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第111話 異世界からの帰還者

「わしとディオスの関係は、戦友であり親友ってところだ」


 長光の問いに、拍子抜けするほどあっさりと回答する蛟牙。


 7月第2週の土曜日。


 秀矢たちは、いつもの広い和室で、蛟牙に質疑をあげてる。


 今日は巳月とポチも蛟牙の対面、秀矢たちの側に座ってる。


 蛟牙と秀矢たち、互いに楽な姿勢をとってるが、和室に漂う空気は穏やかとは言い難い微妙な感じだ。


《じっちゃん、あっさりと認めたわね》


「別に、お前達に隠す事案でもないしな」


「お館様、『戦友』という事は、過去に怪異空間でディオスと何かあったのですか?」


「1から10まで話すと長くなるから一言でまとめると、パーティを組んで魔王を討伐した仲だ」


(え? 魔王?)


 蛟牙の言葉は、様々なモンスターを目にした秀矢でも面を食らった。


 他のサムライも同様なのか、首を傾げたり、目が点になってる。


「無理に信じろとは言わん。でも、ディオスと意思疎通できるのは、わしのおかげだぞ。異世界……ディオスの世界の言語と文法をわしの知識を元に登録したんだ。で、会話をする際、スマホのライブ翻訳とナノマシンを通して、日本語を異世界語に変換してるってわけよ」


「お館様、登録した異世界の言語は一つだけでしょうか?」


「おう。一つだけだ。さすがのわしでも二つも三つも渡り歩いとらんわ」


「つまり、春先に出会ったエルフも同じ世界の住人というわけですか」


「そうなるな。実際、エルフもドワーフもいる世界だし」


 蛟牙は自信たっぷりの表情で言った。


 嘘をついてるようには見えない。


 仮に嘘だとしたら、その真意が想像できない。


(でも、それじゃ、死神と魔人に言葉が通じるのは――)


 考えを巡らせる。


 しかし、化け物と意思疎通できることは異世界人と同じで任務に影響を与えるとは考えづらい、という結論に落ち着く。


 任務はあくまでダンジョンの探索であり、異世界人や死神の討伐ではない。


「お前達、聞きたいことはまだあるか?」


「はい」


 蛟牙の問いに長光が応じる。


 実は今日の質疑応答に向けて、事前にサムライの間で二つの決まりを定めてる。


 一つ目は、進行は長光。


 二つ目は、長光以外の者は、蛟牙に質問をしないこと。


 誰も彼もが好き勝手に疑問を投げたら、収拾がつかなくなり時間を浪費することは明白。


 下手を打つと雇用主の心象を下げる恐れがある。


 だから任務開始前の短時間におさまるよう、前日までにサムライの間で質疑を擦り合わせ、蛟牙の気を損ねないよう質問者を一人に絞った。


 他のサムライが口を挟まないのはそのためだ。


「お館様は、ダンジョン――怪異空間に潜ったことがありますか?」


「あるぞ」


「それなら、僕たちが改めて探索する理由は何でしょうか? お館様が怪異空間に足を踏み入れてるのなら、僕たちの任務はただの二度手間と思われますが――」


「安心せい。お前達が探索してる怪異空間は2つ目だ」


「つまり、この島とは別の場所に、怪異空間が存在するという話でしょうか?」


「そうだ。――と言っても、今はもうないけどな。わしが潜ったのは今から約80年ほど前。先週お前達が持ち帰った拳銃は、その時に持ち込んだものだ。当時、戦後混乱期の余波もあって容易に入手できたからな」


「リーダーに就任した時、お館様から『半ばの階段は決して上るな』と厳命を受けました。これは、階段の上った先が別世界に繋がってるからですね?」


「その通り。実際、わしは1つ目の怪異空間で見つけた別の上り階段を興味本位でのぼったことで、ディオスの世界に行ったしな」


「では、お館様は怪異空間の正体をご存じでしょうか」


「推測の域は出ねえが、ワームホールの一種……というのが、うちの研究員が長年に渡って研究して導き出した、現時点での見解だ」


《ワームホールはね、宇宙の1点から別の1点へワープできる抜け道、らしいよ》


(SFじみてるな……大分ファンタジー成分が強いけど)


「ちなみに怪異空間のおおまかな構造は、お前達が別の上り階段を発見したおかげで明らかになった。感謝する」


「お心遣いありがとうございます」


「で、実際の構造だが、そうだな……まず枝葉が広がった一本の木を想像してくれ。今回の怪異空間でいうところの1階から6階までが枝、7階以降が幹の部分。枝の尖端がそれぞれの世界の入口ってところだな。だから7階はおそらく6階の数十倍の面積があると睨んでる。実際、わしが10階――1つ目の怪異空間では10階がそうなんだが、実際に踏破を試みたけど、あまりに広くて飽きてきたから、気分転換に別の上り階段に足をのばしたくらいだ。――で、地上まで上りきったらディオスのいる世界に到着して、なんやかんやあってディオス達と意気投合して、ついでに魔王をぶっ飛ばしてきて、お土産として現地の魔法石や鉱物を拝借したわけよ」


(魔法石……か)


 秀矢はスマホに目を落とした。


「突飛な話ですが、ひとまず『そういうお話』ということで受け止めておきます」


「事実なのに……」


「お館様、今後の任務中に、僕たちがディオスと遭遇した場合の対処について、ご意見をお伺いしたく存じます」


「そうだな……うん、戦え」


 蛟牙は、友人に頼み事をするような砕けた調子で言った。


「相手は人間で、お館様のご友人ですが――」


「なんなら殺しても構わんぞ」


 言葉とは裏腹に、蛟牙からは気安さを感じる。


 字面は、とても友人に向ける言葉とは思えない。


 だからと言って、恨み辛みがあるようには見えない。


「無論、タダとは言わん。もしディオスを()れたなら、お前達全員の退職金を1億上乗せした上で、即時契約満了にしてやるぞ」


 蛟牙は、張り詰めた空気を吹き飛ばすような冗談めいた口調で言った。


 しかし、蛟牙の言葉は、サムライ衆の間に緊張感をもたらす。


 鼓動が大きくなる。


 背筋が冷えてるのに、全身の巡る血が熱くなるのを感じる。


(――いやいや、俺の目的は亜由美を蘇らせることだ。お金のためじゃない。ましてや人殺しなんて)


 初心を取り戻した秀矢は、邪念を振り払う。


 サムライ衆から何かを察したのか、蛟牙は気まずそうに口を開いた。


「すまん、すまん。ディオスの件は、ちょっと言ってみただけだ」


「そう、ですか」


 長光は若干、訝しんでる様子。


「お館様。僭越ですが、ディオスは異世界人で親友というお話ですが、80年来の親友という割に、彼は若すぎるかと――」


「その答えも、ディオスと戦えばわかる。どうしても気になるなら今度会った時に戦ってみればいい」


「……考えておきます」

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