第137話 先代の転生者……視点変更
秀矢と亜由美が戦ってる最中、蛟牙とディオスはサロンで向かい合っていた。
ディオスは相も変わらずにこやかにしてる。
「お前ひとりか、ディオス」
「うん。女性陣は湯あみ。ハルマは、屋敷の意匠がお気に召したようで、酒を片手に敷地内を徘徊してるよ」
「――で、話とはなんだ」
「彼のこと……トキヤ、とかいう男について、ボクの見解を伝えておこうと思ってね」
「トキヤ……ああ、時田のことか。わしはてっきり、空閑の件かと思ってたんだがな」
「クガ?」
「お前には『クロリスの魂が憑りついた人間』とでも言った方がいいか」
「アイのことか……というか、この世界の人間は、偽名を騙る文化でもあるのかい?」
「わしの国では『知らない人間にはついて行かない事』って社会通念がある。お前の愛想笑いは逆効果だ」
「なるほど。教育が行き届いてるようで何よりだ」
ディオスの笑顔を崩れた。
憂いを帯びた瞳は、蛟牙の視線からわずかにズレてるようだ。
かすかに緊張感が漂う。
「今度こそ2人の名前は覚えた。余談はこのくらいにしよう」
「おう。――で、異世界人のお前が、時田に目をつけた理由は何だ」
「トキタは……先代の生まれ変わりだ。賭けてもいい」
「先代って勇者の? だって、あいつは生まれも育ちも、極めて平凡な家庭。門閥とは無縁だ」
「俺は実際に、彼と手合わせをした」
「確かに、お前と同じ技を使うことは承知してる。でも、それだけでは不十分だ。あいつは『奥義』を使えないぞ」
「根拠なら、もう一つある」
「ほう」
「クガを生き返らせる前、俺は先代を生き返らせようとした。しかし、ウンともスンとも言わなかった」
「先代と言えばたしか、クロリスの伴侶だろ。わしがお前の世界に赴いた時には、既に亡くなってたはず。お前と面識があるとは思えないが――」
「勇者の力には、歴代の勇者の願いや望みが宿ってる。顔を知らなくても、生き返らせる条件は満たされてる」
「それで、実際に杖を使ってみてダメだったと」
「ああ。杖は、トキタに反応した。それも、生きてる人間に使おうとした時の反応と全く同じだ」
「ふーむ」
「異世界で生まれ変わった先代とクロリスの魂の邂逅。さすがだな、コウガ。俺が悠長に生きてる間に、そこまで事を進めてたとはな――」
「買い被るな。確かにわしは、強い奴を見つけるのは得意だが前世までは知らん。それを言うならディオス。あのイリアという子、どうやって見つけた」
「宵闇のように黒い髪のシスターの噂を聞いて、教会にフラっと立ち寄った時にね」
「お前、そういう趣味だったのか? 嫁さんが草葉の陰で泣いてるぞ」
「黒い髪と聞いて、旧友を思い出してな。それで見物のつもりで、な」
「ふーん、ちょっと話が出来過ぎてると思わないか?」
「別にいいじゃないか。お互い、奇跡や運命に浮かれるほど若くはない。うまい話は、いくつあっても足りないくらいさ」
「ちげえねえ」
話を区切るように、蛟牙はティーカップを口につけた。
「コウガ、先ほどの戦いぶりは見事だったぞ。老いても尚、魔王軍を脅かす実力は健在のようだな」
「魔王軍は未だに、わしらを恐れてるのか」
「だからこそ魔王は、今わの際に俺達に呪いをかけた。魔王直属の四騎士すら支配下に置く『オンミョウジュツ』と魔王の討つ光の力――勇者の力をオレの身体に封じこめ、先代の魂を異世界に追放した。そしてクロリスの魂は先代を追って、この世界に来た」
「魂がねえ、ちょっと話が飛躍してないか」
「フローラの話によるとクロリスは先代の死後、呪詛のように常々『来世は人間になりたい』とぼやいてたそうだ。オレ達の前では、そんな素振りを見せなかったけどね」
「なるほど。あいつが常に気怠そうにしてた理由がわかったよ」
「呪いと言えばコウガ。お前の子供、随分と大きいな」
「すげえだろ。今年で16になる」
「どうやって呪いを克服したんだ?」
「克服はしてない。お前ならわかってるだろ」
「お前にかけられた断絶の呪いは、生まれた子供が早くに亡くなる呪い。だが彼女は生きてる」
「現在医学と法龍院家の医療技術の粋を結集して、呪いに侵された部位を差し替えて生き永らえさせた」
「人の体を、改造したのか」
「人聞きが悪いな。こっちの世界では、他人の部位を移植する医療が発達してるんだ」
「どちらにしろ、人の体をいじってるのは変わらない。……神をも恐れぬ所業だな」
「ガッカリしたか?」
「いや期待できそうだ」
「ほう」
「お前、別れ際に言ってただろ。俺を『カガク』とやらの力で殺す、と」
「よく覚えてるな。体が若いと記憶力もいいんだろうな」
「呪いのおかげさ。しかしまあ、その『カガク』の力とやらで、四騎士と魔王を封じ込めた封魔石はどうにかならなかったのかい?」
「耳が痛いな。あいつがこの世界に来てることは今、知ったばかりだ」
「ダンジョンの入口に陣取ってるのに?」
「待て待て、ここを見つけたのは今から30年前の話だ。だから、それより前にあいつがこっちに来てた可能性が高い。――というか、それ以外に考えられん」
「そういう事にしておこう」
「魔人相手に通用するかどうかはともかく、人間相手なら問題ねえ。考え得る限りのNBC兵器を駆使して、てめえを殺してやるよ」
「本当にアテにしていいのか?」
「人間をぶっ殺すために生み出された技術だからな。これで生きてたら化け物だ」
「酷い言い草だな。齢100を超えた人間でありながら衰えは感じさせないコウガも十分化け物だろ」
「孫の顔を見るために、恥も外聞も捨てて生き永らえた老いぼれよ」
「お互い、苦労するな」
「呪いのせいでな……っと、娘から連絡だ。失礼」
蛟牙はスマホを取り出し、画面に目を向けた。
通知には『勝者は時田秀矢。以降は、手筈通りに進めます』と書いてある。
蛟牙は画面を伏せた状態でスマホをテーブルの上に置いた。
「ディオス、死ぬ準備はできてるか?」
「ああ。今すぐにでも、な」
「なら、望みを叶えてやる。今更、泣き言をいっても遅いからな」




