俺がAIVOで亜由美が俺で
テストは嫌だ。
テストは嫌だ。
でも今日で長かったテスト期間が終わる。
学習系動画をあさり、受験勉強アプリのスタディドラッグも駆使して、それとなく勉強はした。
目標は控え目に、全教科赤点回避。
中間だから、それでいいのだ。
そう思っていたのだが……目が覚めたら何やら様子がおかしい。
いや、目が覚めたと言う表現は正しいのか?
目の前が暗くて見えない。
何より俺は寝てたはずなのに、体が直立してる。
後、全身が水に浸かってるような感覚がある。
どういうことだ? 一体何が……。
うお! 急に光が差し込んで来たぞ。
でも、おかしい。
強い光が部屋に入ってきたくせに『眩しい』と感じない
暗い場所から明るい場所に移ると、強い光のせいで目を覆いたくなる、あの反応が無い。
ん?
何かおかしいぞ。
俺が見てる光景は、間違いなく俺の部屋だ。
だが、いくら首を振っても、見てる景色が変わらない。
どうなってんだ?
いや、それよりも……あいつは誰だ?
ベッドで膝立ちになってる人影。
後光のせいで素顔が見えない。
窓から入った泥棒か?
しかも、こんな朝から?
まあ、いい。
ナノマシン施術を受けた俺なら侵入者を捕らえるくらいは出来るだろう。
しめしめ、人影がこっちに来るぞ。
ふーむ、寝ぐせボサボサで、顔に地味って書いてあるようなパッとしない若い男……って、俺じゃん!?
鏡の補正がないから気づくのに時間かかったけど、目の前にいる男はまごうことなき俺だよ。
一体、どうなってんだ!?
というか、こいつ顔でけえな。
巨人かよ。
目の前の巨人、もとい俺のそっくりさんは、間抜け面で俺のことをじーっと見てる。
「秀矢?」
俺の声が聞こえないのか?
いや、それよりも……こいつ、顔だけじゃなくて、声までそっくりのようだ。
自分の配信を見直すことは結構あるから、聞き間違いはない。
録音した自分の声は、ゾワゾワするからわかる。
「秀矢。スマホはね、ダンジョンに潜ってる時と同じ感覚で使えるよ」
は?
何、言ってんだ?
この醜いデカブツは。
どれどれ……あ、ホントだ。
任務中と同じ感覚で操作したら、拡張現実みたいに宙にメニュー画面が出てきた。
時間は、朝の7時ぴったり。
うむ、いつもの起床時間だ。
で、ステータスを見るとスリープ中とあるな。
解除――っと。
《朝っぱらから男子高校生の部屋に忍び込んだ、愚かな泥棒さんよ! 警察に通報されたくなかったら命を置いていけ》
「ねえ秀矢。私の事、男に見える?」
《どこからどうみても男にしか見えねえよ》
「やっぱり――」
巨人は何やら考え込んでる模様。
……あれ?
俺によく似た男が、俺の事を『秀矢』と訊ねてきたのは何故だ?
こいつは一体、何者なんだ?
都市伝説にあるドッペルゲンガーか?
もしかしてテスト勉強の息抜きにプレイした、都市伝説分解センターをプレイした影響がリアルに出てるのか?
うう、嫌な予感しかしないが聞いてみる他はないよな。
幸いにも目の前の巨人には、敵意がない。
《そこの俺によく似た半グレドッペルゲンガーさん。うまく俺の部屋に忍びこめたご縁と、いうことで、お名前を聞かせてくれないか? 時と場合によっては警察に被害届出せるし》
「私の名前は、空閑亜由美。ひょんなことから秀矢の体に憑りついた現役女子高校生アンド超人気ゲーム配信者アイよ」
地味男が体をくねらせて、アイドルもかくやのポーズをした。
しかも、よりにもよって、俺の姿で俺の声で俺の推しの名前を口にしやがった。
爽やかな朝の食卓にゴキブリが乱入してきたような不快感を催す。
《俺が言うのも何だけど、あんた正気か?》
「失礼ね。正気も正気よ。いやー、久しぶりに朝日を浴びたわ。生き返るわー」
《……という事は?》
「あれね。私と秀矢の体が入れ替わったと考えるべきね」
薄々、気づいてたさ。
あー、気づいてたさ。
でもよ、世の中にはどうしても認めたくない現実がある。
現実から目を背けて逃げ出したい時は誰にだってあるじゃないか。
だから、見て見ぬフリをしてたんだけど、コレはそうもいかないらしい。
どうりで視点が変わらねえわけだよ。
だって今の俺は、アイボーだもん。スマホだもん。
身動きが取れるわけないじゃん。
カメラが動かないと景色が変わらないもん。




