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迷宮主が行く!  作者: かな
10/11

迷宮と迷宮主

 


 がりがり、がりがり


 静かな室内に、硬質な物が砕かれる音だけが響いている。


 がりがり、がりがり


 室内には、私だけ。もちろん、音の発生源も私だ。


 がりがり、がりがり


 ・・・正しくは、私の口内から音が響いている。


「・・・顎、疲れてきた。」


 私は今、目の前に積まれた魔石を食べていた。


 迷宮は魔力を吸収する事で、維持、成長する。

 それは、迷宮主であり、核である私も同じだ。


 しかし、私の迷宮は、遥か遠くにあり、魔力をいくら迷宮が吸収しようとも、私に届くまでには、多くの魔力が霧散してしまい、受け取れる量はほんの微々たるものなのだ。これでは、成長どころか、私の存在自体が難しい。

 それで、今こうして魔石を喰らって、不足分を補っている。

 不足分を超えて、魔石を摂取出来た時、そこでようやっと成長、レベルアップが叶う。

 蛇足ではあるが、魔物のレベルアップも他の魔物を殺し、魔石を摂取する事で起こる。


 因みに人族だと、レベルアップの仕方が全然違う。魔物を殺す事でもレベルアップは起こるが、自分より格上の魔物を殺した時に起こりやすい。また、鍛錬を続けることでも、稀にレベルアップする事があるようだ。

 つくづく、人族とは不思議なものだと思う。


 がりがりと魔石を噛み砕く事1時間程、ようやっと、最後の魔石に手を伸ばす。

 長かった。顎の感覚は既に無い。


 今まで噛み砕いていた魔石と比べ、一回りは大きい、純度の高い魔石だ。透き通った石の中には美しい焔が煌々と燃えている。

 ゴブさんとスーちゃんが、今日、迷宮で獲た火の魔石だ。

 このクラスの魔石なら、恐らくは迷宮の階層主の物だろう。迷宮を守り、迷宮主を護る者。


 そっと口に運び、舌で少し転がしてみる。

 特に熱いわけでも、何でもない。

 歯を突き立て、噛み砕く。


 パキン


 酷く乾いた音が、頭蓋へやに響いた。






「いざ、ヘイズの迷宮攻略~!!」


 翌朝、私達は迷宮の入口に来ていた。


「まぁ、昨日のうちに最下層手前まで行ってるがな。」


「うんうん、他の階層はマッピングまで終わってるよぉ。」


「早いよ!?」


 迷宮探索は、本当にただのお宅訪問になりそうだ。

 今日はちゃんと迷宮探索を念頭において、冒険者ルックで来たのに。

 ワイバーンの皮で作られた軽鎧に、盾代わりにもなる可変式のガントレット。

 私は手に持った短槍を所在なさげに弄ぶ。


「まぁ、戦闘がないなら、それに越した事はありませんからねぇ。」


「コボちゃんまで・・・。」


 コボちゃんも何時ものシャツとズボンだけでなく、私と同じワイバーンの軽鎧に短刀を2本装備している。


「とりあえず、サッサと入るぞ。」


「はぁい。」


 何時もの重斧を担いだゴブさんが先頭に、コボちゃん、私、スーちゃんの順に迷宮に足を踏み入れる。

 途端、熱い風が迷宮から地上に向かって吹き上げた。


「いや、流石に暑いよ。」


「炎と水の迷宮だからねぇ。」


「水の要素ほぼゼロじゃない。」


 1階層から、ムッとした空気と、強い火の魔力がそこかしこから吹き出している。


「とりあえず、人気のない所まで行ったら、昨日マーキングした所まで跳ぶからな。」


「はぁい。」


 黙々と迷宮を進む。浅い階層だからなのか、襲ってくる魔物もいない。

 遠くで冒険者の悲鳴が聞こえるような気もするが、恐らく、気の所為だろう。


「因みにこの辺りだと、どんな魔物が出るの?」


「冒険者にとって、手強いのだと、火鼠辺りだな。アイツらは大概、悪食持ちだからな。」


 装備から冒険者の骨まで、何でも喰うぞ。


 でしょうねー。


 いつの間にか、冒険者の悲鳴は止んでいた。


「僕らには、関係ありませんしね。」


 恐らく、私より先に気が付いていたであろう、コボルトは、後日、そう語った。




「じゃあ、転移するから、全員俺に触れ。」


 しばらく進んだ所にある、行き止まりの部屋で、ゴブさんが転移の魔術を使う。

 瞬きする時間すら許さずに、私達はヘイズの迷宮の86階層(・・・・)にいた。


「こっからは、主の仕事だぜ。」


 人族の確認している階層は、この階層が、最下層になっている。

 だが、何故それが最下層だと思うのか。

 人族が潜ってこれる場所に、何故わざわざ、心臓と言える、迷宮主(私達)が無防備にいなくてはならない?

 迷宮の最下層、それは、この遥か下にある。

 地下深くに広がる迷宮の、更に奥深く、迷宮の最下層と呼ばれる階層よりも尚、深い、地中の牢獄。それが、迷宮の真の最下層。


 そこに迷宮主()はいる。


 私は、迷宮の壁に手を当て、目を閉じる。すると、微かな魔力の流れを感じる。細く、細く、糸よりも尚細い、ヘイズの迷宮と繋がる、魔力の道。それを慎重に辿っていく。まだ、先だ。もっと深く、もっと遠く、もっと、もっと、もっと・・・





 目を開ければ、目の前には、小さな子供が、膝を抱えて、蹲っていた。


 真っ白な髪に、細く、小さくも鋭い角。のろのろと顔を上げた子供の瞳は紫水晶の煌めきを宿していた。


「ぁ・・・」


 言葉にならない、空気の音。


「初めまして。」


 間違う筈などない。


「私はアイン。」


「ぁ・・・う・・・」


 私は嗤う。


「アナタと同じ、迷宮主だよ。」


 この子供が、この迷宮の主だ。

お仕事で1日空いてしまいました。

しばらく忙しくなりますが、あんまり空かないように頑張りたいです。

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