第一章 枢機卿の命令
本作は『聖魔剣戦記』の外伝です。
本編では語られなかった人物たちの過去や、物語の裏側で起きていた出来事を描いていきます。
彼らが何を経験し、何を思い、どのような道を歩んできたのか。
本編とはまた違った視点から、『聖魔剣戦記』の世界を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、外伝の物語をお楽しみください。
カシアン外伝 闇に葬られた任務
聖剣教団本部
豪奢な執務室の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。
机の上には、一通の報告書が置かれている。
それを手にした枢機卿は、記された内容に目を通すと、ゆっくりと目を細めた。
「……失敗、か全く使えん」
報告書には、ある村で進められていた極秘研究の現状が記されていた。
子供たちの魔力を利用して人工聖剣を生み出す計画。
剣そのものの生成には成功したものの、適合者となった子供たちは剣の力に精神を侵食され、制御不能に陥っていた。
研究員たちは制御方法の確立を訴えていたが、枢機卿にとって、これ以上の研究費と時間を費やす価値はなかった。
「人工聖剣そのものは完成している……。だが、使い手を制御できないのでは意味がない」
枢機卿は報告書を机に置いた。
「研究員たちも、いつまでも言い訳ばかりだ。これ以上、余計な情報が外へ漏れる前に処理しなければならんな」
その言葉に応じるように、部屋の隅に立っていた黒いローブの男が一歩前へ出た。
「ご命令とあらば、いつでも」
「例の部隊を動かせ。研究員はもちろん、計画に関わった者は一人も残すな」
「承知しました」
黒いローブの男は頭を下げる。
彼らは、教団の秘密任務を遂行する組織
――神託の執行者。
その通称を、無明という。
教団の正義を守るためならば、闇に紛れて人を消すことも厭わない者たちだった。
枢機卿は、さらに別の書類を取り出した。
「カシアン・ヴェイルにも任務を与える」
「カシアン殿にも、ですか?」
「彼の部隊は優秀だ。村で魔剣使いたちが反乱を起こし、住民を襲っていると伝えろ。反乱を鎮圧し、村の安全を確保せよとな」
「……真実を知らせないのですか」
「知らせる必要はない」
枢機卿は薄く笑った。
「彼らが村へ到着した頃には、すべてが終わっているはずだ。万が一、何かを目撃したとしても、現場で処理すればいい」
「承知しました」
「それから――」
枢機卿の声が低くなる。
「もしカシアンが余計な真実を知ったなら、彼も例外ではない」
黒いローブの男は、何も答えずに一礼した。
扉が閉じる。
執務室に一人残った枢機卿は、再び報告書へ視線を落とした。
「失敗した研究のために、教団の権威を失うわけにはいかんからな」
その言葉を最後に、彼は報告書を暖炉へ投げ入れた。
紙は炎に包まれ、やがて黒い灰となって崩れ落ちた。
その頃、何も知らないカシアン・ヴェイルは、教団からの任務を受け取ろうとしていた。
それが、自らの人生を一変させる命令になるとも知らずに。
第一章 完




