042_恋愛(結婚を意識するとき)目玉焼き、1012字
十九歳の時、最初に付き合った彼は、目立たないけれど穏やかな人だった。
告白された時、私は「まぁ、いいかな」と思って頷いた。嫌いなところもないし、一緒にいて大きな不満もない。
朝食の時、彼がおもむろに目玉焼きに手を伸ばし、しょうゆをひと回しした。
定番だし、王道。私の実家もそうだったから、なんの違和感もなかった。
彼との付き合いは「激しい恋」ではなく、ただそこにあったからという、サラサラとしたしょうゆのような関係だった。刺激もなければ、お互いになくてはならない存在というわけでもない。
いつの間にか、私たちは自然消滅のように離れていった。
その次に付き合った彼は、とにかく派手で、自己主張の強い人だった。
今まで周りにいなかったタイプで最初は惹かれたけれど、次第に「なんか……合わないな」と思うことが増えていった。
ある朝、彼が目玉焼きに、これでもかと真っ赤なケチャップをかけた。
「これが一番美味いんだよ!」と笑う彼。
一口もらったけれど、私にはどうしても甘酸っぱすぎて、目玉焼き本来の味がかき消されているような気がした。
彼のペースに合わせるたびに、自分の心が削られていくような感覚。
主張が強すぎた彼との恋は、胸焼けがするような結末で終わりを迎えた。
そして今、私の目の前で「いただきます」と手を合わせている人がいる。
彼は、私がちょっと元気がなかったり、逆に嬉しいことがあったりした時、何も言わずにその気持ちに寄り添ってくれる。言葉にしなくても、お互いの考えていることが手にとるようにわかる。
付き合って間もない頃から、私は「この人とは、絶対合う」と確信していた。だから、迷わず結婚した。
彼が手に取ったのは、ソースだった。
トポトポっと、濃厚で深い茶色のソースが、綺麗な半熟の黄身のベールを覆っていく。
「目玉焼きにはソース一択でしょ」
彼がいたずらっぽく笑う。
実は、私もソース派なのだ。
しょうゆほどあっさりしすぎず、ケチャップほど強くない。
スパイシーだけどコクがあって、お互いの旨味を引き立て合う。私たちの関係は、まさにこのソースのようだった。
「美味しいね」
「うん、最高」
同じ味付けの目玉焼きを口に運びながら、私たちは顔を見合わせて笑った。
この先、どんな朝が来ても、私たちのテーブルにはきっと同じソースが並んでいる。
わたしは何もかけない派です(塩コショウだけ)




