第十四話
ロゼリアという国の王の決定方法は、とても独特だ。その歴史を辿れば、それは遥か昔、この世界を悪魔と人間の領土に分けて、人間を守り抜いたとされる創世王の話にまで遡ることになるのだが、端的に言うのであれば、ロゼリアの王は、その創世王が決定しているようなものだった。
創世王は、『王に相応しい者には、黄金の瞳を授ける』としていた。そして、その言葉通り、このロゼリアには、たった一人の人間に王の証である黄金の瞳が突如として宿るようになっていた。現在の王、太陽王、シェラ・ハスフェルトも、数年前にその瞳に黄金を宿した少女だった。
「パーシー、大丈夫か?」
「……大丈夫だ。ただ、あたしは、レイラに最悪な感情を抱いた自分が許せないだけだから」
「……俺もだ。俺も、レイラに落胆してしまった。俺達の都合で、何の関係もないレイラに、だ」
二人の言う『最悪な感情』と『落胆』。その原因は、レイラが発現したあの黄金の魔力が原因だった。
三年前、悪魔との大戦が行われた後、ロゼリアの王、シェラ・ハスフェルトは悪魔王と相打ちになった。
とはいえ、シェラは死んだわけではない。ただ、シェラの目が覚めることはなく、体のみが生きている状態なのだ。
だからこそ、シェラのものに良く似た黄金の魔力を見て、その瞳すらも黄金に変わっていたという状況を受け、パーシー達は期待してしまっていたのだ。『レイラは、シェラの手がかりを持っているのかもしれない』と。
「あたしの名前を古代文字で書いたのだって、きっと、たまたま、あたしみたいに古代文字で名づけられた同名のやつのことを、そのお姉ちゃんとやらが教えただけ、何だろうしな……」
パーシーの名前は、確かに古代文字で名付けられている。しかし、それを知る者は極少数であり、王と将以外では家族と他に親しい者が数人程度。
レイラがパーシーの名前を古代文字で提示した瞬間、パーシーもアシュレーも、レイラにはシェラとの何らかの繋がりがあると確信していたのだ。
しかし、シェラには妹が一人しか居ない。そして、その妹とはパーシー達も面識があり、彼女に何かが起こったという話も聞いていない状況で、レイラはお姉ちゃんと血の繋がりがあると宣言したのだ。
「今は、フィスカに報告して、少し落ち着かなきゃ、レイラの顔をまともに見れる気がしない」
全てが勘違いだった。それが分かった瞬間のパーシーとアシュレーの落胆は大きかった。それと同時に、勝手に期待して、勝手に落胆してしまったことへ、激しい自己嫌悪を抱いているのが今だ。
「……フィスカに話すのも、覚悟が要りそうだ」
「あぁ、確かに、な……」
アシュレーの指摘に、パーシーは顔を歪める。きっと、誰よりもシェラの無事を願い、誰よりもレイラの中に可能性を見出していたのは、フィスカだ。
シェラとフィスカの関係性は、幼馴染みにして、親友。シェラ本人は平民ではあったが、両親は没落した貴族家出身であり、シェラとフィスカの両親の仲が良かったために、身分の差はあれど、大切な親友となったという経緯がある。
シェラが黄金の瞳を宿さなければ、フィスカは戦える文官を目指し、シェラは女性騎士を目指していたはずだというのは、この両者にとって隠すことのない真実であり、当然、それはパーシーとアシュレーも何度も聞かされて知っていた。
「……マディンを巻き込もう」
「そう、だな。あたし達の頭脳として、ちょっと、働いてもらわなきゃ不味そうだ」
フィスカにどう伝えるか、悩んだ末の二人の結論はそれだった。
どうあってもショックを与えてしまうと分かっているのであれば、マディンも居れば心強い。しかし……。
「マ、マディン?」
「……ふふふっ……何? 僕、今、すっごく眠いんだけど?」
ちょうど遭遇したマディンは、目の下にクッキリと隈を作って、何やら恐ろしげな雰囲気を醸し出している。
うっかり対面して声をかけてしまったパーシーは、そんなマディンの様子に固まり、アシュレーは思わずといった様子で一歩、後退る。
「まさか、今まで、仕事だった、か……?」
「うん、そうだね。だから、さっさとベッドに潜り込みたいんだ。退いてくれる、よね?」
アシュレーとて、昨夜のことは聞き及んでいたのだろう。そして、マディンの様子を見る限り、一睡もしていないということがありありと分かってしまう。パーシーですら、疲労のあまり倒れるようにして眠ってしまった仕事量。それを、恐らく目の前の男は、パーシーよりも長くこなしていたのだ。
この状態のマディンにさらに仕事を頼む鬼畜の所業ができる人物は、この場には居なかった。
「お、おぅ、ゆっくり、休んでくれ」
「む、しっかりと、休め」
「うん、おやすみ」
そうして二人は、頼れる頭脳を失った。




