生き方が決まる出会い
もう三日何も食べていない。
あー腹減った。
くらくらする。
気付けば誰かが食べ物をくれるんじゃと一分の期待をかけて夜城下町を徘徊していた。
俺の名はバッツ。冒険者。
年は十六歳。
つい最近まで国から選ばれた勇者パーティの一員だった。
でも四日前追い出された。
まあ俺が悪いと思ってる。
向こう見ずで無謀な事をやったから。
回想説明。
七日前。
ダンジョンの最深階に遭難した冒険者がいると話を聞いた俺は言った。
「良し! 助けに行こう」
しかし仲間達は反対した。
幼馴染でもあるサブリーダーの戦士ラビシアンと取り巻きの仲間フーデルが言う。
「ちょっと待て! 最深階には冥王獣がいるんだぞ」
「どう考えても今の俺達は負ける」
しかし俺は主張した。
「仲間の命も大事だよ! だけどたった一人の他人は見捨てるなんて俺はそんな人間になりたくない! 俺一人でも行く!」
「あっ!」
で俺は駆け出して行った。
「うおおお!」
猪突猛進。
「俺のポリシーは決断を躊躇しない事!」
ところが冥王獣に遭遇して負けそうになった。
こんなはずじゃ。
駆けつけた仲間の機転魔法で危機脱出したけど、その仲間が大ダメージを受けてしまった。
それは昔から俺を慕ってくれた後輩ロレスだった。
ラビシアンがきつく冷たく言う。
「ロレスが重傷を負ったのはお前のせいだ」
「分かってます」
ラビシアンとフーデルが言う。
「今日限りお前はパーティを抜けてもらう。金と装備は全部置いてけ」
さらにロレスまでが初めて酷い事を言った。
「先輩、抜けてくれませんか」
「……」
ロレスのこの一言がいつも前向きだった俺の心を完全に折った。
フーデルが言う。
「おっとこれだけはやるよ」
それは刃の無い骨董品の様な剣だった。
「お前にはふさわしいよ」
「かっこつけ勇者の見習いがよ」
こうして俺は刃の無い剣以外全て失い追放された。
子供の頃から俺は無鉄砲だった。
で、悪人に向かって行ったりして危険な目に合った数は数えきれない。
自分が向こう見ずで自重が足りない性格だって知ってます。
特に集団行動で人の迷惑になる事も。
だけど、それは自分を鍛えて立派な戦士になるためだったんだ。
何故無鉄砲なのか。それは競争に勝つ為。
走り出す事、決断力や実行力が勝負を決めると思っていたから。
自分ではそれを勇気とか行動力とか正義感とかいい意味に解釈していて直そうとしていない甘さがある。
それと、ある時から「人助け」を最優先にして来たから。
でも今回、そういう生き方の自分は皆に迷惑かけると分かったんだ。
勇者を目指すなら先に出発したパーティのリーダー「カミュ」みたいになりたかったな
凄い人らしい。
ああ、目が眩む。
幻覚さえ見えそうだ。
で『幻覚』と思ってもおかしくない貼り紙が、あるあまり大きくない食堂に貼ってあった。
『食べ物のない人はここへ来なさい。ただで食べさせてあげるよ』
「は⁉」
何やこの詐欺丸出しみたいな貼り紙は。
普通の人なら無視するだろう。
でも、俺は違った。
「もう、動けない」
俺はその食堂の扉をわらをもつかむ思いで手をかけた。
俺は期待していたんだ。
この世にもしかしてただで食べ物をくれる神様の様な人がいるんじゃないかって。
扉を開けた俺の目に幻覚ではないにこやかな五十代の主人らしき男がいた。
俺は高所から飛び降りるような気持ちだった。
頭から水をかぶる程プライドを捨てた。
「あの、貼り紙見たんですが、僕にほんの少しでも食べ物をくれませんか」
主人は表情を変えずに五秒くらい停止後口を開いた。
「いらっしゃい。お好きな席へ」
「え?」
「そこですね」
テーブルははぼろいが良く拭かれていて光沢さえ見える。
掃除が苦手な俺にはとても出来ない。
すごく大事なんだと今分かった。
俺はさらに恐る恐る言った。
「あ、あの、俺お金持ってないんです」
「……お腹がすいてるんでしょ? 少し待っててください」
「え?」
主人は奥の調理室へ消えた。
腹が減って辛いがこの店何だか暖かい。
空腹感が少し和らいだ。
そして待つ事二十分。
「はい」
俺の目の前に出されたのは皿に乗った肉と野菜、スープとパンだった。
「あ、あ」
「どうぞ」
「い、いただきます!」
お、美味しい!
こんな美味い物がこの世にあるのか。
でも我に返った。
お、おいこれ後払いとか。
それともぼったくりとか。
「重ね重ね言いますが、僕お金ないんです」
「いいんですよ。全部食べて下さい」
「あ、あの、何故ですか」
「この店はもうじき潰れますから」
「え?」
「魔王軍が各所で食料を略奪してるからなんです。物価が上がったり収穫が奪われたり」
「そんな」
「それともう一つは表の貼り紙を見た人が『嘘だ、詐欺だ』と思ってるからなんです。で怪しい店だと思われて客が遠のきました」
「そんな! こんなに美味しいのに!」
「元々この店は貼り紙通り食べ物のない子供に無料で食べさせていました。だから最後は全部恵まれない人にあげようと思ったんです」
「すごすぎる。何故そこまで」
「私スベルは昔魔王軍に加担していたんです」
「え!」
「魔法を使った武器開発に協力しまして。まだ開発されていない転移装置の開発研究なんかにも加わりました」
「え?」
転移装置って初めて聞いたようで何故か記憶をかすめた。
ど、どういう事?
この人どういう人なんだ。
聞くの野暮だし。
スベルさんは続ける。
「その兵器により先の大戦で多くの人が亡くなりました。だから私は罪ほろぼしを少しでもしたくて儲け度外視で貧しい人にただで食べ物をあげる事にしたんです」
「す、すごすぎます」
「家族を人質にされ金の為やりました」
「……」
「お客様は今日はどうされたんですか」
「実はですね」
俺は経緯を話した。
「身の上話をしてすみません」
「じゃあ貴方は無茶な行動を取りたがるからお仲間から追い出されたと」
「はい。自分でもよく分かってます。特に今回は仲間が死にかけました。僕は勇者を目指すなら『どんな相手にも引かない、向かって行く』とか『大事な人を守るのも良いが、赤の他人もそれと同じように大事にする』みたいなポリシーを挙げてたんですね。でも今回で反省して性格本当に変えようかと」
「いいと思いますよ」
「え?」
「素晴らしいポリシーだと思いますよ」
俺は少し身の上話をした。
この国ワンダートンは幼少時から全ての人間が戦士への適性検査を行う。
その結果がかなり良くて親は喜んでくれて立派な人になろうと思った。
子供の頃から努力と勇気、積極性、行動力で人生を切り開こうと思っていた。
だからどんどん前へ出る感じになった。
無鉄砲にもなった。
この頃ラビシアンやロレスと仲良くなった。
皆仲良いだけでなくライバルとしてしのぎを削った。
一番厳しいと有名な空手道場に勇気出して行った。
修行の結果三段を手にした。
学校に悪人が来た時勇気出して立ち向かった。
悪い上級生に負けても立ち向かった。
あの頃は皆強くなろうとしていた。
力と競争ばかり考えるようになった。
俺もラビシアンも。
ラビシアンは昔言った。
「お前も頑張ってるけどまだ甘いよ。誰にも頼らない意識を持つんだ。俺は親がやな人だから」
ロレスは言った。
「ラビシアンさん人を信じない事は良くないですよ。助け合いや協調が」
ラビシアンは咎めた。
「うるさい。お前は育ちが良いから分からないんだろ」
ある時ロレスは俺に耳打ちした。
「バッツさん、あまり人の悪口言いたくないですが、ラビシアンさんはバッツさんを嫌わせたり仲間外れにする工作を色々してるんです」
「……」
時々ラビシアンは意地悪な事を言った。
でも気にしてなかった。
彼が俺に悪意持ってるとは思わなかった。
でも俺はあるきっかけでラビシアンとは異なり力だけじゃ駄目と気づいた。
火事の建物の中の人を助けようと飛び込んだ。
で、逆に燃えそうになった時他の人達が助けてくれて「将来そういう人になろう」と思った。
地震の時がれきの下敷きになった時も同様だった。
この時辺りから俺には明確に
『勇者は強いだけでなく人助けを第一にしないといけない』
と言う確信が生まれた。
それは力しか欲していないラビシアンと食い違って行った。
後これは黙ってたんだけど俺は子供の頃から食堂、レストランなどにあまり良い印象を持っていなかった。
それは六歳の頃家族と高級な店に行った時あまり高い物を買えなくて
店の主人は小声で
「貧乏人がうちの店来るなよ」
と言ったのがもろに聞こえた。
さらにこの後服ぼろぼろの母娘が来てなけなしのお金で
「これだけで何か食べさせてください」
泣きながら訴える母娘に店員は冷たく言った。
「お帰り下さい」
で俺は偉い人になって金持ちになって両親に良いものを食べさせたいと思った。
外食産業にも悪い印象を持った。
でもこのご主人スベルさんは違う。
天と地だ。
「あの」
「?」
「俺、恩返しでここに大勢客を呼んできます!」
「え!」
「ただですもちろん!」
「あっ!」
そして俺は店の外に出た。
そして手を挙げ大声で言った。
「いらっしゃい! 世界一上手い食堂です!」
「え?」
「損はさせません絶対!」
「……」
しかし人々の目は冷たかった。
「何かみすぼらしい店じゃない?」
「それにあの貼り紙嘘くさい」
等の反応だった。
それでも俺は諦めず叫んだ。
近くの人が言った。
「おいおい君夜なのに騒々しいな」
「すみません」
迷惑になるから一回帰った。
「すみません。お客呼べませんでした」
「いいんじゃ。もう材料もあまりない」
「この恩は必ず返します! 十倍、いや百倍にして」
「泊まる所はあるかい」
「ないです」
「じゃあ家に泊まって行きなさい」
「ええ!」
俺は本当に空いている寝室に連れられた。
戸惑いながら布団にくるまった。
「おいおい本当にこんな神様みたいな人いるのか? 本当に神様?」
俺は天井を見つめた。
俺は子供の頃は無鉄砲だった。
立派な人になろうと思い突っ走った。
先輩勇者のカミュ様は六歳で怪物と戦ったりパーティに入っていたとか聞いて、意識したり真似して危険な魔物の所に行ったり無茶をよくやっていた。
ラビシアンや他の人もそういう事をしていた。
ラビシアンは良く他人を蹴落とそうとしていた。
ラビシアンと俺は競争心が強い性格が似ていた。
ところが一つ違いがある
俺をフォローしてくれてた後輩ロレス。
「先輩止めた方が良いですよ。いったん止まって深呼吸」
「勇者は競争より人への思いやりが大事なんじゃないですか」
元々ラビシアン同様勇者になる為の熾烈な競争に勝つ事を考え、無鉄砲だった俺を適宜アドバイスして変えてくれたんだ。
育ちは良いがそれゆえ落ち着いている。
頭の悪い俺に落ち着きと思慮を少しだけ教えてくれた。
俺はラビシアンみたいに努力はした。
でも大事な事を失ってはいけないと思いとどまれた。
で無茶ばかりしてロレスや他の人達に助けられて自分は助けられてるとか人を助けようとか考えを変えたんだ。
でも人助けの時だけは無茶をしていた。
でも恩人であるロレスに怪我をさせた。
そして見限られて心が折れた。
今分かった。
もう、無鉄砲、無謀はやめよう。皆に迷惑がかかるから。
前から嫌われてたんだと思う。
今までは運が良かっただけなんだ。
あまり他人に弱い所を見せない様に生きて来たけど今分かった。
そしてロレスも俺を嫌ってたんだと。
何故か一筋の涙が流れた。
俺は弱い。
ところがしばらくして焦げ臭いにおいがして来た。
スベルさんはすっ飛んできた。
「火事じゃ! キッチンからじゃ!」
「え!」
キッチンから凄い火が確認できた。
「消さないと!」
「もう間に合わん! 逃げるんじゃ!」
俺はスベルさんに手を引かれ外に出た。
「ああ、思い出の店が!」
「よし!」
俺は刃のない剣のハンドルを回した。
「よし! 台風発生!」
俺が剣をかざすと竜巻や嵐の様な凄まじい風が起きさらに水も放射されやがて鎮火させられた。
「やった!」
「おお! と言うより儂は君の剣や能力の方が」
「実はこの刃のない剣、自分で触って調べていたら凄い武器だと発見できたんです」
「何と!」
「このダイヤルと埋め込まれた宝石の力により風だけじゃなくいろんな力が出せるんですよ。後俺は体内に大量の魔力があるんです。この剣は凄い魔力を発動に使うので例えば僕しか使えません」。
実は俺には特殊な能力が三つある。
一つは体内にある大量の魔力。
もう一つは『初めて触った道具の使い方が何故か解読出来る事』なんだ。
説明書みたいな映像が頭に浮かんでくるんだ。
でも頭がおかしいと思われるので誰にも言ってない。
そして古文書を解読できたりする。
もう一つは軽度テレパシー能力。
病気で声が出なかった時期に遭難したりがれきの下敷きになった時遠くにいる人に何故かメッセージが伝わったんだ。
例えば助けてくれた人が『俺の声が凄くはっきり遠くから聞こえて半信半疑で探したら居場所が分かった』と言う事が何度かある。
また困っている人の声がはっきりと遥か遠くから聞こえる事がある。
俺が追いだされた原因のダンジョンの件でもその現象があった。
そこへ変な奴らが現れた。
「え?」
「ここへ勇者パーティが逃げ込んだと言う話を聞いた」
「魔王軍の奴ら? 俺の事じゃないよね」
「出せ。カミュとか言う勇者の一団がいるのか」
俺は出て行った。
「何だお前は」
「はーい、ボクチンは四日前に追い出された勇者でーす」
「ふざけるなこのガキ!」
「この店には指一本、いやお前らみたいなやつらには半径百キロも近寄らせさせない! ここは聖なる店なんだ」
「けっ何が聖なる店だ、つぶれる寸前のボロ屋が」
「い、い、い言ったな!」
遂に俺は切れてしまった。
人生で最大に。
「ふざけるなこのブタ野郎! ついに言っちゃいけない事を言ったな‼ ここはてめえらみたいなウジ虫が来るとこじゃねえんだよ!」
「あ? ウジ虫?」
「お前なめてんのか?」
俺は怒り心頭で構えた
三人の兵士との戦いが始まった。
しかし俺は素手なんだ。
あの剣の力は一日一回しか使えないんだ。
「はっはっ!」
当然段々不利になった。
スベルさんが叫ぶ。
「バッツ君! あの技を使わんのか!」
「実はこの剣一日一回しか使えないんです。宝石を充電する必要があって」
「その宝石とはこれか?」
「何故あなたがそれを!」
「訳は後で話す」
と言い投げた宝石を俺はキャッチした。
「良し」
がっちり宝石を埋めダイヤルを回す。
「虹と太陽にセット! 食らえ!」
太陽光線を凝縮した凄まじいエネルギーが虹の様に七色に放たれた。
「レインボーメーカー!」
これが見事連中に命中した。
「ぐああ!」
「やった!」
駆け寄って来た。
俺はスベルさんに決意を述べた。
「俺この店の再建手伝います」
「!」
「俺もスベルさんみたいに食べ物の無い人に分ける人になりたいんです!」
「うーん」
「だ、駄目ですか」
「うーむ。儂は魔王軍に利用された魔法使いじゃったんじゃ」
「え?」
「話しても良いかな?」
「勿論です」
「昔家族を人質に取られてね、魔王軍の兵器に儂の魔力を提供するよう脅されたんじゃ」
ところが声が響いた。
「まだだ!」
「くっ仲間が!」
「おかしなガキめ。お前は勇者カミュの仲間か?」
「ち、違います!」
「ラビシアンに聞いてないぞこんな強いガキとは」
「え!」
「お前の仲間は魔王軍に内通してたのよ。でお前を殺せと」
「でたらめを言うな!」
「良く事情聴取させてもらうぞ」
そんなことあり得ない。
ラビシアンはやな事もあるけどいい奴だった。
勇者になりたがってた。
頭の混乱を必死に振り払う。
その時辺りに響く叫び声と共に衝撃波が飛んできて兵達を薙ぎ払った。
「戦王開斬!」
とてつもない、レインボーマーカー以上の。
「え!」
振り向くと戦士が立っていた。
「あの人は……勇者カミュ!」
何とあの伝説の戦士カミュだったのだ。
「えええええ! カミュ様!」




