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切なさについての小さな考察

 切なさは三種類ある。

 ひとつ目は、喪失への感情的回帰。たとえば叶わなかった夢を想ったり、亡くなった人のことを考えたり、初恋の人のことを思い出したりするときに生じるものである。

 ふたつ目は、一回性の自覚。今この瞬間が有限で貴重なものであると、ふと我に返って感じた瞬間に生じるものである。大学生の飲み会、家族との団欒、面白かった映画のエピローグなどが例としてあげられる。

 みっつ目は、消失の受容。散り行く桜を置いていく自分に重ねたり、年老いた両親の静かな衰えを感じたりしたときに生じる感情である。諸行無常、という言葉がしっくりくる。


 三種類の本質的な相違は、時制の違いである。ひとつ目は、過去に焦点があたっている。ふたつ目は、現在に、みっつ目は、持続性に対して。

 切なさの本質は受容にある。たとえばひとつ目は「あのときあぁしていれば」とか「あの時に戻りたい」といった言葉で表されることがあるが、実際にそう望んでいるのではなく、あくまでそれはプロセス的にそうした状態が生じるのみで、感情の出どころは「欲望」ではなく「確認」である。


 切なさは、欲求によって生じる感情ではなく、知覚によって生じる感情である。疲労感や嫉妬のような感情ではなく、恐怖などに近い感情である。とはいえ、感情の原因を欲求と知覚に区別すること自体に、果たして意味があるのかという疑問はある。(恐怖は確かに、対象を危険と判断することで生じる感情だが、それは「逃げたい」という欲望をも生じさせる。嫉妬や愛情もまた、結局は「知覚→欲望」という同じプロセスをたどるなら、どのように区別できるというのだろうか?)


 切なさは、すべての人間に宿っているものではない。おそらくその理由は、切なさが、生存に有利な感情であっても、必須の感情出なかったため、その感情を持たない個体が淘汰されることがなかったからであると考えられる。また、その機能も別の感情によって代替可能な部分がある。この特徴は「共感」の機能と共通している。

 切なさの機能としては、おそらく客観的事実の確認、過去の反省や、計画の見直し、関係性の再構築などを促すことである。切なさに快感が伴うのも、そこに理由がありそうだ。


 「切なさ」という感情は、他のよく知られた感情よりも知的なプロセスを要するものなのかもしれない。


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