしな」


 自嘲気味に笑いながら伊藤さんにお願いする旨を伝えた。


 情けない話だが、学校で凛を俺から遠ざけてくれるのは助かる。

 今日のようにしつこく来られるとやばい。


 ……って待てよ。 

 凛はなぜ人目を気にせず普通に話しかけてきたんだ?

 

 精神的に余裕がなかったから違和感に気が付かなかったが、凛が俺に話しかけてきた場所は校門からそんなに離れておらず、同じ高校の生徒もちらほら歩いていたはずだ。


 それに、俺は凛のストーカーということになっている。


 (それにあの日、俺の家に凛が訪ねて来たっけ……神宮寺と遊んだんじゃなかったのか)


 もしかして……謝りたいのか?


 必要ないんだけどな。 

 謝罪なんか貰ったって何も変わらない。

 俺の望みは――凛が視界に入らないこと。ただそれだけなんだよ……。


 ……茜に頼んで凛に伝えてもらっておくか。


「それとさ、茜ってまだ凛と連絡先繋がってる?」

「うん? 繋がってるけど……切ってほしいの?」


 不思議そうな顔でこちらをみる茜。

 

「いや、凛に伝えてほしいことがあって……」

「……なに?」

「えっと……『もう謝らなくていいからそっとしておいて』って伝えておいてほしい」


 これで明日からの学校生活が楽になると良いな。


「ん、分かった」


 ……あとはアイツか。


 水無瀬……あれは距離感がバグりすぎている。

 今の俺が最も近づいてはいけない女だ。


 (一応、今日強めに突き放したつもりだが……まるで手応えが無かった)


 どうしたもんか。

 まあ、すぐに飽きて近づいてこなくなるだろ。



 



 ◇


 翌朝。

 俺は茜に体を揺さぶられて起きた。


「ににににに兄さん!? お、起きて!!」

「……ん? どした?」


 眠い目を擦りながら茜の顔を見ると、あわあわとした表情で焦りに焦っている。


「マママ、マリーがウチに来てる!!」


 次から次へと……もうわけ分かんねえよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。