22話 誕生日の朝
カミラの言葉に俺たちは固まってしまった。
彼女は実体化をして俺に抱き着いている。
俺の記憶では彼女はあまり人に心を開かず孤高の女という感じだった。
だが今の彼女は俺に抱き着きながら顔を赤くし頬をすりすりしている。
先ほどまでキリっとした表情で自己紹介をしていた彼女の突然の行動に周りは完全に固まってしまっていた。
しばらくの間彼女からの頬ずりをされた後、一番最初に正気に戻った俺が言葉を発した。
「とりあえず離れてもらってもいいですか」
その言葉にカミラが我に返ったようでやっと離れてくれた。
だが周りを見てみると大人たち四人は表情が硬いままだ。
レイアが「デニスと契約したってことで間違いありませんか」と声を発した。
「はい私がこちらのお子様と契約させていただきました。先ほどは失礼しました。デニスちゃんがあまりにも可愛かったものでついつい抱き着いてしまいました。」
カミラが顔を赤らめながら言う。
「でもさっきは人間だったって言ってましたよね そんなことあるんですか」
「はい私は前世では人間でした。ですがやり残したことがありまして知り合いの精霊に頼んで精霊にして頂きました。」
前世ではずっと一緒にいたが彼女のやり残したことって言うのが分からない。俺が不思議に思っていると「やり残したことって言うのは何ですか」とおじさんが質問した。
「人間だったころずっと一緒にいた人がいまして、その人にもう一度会ってしたいことがあるんです」
その言葉に俺の表情が暗くなってしまう、おそらくずっと一緒にいた人と言うのは俺のことだ。
その言葉を聞いて俺は彼女が死ぬ瞬間を思い出した。
俺は彼女を守ることが出来ず死なせてしまった。その際彼女の最後の言葉は聞こえなかったがとても厳しい表情で俺のことを見ていた。ソフィアもなぜ彼女が俺に転生の魔法を使ったのか分からないと言っていたがもし精霊になってまでしたいことが生き返った俺への復讐なのかもしれない。
ここは彼女に俺の前世がルークだとバレるわけには行かない。今の俺はエマちゃんを守るために騎士になるという目標がある。
エマちゃんを守るために生きなければならない。彼女の目的が分かるまで俺の正体がバレないようにしようと心の中で決心する。
俺の方を見たレイアが「大丈夫こんなに泣きそうな顔して心配だよね」と言いながら俺を抱きしめてくれた。
どうやら気づかぬうちに硬い表情をしてしまっていたようでそれを見たレイアが勘違いをしてしまったようだ。
とりあえず話をまとめるために今日もルーカスは休んで話し合いをすることになった。
おじさんとおばさんが心配しながら仕事を行ってしまう。どうやらレイアとルーカスの判断に従うことにしたようだ。
「で、どうする。もう契約してしまったんだよね 誤魔化すことってできるのかな」
「分からない でも確認に来る役人は精霊を連れているし、その精霊が強いと判断したらもう連れて行かれるんだと思う。」
二人が話し合いをしているとカミラが不思議そうな表情をしていた。
「あのお二人はなぜ深刻そうに話し合いをしているのでしょうか、デニスちゃんはここで皆さんと暮らしていくのではないのでしょうか」
その言葉にレイアの表情が硬くなる。だがカミラは知らないのだこの国では強い精霊と契約すると国の保護下におかれ両親とは離れて暮らさなければならないということを。
「カミラさんも元は人間だったのなら分るでしょう。今各国では強い精霊それも回復が使える者を求めています。もし強力な精霊と契約してしまうと国に連れて行かれてしまう」
カミラはすごく驚いており、そのあと申し訳なさそうにしている。
「すみませんそれは知りませんでした。私が生きていたころは精霊と契約しても連れて行かれなかったもので勉強不足です。これから勉強をしていこうと思います。」
レイアがあきれながら話を続ける。レイアはカミラのことをよく思っていないのだろう。
「とりあえず精霊と契約してしまったから隠すことは出来ない。こうなったらこの精霊が強い精霊と判断されないように祈るしかないね」
しかしレイアはなんとか俺を家に引き留めたいようだ。「エマちゃんに続いてデニスまで」と泣き出してしまった。
精霊と契約してしまったことは隠すことが出来ない。もし俺を別のところに隠しても俺を隠したとして二人は捕まってしまう。そして俺は役人たちの手で探し出されてしまうようだ。
結局俺が捕まってしまうのなら二人は捕まってほしくない。
ルーカスもレイアもその結論に至ったようで二人とも暗い表情をしていた。
結局俺たちは明日俺が連れて行かれないように祈るしかないという結論に至った。




