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第6話 ダンジョンへ

 三人は法龍院家の屋敷を出て、ダンジョンに向かってる。


 並び順は、中央に秀矢、左右に長光と亜由美の横並び。


 どちらに話を振るのか少しだけ迷った末、秀矢は長光に話を振った。


「長光さん、ダンジョンまでの転移装置は無いんですか?」


「ああ。万が一ダンジョンのモンスターが地上に出た場合を想定して、入口には設置してないらしい。でも、ここからそう遠くは無いよ」


「それなら車で送ってくれればいいのに」


「まがりなりにもモンスターの巣窟だからね。ダンジョンには極力、サムライ以外は近づかせない事と、オーバーテクノロジーの使用は最小限に留めるのがお館様の方針なんだ」


「情報漏洩をやたら気にかけてましたからね。そもそも転移装置の存在自体、実際に使うまで信じられませんでしたが……」


 法龍院家の屋敷への移動手段は、自宅からほど近いマンションの一室に設置された転移装置を使ってやってきた。


 サムライになる事を承諾した数日後、シノビ衆にナーガグループが建設したマンションの一室に案内され「その台に乗れば、お屋敷まで転移します」と告げられた。


 その台、というのはマンホールよりも2回り大きく、レンガのような厚みがある。それと全く同じデザインのものが真上の天井に張り付いてるSF映画に出てきそうな、如何にもなワープ装置だった。


「でも、凄いですね。着てる服とか荷物まで、一瞬で転移するなんて……二十一世紀もまだまだ前半だというのに、まるで別世界に来たみたいですよ。……実は、仮想空間ってオチはないですよね?」


「そうだね。もし仮想空間だったら、僕はとっくの昔にログアウトしてるさ。でも、時田くん。前金は受け取ってるだろ?」


「はい。ドラマや漫画でしか見た事がない額が振り込まれてましたよ」


「せっかくだし、スマホから預金を確認してみるといい」


 秀矢は右手でスマホを何とか操作して、銀行アプリを開き、認証を通して、預金残高の画面を開いた。


 口座番号、支店、残高、いずれも見覚えのある文字が表示されてることを確認した。


「少なくとも仮想空間であって欲しくない残高でした」


「そういうこと。ここは紛れもなく現実の世界だよ。安心したかい?」


「はい」


「これから命懸けの初任務の時田くんに『安心』って訊ねるのは、軽率だったかな」


「いえ、別に――」


 命懸けの初任務という言葉を聞いて、怖気が走る。


「秀矢、緊張してる?」


「こうしてる今も、緊張してるよ」


「あーあ、長光先輩が怖がらせちゃったせいだ」


 長光は「はぁ」と嘆息を吐いた。


 緊張の原因の大半は、推しに認知してもらえてる喜びと興奮からくる感情の昂ぶりだが、秀矢は胸の内に留めておくことにした。


「大丈夫だからね、秀矢。今日はレベル上げだから、危なくなったらキャリーするからね。ここでは私が先輩だし」


「う、うん。頼りにしてます、空閑さん」


「……空閑、さん?」


 秀矢の返答に気を悪くしたのか、亜由美はジト目で秀矢を見てる。


「あの……空閑先輩? ……アイ?」


 居た堪れない雰囲気を払拭するかのように、亜由美への呼称を変えてみるが一向に返事がない。


 目つきは、嫌な物を見つめるかのようなジト目のまま。


 近くにいる長光は、呆気に取られてる様子。


 秀矢は、懸命に頭を回転させた。


 動画では幾度も拝見してるが、実物を目の当たりにするのは今日が初めて。


 お互い初めて顔を合わせたはずなのに、相手は何故か自分の事を下の名前で呼ぶ、馴れ馴れしい態度。


 相手がアイでなければ、その厚かましさに嫌悪感を抱いてるに違いない。


(そうか! 名前か! ――仕方がない。こうなったらヤケだ。どうとにでもなれ!)


「亜由美?」


 秀矢は意を決して、彼女の下の名前を絞り出した。


 言葉を口にした後、心臓が波打つ。


 一瞬、間が空いた後、亜由美の表情がパッと明るくなった。


「ぐへへ、いいね」


 どうやら読みが当たったようだ。


 過度な緊張を落ち着かせるために深呼吸をする。


「時田くん、お疲れ様」


「ちょっと、長光先輩ー。今、私と秀矢がお話してるんですよ。割って入ってこないでくださいよー」


「大体、僕のスケジュールに割って入ってきたのは、空閑さんの方だろ」


「仕方ないじゃないですか。出勤日以外でダンジョンに潜るためには、リーダー権限のある人がいないとダメって、じっちゃんが言うんだもの」


「君みたいなのがいるからだろ」


「それがなかったら長光先輩に声かけるわけないじゃないですか」


「それだけハッキリ言ってくれると、もっともらっておけばよかったと思うよ」


「言い値を払ったのに、まだ私から取るつもりですか!?」


「タダ働きはお断りだ」


「強欲ですよ、先輩」


「当然だ。十分なレベルに達してる僕たちが1階のモンスターをいくら倒しても、お金にならないからね。命がかかってるというのに――」


「……何かすみません、長光さん、空閑さ――亜由美」


「せっかくの春休み最終日に悪かったね、時田くん。明日から高校生活が始まるというのに、仕事を入れちゃってさ――」


「長光先輩、この後に及んで、グチグチ言わないでくださいよー」


 談笑しながら歩いてると、異彩を放つ洞穴が目に入った。


「秀矢、到着したわよ」


「亜由美。ここが話にあったダンジョンで、俺達サムライの現場というわけですか」


「そうよ。この暗くて陰鬱なダンジョンが私達サムライの職場よ」


 秀矢は、辺りを見回す。


 地平線が遠くに見える。周囲は、雑草だらけの平地。


 実際、この場所――島は、約十二平方キロメートル。


 但し、既製品の地図やマップアプリには記載されてない。


 ダンジョンの場所について聞かされたのは、日本列島からほど近い孤島であること。


 地図に無い島ではあるが経済水域にはさほど影響を与えない、の2点。


 そんな島の端にひと際、異彩を放つ洞穴。


 もし辺りが木々で覆われてたら、樹海ツアーに組み込まれるかのような外観。


 いつかの動画で見たレトロゲームの洞窟のアイコンのように、ダンジョンは大口を開けてる。


 緊張が高まり固唾を飲む。

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