第3章 5
と思っていたら、蓋が一気に剥がされた。最初に夜空が視界に入る。
誰かがぬっと目の前に出現した。わたしは口もきけずに目だけを動かした。全身が震えそうだった。
やせた、きつい目つきの男だ。目元や口の辺りに刻み込まれたしわは深い。その上額に垂れた白髪がさらに彼を老けてみせている。雷に撃たれたような衝撃がわたしを包む。
この顔を、わたしは知っている。名前は知らないけど、たしかに憎んでいた。夢の中の父親が戦う相手だ。
その男はしばらく、大きな瞳であまりにも強くわたしを見ていた。でもやっと、うっとうしい縄をとってくれる気になったらしい。わたしを自由の身にした後、ふらっと離れていった。
少し経って、リートの声が明るい聞こえた。
「来てくれると思ってました」
返事はない。
「あのー……怒ってます?」
わたしは棺桶から顔を出した。同じ格好のリートと目が合う。リートは悪戯っぽく舌を出した。
わたしに背を向けた男は、苛々とリートに言った。
「馬鹿野郎、どれだけ心配したと思っている?」
ちょっとしわがれた、低い声だ。耳障りじゃない。聞いた人の心に溜まるような声。
「だって……師匠、」
「だってじゃない!」
男ががつんと怒鳴った。
「勝手に側を離れるなと何度言ったら分かる? いつもいつも目を離した隙にどっか行って、お前が油断した結果がこれだ! 一人で生き延びる術もない子どもが街を一人でうろつこうなんて百年早い!」
かわいそうに、リートはしょんぼり肩を落としてしまった。
「ごめんなさぁい」
「それから? 助けてもらったらなんと言うんだ?」
「ありがとーございます……」
男はまだ説教を続けようと口を開いた。たまらず、わたしは二人の間に割って入った。
「待って! リート君は、わたしを助けてくれたんです!」
男がこっちを向いた。
「君は……?」
リートが声を上げた。
「あ、ノール姉さん」
「なんだって?」
男が不機嫌そうにうなる。
「師匠、紹介しますね。ノール姉さんです」
何の紹介にもなってないんじゃ?
「わたしがならず者に追いかけられていた時、リート君が守ってくれて……親戚も一緒に探してくれるって……」
「へえ?」
男は真っ直ぐわたしを見た。その瞬間、生まれて初めての感情が湧いた。自分でも驚く。
こいつ、この男は嫌だ。たまらなく恐ろしい。理由は分からないけど、この人が持っている何か__見かけか性格か、あるいは過去か__が決定的に嫌いだ。生理的に無理、気持ち悪い。近づきたくない。いくらでも強い言葉で表現できる。どのくらい嫌かというと、まず胸がむかついている。背筋がむずむずする。頭の中で天使が終末のためのトランペットを吹き鳴らしている。




