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第八話

 次の日、私は学校の休み時間に教室で一人、昨日の写真を見ていた。ぼんやりとだが、確かに少女が写っている。初めて撮った心霊写真。なんだろう、ちょっとだけ誇らしい。……あれ?これって呪われたりしないよね?

「うぅーん……」

 消すべきか、消さないべきか……。でもこれを置いてるだけで呪われるなら、もうすでに遅い気がするんだよね。だって直接会ってるし。うわ、私本物の幽霊と会っちゃったんだ。拙いな、このままじゃUFO好きから幽霊好きに鞍替えしてしまいそうだ。

「なに唸ってんだ?」

「ふえ?」

 声がした方に顔を向けると、思ったよりも遥かに近い距離に顔があった。

「な!ったらあああ!」

「……なんでこけたんだよ」

 そのまま椅子から転げ落ちる。だってもうすぐで私の唇が、ほっぺに当たりそうだったんだよ!?

「なんだこれ?」

 腰を摩る私に見向きもせず、話しかけてきた男子は勝手にスマホの画面を覗く。

「えっと……信じて貰えないかもだけど、心霊写真なんだ……」

「あぁ?心霊写真?」

 クラスの子たちの視線が痛い。まあその視線は全て、目の前にいる男子に注がれているものである。私に対してはせいぜい、あぁ絡まれて可哀想ぐらいのものだろう。

「お前そんなん好きなの?」

 この男子は江守浩太君。金髪にピアス、制服なのに染みついた煙草の臭いが漂う完璧な不良です。正直こうやって話しかけられると色んな意味でドキドキするし、周りの眼も若干痛い。近隣の公立高校と比べると、少しだけ偏差値の高いウチの高校は、この田舎の中でも比較的優等生が通うとされている。そんな中彼の出で立ちは悪目立ちしていた。

「おい、聞いてんだろ?答えろよ」

「ひっ!」

 いつの間にか私の席に座る江守君に睨まれ、口早に説明していく。

「え、えっと……それは近くの廃校になった小学校で私が撮ったやつでね?その時に見た血塗れの女の子が……」

 そこまで言うと、江守君の表情が明らかに曇る。あ、あれ?地雷踏んじゃった?

「おい、ちょっと来い」

「え!?え!?なに!?なんですか!?」

 行き成り腕を掴まれ、有無を言わせずに教室から連れ去られる。教室内にいるクラスメートに目で訴えるも、私を助けてくれる物はいない。

「あ、あのあの!お金はあんまり持ってなくて!あの!」

「違えよ」

「え?ええええ!?じゃ、じゃああの!えっと……わ、私初めてで……その……」

「は?なにが?それよりさ、さっきの話。その廃校ってもしかしてここの前の道を真直ぐ進んでいく先にあるやつか?」

「あ、はい……え?そうですけど?」

「そっか、じゃあその話もう広めるな。それとお前ももう係わるなよ」

 もうすぐ休み時間が終わる。人の少なくなった廊下で立ち止まり、江守君は真剣な顔で私にそう伝える。

「な、なんで?なにか知ってるの?」

「お前には関係ない。それにウザいんだよ、心霊写真とか言って気を引こうとするのとか。……ちょっと痛いぞ?」

「なんで……?」

「だから……」

「なんでそんなこと言うの?」

 今度は私が江守君を睨み返す。

「江守君にとやかく言われる筋合いは無いよ」

「おい、今川……」

「離して」

 私は掴まれていた手を振りほどき、教室に向かって歩いて行く。その後の授業で彼を見ることは無かった。


 その日の放課後、私たちは部室に集まっていた。

「どうします?この写真……」

 私が再びスマホの画面に映るそれを見せると、三人の顔が途端に曇った。

「私は……もう係わらない方がいいと思う」

「僕も正直もうあんなのは嫌かな……」

 流石に本物に会ってしまうと、これまでの様な活動は出来ないか。

「部長は?」

「俺も……すまん、あの廃校にもう一度行けと言われると、無理だな」

 やっぱり無理か。まあ本来なら私としては心霊的な活動は控えて、もっと科学的なオカルトに目を向けて欲しいので願ったり叶ったりなのだが……。

「今回は危なかったしな。次は今川の好きなUFOとかの活動にしないか?」

「そうですね、ツチノコでも探しますか?」

「天体観測しながらUFO探しましょうよ」

 盛り上がる三人を見ながら、私は決意した。

「すいません部長。私、もうちょっとこの幽霊について調べてみます」

「……なんでだ?」

「気になるんですよ、単純に。なんで鍵が閉まっていたのかとか、他にも色々」

 三人は黙り、私は部室の扉を開ける。

「坂藤、初めに行ったのって、あんたのクラスのなんて人だっけ?」

「あ、えっと……」

 別に幽霊に興味が出始めたわけじゃないし、江守君に言われてムキになっているわけでも無い。ただ、写真に写るおぼろげな少女が……悲しげに見えたのだ。


「えっと……」

「初めまして、俺は新谷洋一。んでこっちが本田里穂」

「よろしくね?」

 おい坂藤、相手がこんなリア充だとは聞いてないぞ……。目の前にいるのはイケメン爽やかのキラキラボーイ。隣にいる彼女らしき女性も、本当に同い年なのか疑いたくなるほど小さくて可愛い。二人とも坂藤みたいな陰気な奴の友達とは思えない。

「あ、よろしく!私はオカ研の今川小鈴です。えっと、実は私二人が行ったっていうあの廃校に行って……」

「え!?」

 その瞬間、本田さんの顔色が変わる。

「あ、あの……拙かったですか?」

 江守君に言われた言葉が頭を過る。

「ご、ごめん……そうじゃないの。ちょっと驚いちゃって」

「里穂、怖いなら俺が話聞いとくからどっかで待ってる?」

「ち!違うよ!いいのいいの!一緒に聞く!」

 そうか、この子もあの幽霊を見てるんだよね。ウチの部員と一緒で、もう係わりたくないって思っててもおかしくない。

「手短にしますね?結果を言うと、私も見ました、あの幽霊」

「そんな……」

 本田さんはまた顔色を悪くしている。やっぱり止めたほうがいいかな。

「それっていつ!?いつの話なの!?」

「え?あ、あの……」

「おい里穂?どうしたんだ?」

「あ、えっと……ごめん。なんかえっと……あれってやっぱり夢だったんじゃないかって……思ってたから……」

 胸が痛む。私がこんな話をしたから、忘れかけてたこの子の嫌な思い出が蘇ったんだ。

「ごめんなさい……」

「あ、い、いいのよ?続けて?お願い、私も気になるの……」

 彼氏さんの顔を見ると、黙って頷いてくれた。私は自分の考えと、彼らに会いに来たわけを話した。

「えっと、私があの幽霊に会ったのは昨日の事です。その時は驚いて逃げただけなんですけどね?でもちょっと気になる事があって」

「気になる事?」

「調べたらあの儀式、ただ幽霊に会う儀式じゃなくて、死んだ人に会うための儀式だったんですよ」

「……え?」

「そうなの?」

 二人が驚いている。それもそうだ、あのスレでは幽霊を呼び出すとしか書かれてないから。でも他の、あのコピペの完全版にはちゃんと書かれている。会いたい人に会えるって。

「だからその、聞きたかったのは……会いたい人って心当たりありますか?」

 少し罰当たりな質問だったかもしれない。もしそれが本当なら、私が聞いているのは……。

「行こう」

「え?」

「洋一、行こ?ね?」

「あ、あぁ……」

「あの……」

「帰りに本屋さん寄っていい?」

「お、おう……」

 本田さんは私など見えていないかのようにして目の前を通り過ぎる。女の子特有の、いやそれ以上に優しくいい香りがふわっと香る。ヤバい、やっちゃったよ……私。

「ごめんな?」

 新谷君は先に出た本田さんを見送ると、私にメモを渡した。

「後で説明するから。おーい!待てって!里穂!」

 電話番号……。これっていつ掛ければいいんだろう。

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