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第3話 天恵『診断』

 こちらの世界に来てから10日ほど経った。


 銀狼……いや、あえて母さんと呼ぼう。

 母さんはとても献身的に俺たちを育ててくれている。おかげで日に日に体力がついていき、四肢に力が入るようになってきた。今では巣穴の周りを動き回れるぐらいになってきている。


 同腹の2匹も俺に続いて眼が開いたようだ。

 ちなみに黒狼の子供は男の子で、銀狼の子供は女の子だった。

男の子の瞳は紅く、女の子の瞳は蒼。両親と同じってことは種族の特徴なのかもしれないな。

 2匹は俺が少し動くたびにミューミュー言いながらジャレついてくる。

 背中から尻尾から所構わずガジガジとあま噛みしてきて、たまに力加減を間違えて強く噛まれるとかなり痛い。


 そんな温かな巣穴の中、俺は今日も(・・・)母さんに質問攻めを行っていた。



『お母さん、ここはどこなの?』

『お母さん、なんで僕はお父さんにもお母さんにも似てないの?』

『お母さん、魔法はどうすれば使えるようになるの?』

『お母さん、お父さんみたいに強くなるにはどうしたらいいの?』

『お母さん、お父さんとはどこで知り合ったの?』

『お母さん、なんでそんな困った顔してるの?』

『お母さん、なんで聞こえないフリをするの?』

『お母さん……?ねぇ、お母さん?ねえってば』


 産後うつ寸前まで追い込まれた母さんの涙と引き換えに、だいぶこの世界のことが分かってきた。


 まず俺たちのこと。


 黒狼や銀狼。これらは単なる狼ではなく、俗に言う『魔獣』の1種らしい。

 通常の狼と異なり高い知性を持ち、念話能力を持つ。個体によっては各種スキルや魔法も使えるとのこと。

 今この群れにはオスメス合わせて25頭いて、父さんがリーダーを務めているそうだ。


 そうそう、狼たちには名前の概念が無かった。


 【診断】で名前が空欄だったのはそのせいだ。

 もちろんそれでは不便なので、もともと呼称自体は存在していた。


父さんは『ボス』、母さんは『姐さん』

他の狼たちにはオスメス別々に優位性が存在していて、それぞれ高い順から『一番牙』『二番牙』のように呼ばれていたらしい。

しかしその優位性というのは加齢やケガなどによって随時入れ替わるため不便で仕方ない。むしろ覚えきれない。

なので俺は名前をそれぞれ決めてはどうかと父さんに掛け合った。

 

意外なことに父さんはいたく乗り気で諸手を上げて賛成してくれた。

理由は単純。

母さんをどう呼べば良いかいつも困っていたらしい。

まぁ普通、嫁さんを『姐さん』とは呼びたくはないよな。

『おい』とか『おまえ』とかじゃ気まずいだろうし。

具体的な名前については、俺は前世のまま『リヒト』と名乗ることにした。


自分たちにも考えてくれと言うので、父さんには漆黒の毛並みから『シュヴァルツ』。

母さんには銀白の毛並みから『ヴァイス』という名前を提案した。

クロとシロでも良かったけど、地球で言うところの牛よりもデカい狼だよ?

大学で学んだ第二外国語が思わぬところで火を吹いたぜ。

幸いお気に召したようで、また2匹で『やっぱりこの子は天才だー!』とワフワフ回って喜んでくれた。

狼たちにはあまり人間的な名付けの概念が無いようだから、いずれ同腹の2匹にも名前を考えてあげなきゃいけなくなりそうだ。


次の日、俺の質問の矛先は父親であるシュヴァルツに向かっていた。



『お父さん、森の外はどうなってるの?』

『森の南は広い草原、南東から東にかけては大きな湖があるぞ』


『お父さんは行ったことありますか?』

『ああ、父さんは昔は山に住んでたんだよ。草原と湖は無いな。あそこはニンゲンたちの縄張りだから』


『ニンゲンって?』

『猿の獣人の一種だな。すごく大きな群れを作るんだ』


『そのニンゲンの縄張りに行ったらダメなんですか?』

『そうだなぁ……あいつらは1匹1匹は怖くないけど、とにかく数が多い上に武器を使ってくる。リヒトが将来とても強くなったとしても、ニンゲンの縄張りに踏み込むのはやめておきなさい』

  

 

この広大な森は『翡翠の森』と呼ばれており、その頂点として『(ぬし)さま』なる強大な存在が支配しているそうだ。

その下には要所要所を縄張りとしている魔獣たちがいて、父さんもその一員らしい。

任されている縄張りはとても広く、父さんの健脚をもってして端から端までは半刻以上かかるそうだ……メートル法に換算すると直径20kmってところらしい。

富士の樹海よりもっと拾い縄張りってすごいな。


森の一部でこの広さというのだから、翡翠の森全体ではもっと広いのだろう。

県ひとつぐらい?いや、もっとありそうだな。



森の外は一部を除いて、ほとんどが人間や亜人の領域だ。

彼らとは基本的に相容れない存在で、遭遇すればまず戦闘は避けられない。

と言うかね、こちらに敵意が無くても襲われるんだってさ。

彼らの中には魔獣を狩ってその毛皮や素材で生計を立てる『ハンター』という職種があり、時々この森にも入ってくるそうだ。今までにも何頭もの仲間が殺されていると父さんは悔しそうに顔を歪めていた。

しかし毛皮に素材ね……

まるで学生の頃ハマったモンスターハンティングゲームの世界みたいだ。

まさか自分が狩られる側に回るとは思わなかったけど。



こうして少しずつこの世界の姿が見えてきた。


『リヒト、どこ行くの?あんまり巣穴から離れてはダメよ』

『はーい、分かりましたー』



後ろ足に筋肉が付いてきたおかげで、少しずつ歩ける距離が増えている。

最初は数歩歩くのすらやっとだったが、今では15分程度なら歩き続けても平気だ。

 

ここ数日、道すがら巣穴周りの物を【診断】し続けていると【診断】のレベルが4まで上がった。

思った通りレベルが上がるに従って得られる情報量が増えている。

例えば父さんならこんな感じ。

 

 【名前】シュヴァルツ

 【種族】黒狼 (Lv72/75)

 【性別】オス

 【状態】良好

 

 レベル4に上がった時にひとつ大きな変化があった。表示される単語についても派生知識を得られるようになったのだ。



 【種族】黒狼 (Lv72/75)

    ⇨グリューン大陸全域に生息する中型魔獣。

     その生態は狼に極めて似ているが、強靭な身体能力と高度な知能を持つ。

     種族特性:『闇精霊の加護』

     

ここで特記すべきことは『グリューン大陸』という固有名詞が出てきたことだ。

両親にも聞いてみたがこの大陸の一般的な呼称については知らなかった。 


先住人ですら知らないような知識ですら表示されるなら、このままレベルを上げていくだけでも外の世界のことがもっと詳しく分かってくると思う。

  

ふふふ……いつか『森の賢者』とか名乗っちゃう日か来たりするかもしれない。

さて、さっきの診断結果に話を戻そう。 


『闇精霊の加護』は闇の精霊を使役するスキルの効果にプラス補正がかかるらしい。

具体的には闇魔法や闇を利用した技の威力が上がるってことだ。

 

『お父さんは闇属性の攻撃が得意なんだよね。どんな必殺技があるの?』

『よくぞ聞いてくれた!』


うお……なんかめっちゃ目がキラキラしてる。

 

『父さんは爪に闇を纏わせて敵を斬り払うのが得意なんだ。どんな敵でもひと薙ぎで木っ端微塵だぞ!』

『おおー!』

 

『どうだ、凄いだろう!?』

『凄い!お父さん凄いよ!』 

 

『そうだろう!えっへん!』


真偽はさておき……

チョロ過ぎるよ、とーちゃん。

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