第89話 生き返りたい
食事を終えて2時間後、バイタルチェックを行い、体が日常生活を送れるまで回復したことを確認できたので、帰宅の許可が下りた。
身支度を整えてから部屋を退出し、転移装置に向かう最中、患者衣をまとった荒川と出くわす。
「時田。その様子だと回復したようだな」
「おかげ様で。荒川さんの方は――」
「俺は、もう一泊だ」
荒川が騎槍に刺された事を思い出す。
「荒川さん、社会人ですよね。明日の仕事、大丈夫なんですか?」
「ああ。俺の勤め先は蛟牙の傘下の会社だから、勤怠は融通が利くんだよ。後、ワープ装置のおかげで、ここから現場に直行できるしな」
「そうなんですね。なら俺も次、大怪我した時は、転移装置で通学してみようかな」
「姐さんは、ちょいちょい屋敷から通学してるみたいだぜ」
「ふーん。……そういえば、サクナと長光さんはどうしてるんだろ」
《二人とも任務終了してから、すぐに帰宅したみたいね。まあ、あんたたちは、それだけ重症だったって話よ》
「そういや空閑、一つ聞きたいんだが――」
《ん? 何?》
「お前、生き返りたいと思ってるのか?」
《そうね。できるなら生き返りたいかな。……でも、前にも言ったと思うけど『みんなを犠牲にしてまで』とは思わないわ》
「……そっか」
《まあ、あんた一人くらいなら、犠牲にしてもいいかな、と思ったり、思わなかったり――》
「とりあえず、生き返りたい意志はあるんだな」
《うん》
(荒川さん、スルーしたな)
荒川は意味深な間を置いてから、口を開いた。
「時田」
「はい」
「本人が望んでる以上、空閑を生き返らせる事に異論はねえ。殉職ってのもあるしな。それに現実問題、人手が足りねえんだ。空閑が復活すりゃあ少しは楽できる」
《ここの食事に変な薬でも入ってたのかな?》
「それに空閑は一度死んでるしな。……それなら、もう一度死んでもいいだろ、って思ったり、思わなかったり――」
《何ですって!》
(荒川さん、根に持つタイプなのかな)
「話が逸れちまったな……時田、これだけは言っておく。例の人を蘇らせる杖、空閑以外に使うことは許さねェぞ」
「その点は安心してください。俺、アイのガチ勢だから亜由美以外に使うつもりはありません」
《秀矢ぁ……もう一回、もう一回言って! アイの~、ってところから! ワンモアプリーズ》
「何でだよ」
《録音するから》
「……」
荒川は『付き合ってられない』と言わんばかりに白い目を向けてきた。
「すまん。俺は、そっち方面には疎くてな」
「でしょうね」
「引き留めて悪かったな、時田。俺は、これで失礼するよ」
「荒川さんもお大事に」
「おう」
二人は同時に歩き出す。
《ねえねえ、秀矢》
「ん?」
《秀矢はさ、荒川の事を信頼してるでしょ? なんで?》
「信頼? 何の話だ?」
《あいつがウルトを外しまくってるときにさ『あの人は……俺達と違って、空手をやってるからな』とか言ってたじゃん》
「そのことか。単純だよ。荒川さんは、試合にかける意気込みが俺らとはダンチって話さ」
《どゆこと?》
「これは、空手とゲームの違い。厳密に言えば、リアルのスポーツとの違いと言い換えてもいいかもな……ほら、ゲームは本番と遜色のない練習試合をいつでも何回でも気軽にできるだろ?」
《そうね。対戦相手と時間が合うなら365日、いつでもできるわね》
「でも、リアルのスポーツだとそうはいかない。練習試合一つとっても人手、時間、場所の確保から練習当日まで物凄い労力と時間が要る」
《……そうみたいね》
「今、検索してただろ。まあ、いいや。俺達の場合、練習試合を数多くこなすせいか、本番と練習の境が曖昧になることが多々ある。特に非公式の大会は顕著だ」
《私の場合、公式と非公式、そんなに変わらないけどね》
「ゲームの大会は亜由美みたいに、公式の試合にも関わらず緊張感のないプレイヤーが多い。でも、リアルのスポーツ選手は、練習試合の数が俺達に比べて圧倒的に少ない。だから本番や練習に関係なく、貴重な試合だから真面目に取り組む人が多い。つまり、空手をやってる荒川さんなら、真剣に取り組んでくれるだろうと思ったんだよ」
《……それだけ?》
「そうだけど」
《何かこう……確信めいた根拠とか無いの?》
「ねェよ。俺、荒川さんの事をよく知らないからな」
《……》
「強いて言えば、不安を払拭するためかな。――この人なら大丈夫! と思える長所を少しでもすくいあげて、俺達は強い! 俺達ならできる! って思い込まなきゃ、怖くてやってられねえよ。命がかかってんだからな」




