第3章 4
何をしてたか、ですって? 目をつむり、細い紐にくくりつけた玉をつまんで揺らしていたの。鈴か何かだと思った。だけど音が全くしない。そうでなくともこの大きな鐘にかき消され、何の合図にもなれないほど微小な鈴だった。
「リート君?」
少年は答えない。不満げに口を引き結び、なおいっそう無心にガラス玉を震わしている。
「ねえってば」肩を叩いた瞬間、リートはぱっと目を開けた。
「あ、ノール姉さん」
「何をしてるの?」
「師匠を呼んでたんですよ。呼びたくなんてなかったけど」
「その玉で?」
「はいっ。特製の鈴なんです」
リートはガラス玉を見せてくれた。玉の内側にはさらに小さな玉が入ってた。揺らすと中の玉も一緒に転がった。
「音はしないのね?」
「それが、するんですよ!」
「本当?」
鐘が止まったのを見計らって耳元で振ってみた。……静寂。リートを見ると、にまにま笑っている。
「ねえ、騙したでしょ」
「まさか! これは、鳴らないけど鳴る鈴なんです」
「どういうこと?」
「えーっとですねえ__」
突然、リートは口をつぐみ、胸を押さえてしゃがみこんだ。
「どうしたの!?」
まさか、病の発作? 呪い? そう考えていたら、急に息ができなくなった。目の前が真っ白だ。自分の鼓動だけが大きく聞こえる。いつか確実に止まることを予感させながら。
背中に激しい痛みが走って、わたしは地面に突っ伏した。ものすごい強さで殴られたような衝撃が胸を貫く。だけどそのおかげでまた息ができるようになったみたい。
いつの間にかごろつきどもに囲まれていた。リートもわたしと同じ有様だ。
「手間とらせやがって」
一人が唾を吐くように罵った。リートの手を離れたランプの青い光そいつの顔をわずかに照らす。あごひげに見覚えがある。
こんなの、ずるい。武器なんて使う暇もなかった。何をされたか分からないうちに敗北なんて。
わたしとリートは手足をぐるぐる縛られ(どの道体が痺れてしばらくは動けなかったけど)、固い箱の中に別々に押し込まれた。あごひげが囁く。
「悪く思うな、お嬢さん。棺桶の中でおねんねしてろ」
棺桶? そうだ。独りがちょうど入るくらいの箱なんて、棺桶ぐらいしか思いつかない。奴らはさらに蓋をきっちりしめて釘を打ち付けた。これで中からは絶対に出られない!
わたしは全身を固くして、耳をそばだてた。外の様子を何とか知りたい。やかましい笑い声と、ゴトゴト鈍い音がする。リートが暴れているのかも。それからかすかに馬のいななきがしたかと思うと、棺桶は地面ごと動き出した。
馬車だわ。だけど、それが分かったところで何もできない。リートだって。わたしを助けたばっかりにこんな目に遭わせてしまった。
箱の中は窮屈で息苦しい。せめて、リートと一緒にいたい。独りぼっちでいることがたまらなく怖かった。
だけどその時、がくんと大きな揺れが箱を襲い、馬車が止まった。
次に聞こえたのは悲鳴。血も凍るような恐怖の叫びだった。。長く尾を引くその声はだんだん細くなって……とうとう途絶えた。
静かだ。不気味さに、息が詰まる。




