第十二話
「おい浩太!泣くな!」
膝が熱い。ドクドクと音を出し、血が次々に出ていっている。嫌だ、こんな所で死にたくない。
「だから泣くなって!男だろ!?こんのおお!」
「痛いよおおおお!死ぬううううう!」
ただでさえ死にかけているのに、横でギャアギャア叫ぶ女子に頭を殴られる。何故僕がこんな仕打ちを受けなくてはならないのか。
「ただ転んで膝擦りむいただけだろうが!そんなんで死ぬか!馬鹿!」
「うぅ、でも、でも痛いんだもん……」
「うるせえ!もう一回殴られたくなかったら泣き止め!そして立て!」
どこまでもスパルタで、いつも怒ってる恵真。僕は恵真に怒られないようにいつも必死に後ろをついて行っていた。
「なんかずっと一緒にいるよね、僕たち」
「お前がどこでもついて来るだけだろ?」
「知ってた?僕ってもう恵真より身長高いんだよ?」
「お前ぐんぐん伸びすぎだよ、気持ち悪い。それにちょっとだけだろ?」
「今はちょっとだけど、すぐにもっと大きくなるよ」
「だから?」
「そしたら今度は、僕が恵真を守ってあげるからね」
「……えぇ?お前がぁ?」
「嫌なの!?」
ずっと一緒だと思ってた。これからも僕は恵真と一緒に大きくなって、今度は僕が恵真を守ってあげるんだって。
「恵真……なんで泣いてるの?」
「私さ……街の方に行くんだって……」
母校であるあの校舎は廃校になり、恵真までもが僕の傍からいなくなる。でもなんでかな、この時珍しく泣いている恵真を見て、僕は一粒も涙が零れなかったんだ。
「泣くなよ、恵真」
「う、うっせえよ……」
「泣くなって……」
頭をポンポンと軽く叩く。ビクッとした恵真が少し可愛くて、僕はその後ずっと頭を撫でていた。
卒業式が終わり、二人だけしかいない教室。僕たちは今ここを離れたら、この校舎が無くなってしまう気がして、帰る事が出来なかった。
「なあ恵真、卒業したらさ……」
「あぁ?小学生はもう卒業だって。お前卒業式寝てたのか?」
「違うよ!中学!卒業したら、そしたら……」
「校門の前の道を真直ぐ行った所にある高校な。あそこ制服が可愛いんだってよ」
「そ、そうなんだ」
「ちょっと難しいらしいけど……」
「僕、恵真が可愛い制服着てるとこ見たいな」
「なっ!そ!そういうことを言って欲しいんじゃ無くてだな!」
「一緒に行こうよ、その高校……」
「うん」
「その時まで、ちょっとの間だけ……」
「あぁ、お別れだ……」
それから一年も経たない内に、その約束が二度と果されない事を知った。葬式には行かなかった。だって信じてなかったから。でも、日が経つにつれてそれが本当なんだって分かった。もう、恵真には会えないんだって。
「確かにあいつは乱暴で、すぐにキレるし馬鹿だけど……そんなことする奴じゃない」
「でも二人は実際に斬られたんだぞ?だからさ……あれはやっぱり……」
「あの写真は恵真だよ」
「……え?」
「俺には分かる。写真見ただけで」
「な!なんで!あんなボケた写真じゃ!」
「俺が恵真を見間違う訳がない」
「言ってる事が支離滅裂じゃないか!」
どいつもこいつも見ててイライラする。人がせっかく吹っ切れそうだった時に、またあいつの名前出してきやがって……。それになんだ?幽霊?知るかそんなの。勝手に死んで、勝手に戻って来やがって。それで俺に挨拶も無しかよ。
「俺は今日あの馬鹿に会ってくる」
「なにしに行くんだよ……」
この男いちいち五月蠅いな、関係ないだろ。
「言いたいことがあるんだよ。せっかくいるなら直接本人に言う」
「じゃ、じゃあ私も!」
「お前は来るな」
今川は納得いかない顔でムスッとしてる。ホントこいつ変わんないなぁ。
「あのな?そんな怪我で来られたら邪魔だろ?お前の事守るので精一杯になっちゃうからな」
「……え?え!?そ、それって!?なに!?わ!私の事、その!えっと!ま、守ってくれるの!?」
「いや、だからそれが面倒だから来るなって言ってんの。分かるか?」
「じゃあ俺が行くよ」
「あぁ?てかお前は誰だっけ?」
確か何回目かにあそこに行って、恵真に会ってる奴だっけかな。
「俺も恵真を知ってるんだよ」
あぁ、そうか。そうだよ。こいつだ。どっかで見た顔だと思ってたし、なんかイラつくと思ってたんだ。
「お前が新谷洋一か」
「え?俺の事知ってるの?」
恵真が送ってくる写真にいつも入ってる奴。なんで俺がこんな奴と仲良くしなきゃならないんだ。
「やっぱ邪魔だし俺一人で行く」
「そうはいかない!あれが恵真なら!」
「恵真じゃないってお前が言ってただろうが!」
「君が恵真だって言ったんだ!」
まったく……面倒臭いな……。
「俺は21時にあそこに行く」
「そうか、じゃあ俺も21時に行くよ」
一緒に行くとは言わない。でも、来たいなら好きにすればいい。俺は俺のするべきことをするまでだ。




