表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半月王1 竜王編  作者: 星宮歌
第二章 王
28/89

第十三話

「お、教えてもらったって……誰にだ?」



 動揺を隠しきれない様子で問うパーシーに、レイラは元気良く答える。



「お姉ちゃんなのっ!」



 そんな、レイラのセリフに、パーシーだけでなく、アシュレーまでもが愕然とする。


 よくよく考えてみれば、キメラも生き物であるからには親も兄弟姉妹も居たところで、何ら不思議はない。ただ、パーシー達が今まで見てきたキメラという存在に、生物としてあるべき本能も、意思も、何も見出だせていなかった。だからこそ、今、レイラに家族が居るという現実に言葉を失ったのだ。



「……お姉ちゃん……」


「ふゆっ、お姉ちゃんなの! 色々、教えてくれたけど、今は遠くに居てずっと、会えてないの……」



 『お姉ちゃん』の話をすることが嬉しいのか、アシュレーの問いかけとも言えない呟きに応えたレイラ。しかし、『会えていない』という内容を話す瞬間は、酷く悲しそうで、レイラが何も言わなくとも、そのお姉ちゃんが本当に、遠い存在なのだと理解できてしまう。



「……すまない。不躾なことを聞いた」


「ふゆ?」


「ごめんな、レイラ」


「ふゆゆ??」



 謝る二人に首をかしげるレイラは、その謝罪の意味を理解できていない。それにアシュレーもパーシーも気づいて、そのレイラの幼さゆえの無知に何も言えなくなる。



「?? よく分からないけれど、だいじょーぶなのっ」


「そ、そうか……」


「む……」


「それより、私、ちゃんと文字、知ってるの!」



 何ともおかしな空気になったその場所で、レイラは思いっきり『私、すごい? 偉い?』と褒めてもらいたそうにピコピコとうさ耳と翼を動かす。



「おうっ、すごいぞ、レイラっ」


「それならば、レイラに何か書いてもらうのも良いかもしれない、か……。レイラ、俺達の名前を、これに書いてみてくれないか?」


「ふゆっ! 分かったの!」



 パーシーに頭を撫でられ、アシュレーに紙を差し出されたレイラは、しっかりと紙を受け取ると、ぬり絵用のクレヨンで書き始める。

 アシュレーの名前は、赤いクレヨンで。パーシーの名前は緑のクレヨンで書いて、書き終わったそれを掲げるようにして二人へ見せる。



「っ……おぅ、よく書けてるな」


「む……上出来だ」



 その字を見て、一瞬固まったパーシーは、それでもすぐにレイラを褒める。アシュレーの方は、その字を確認すると、そっと目を細めて、やはりレイラをしっかりと褒めた。



「レイラ、お前の姉ちゃん、すごいな。これ、あたしの名前の方は、古代文字だぞ?」


「そうなの! パーシーなら『これが正解』ってゆってたの!」



 そんなレイラの発言に、パーシーは今度こそ酷い動揺で固まる。



「レイラ。その姉の名前は、何という?」


「お姉ちゃんの名前……? ……んと、ね……思い、出せないの……」



 アシュレーが何かを確認しようとして行った質問に、レイラはおかしな返答をする。



「思い出せない?」


「そう、なの。悪魔に捕まる前のこと、ほとんど覚えてないの。……でもっ、お姉ちゃんが居たのはほんとーなの! 姿も、思い出せないけど、でも、ちゃんと、お姉ちゃんは居たのっ」



 必死に言い募るレイラに、アシュレーは少し黙り込んだ後、ゆっくりと、問う。



「レイラの言う『お姉ちゃん』は、血の繋がりのある存在なのか?」



 アシュレーの質問に、固まっていたパーシーは息を呑む。二人が懸念していることについては不明だが、それでも、この質問が重要なものであることだけは確かだった。



「ふゆ。ちゃんとあるの。でも、その辺りはお姉ちゃんの方が色々知ってるはずなの」



 レイラの瞳をじっと見つめたアシュレーは、その言葉に嘘がないと判断したのか、『そうか』と言ってうなずく。その声は、先程と比べると力がなく、落胆しているようにも聞こえる。



「ふゆ……?」



 そんなアシュレーの様子に戸惑うレイラだったが、パーシーへ助けを求めるように視線を向けると、そのままパーシーへ抱き締められる。



「パーシー……?」


「おぅ、思い出せないのに、色々と聞き出そうとして、ごめんな?」



 それは、言葉通りに取れば、不自然などない。しかし、パーシーの声は、そんな内容を話すにしては震えている。



「ふ、ゆ……? パーシー……?」



 何か、間違ったことを言ってしまったのだろうかと戸惑うレイラ。しかし、パーシーは頑なに自分達の表情を見せようとせず、レイラをしっかりと抱き締め続ける。



「すまない。これから、仕事がある。訪ねてきたばかりだが、後を任せてもいいか?」


「あぁ、もちろんだ」



 パーシーに大人しく抱き締められていたレイラは、ようやくそこで解放されて、改めてパーシーの表情を確認する。

 パーシーの表情は、特にいつもと変わりはない。だから、レイラはそれ以上、パーシーやアシュレーに問うことができなかったようで、ただただ、大人しく二人の会話が終わるのを待つ。

 その流れで、パーシーが少し仕事に駆り出されるという話になって、レイラに大丈夫かどうかの確認もしていたが、その時にも、何の異常も見られなかった。

 表面上、穏やかにこなされた会話の裏で、どのようなやり取りがあったのかは分からないが、レイラは再び、部屋に一人、取り残されることとなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ