第一幕 三十
朝、華は女の前で戸の外を指した。
昨日、人の集まっていた広場の方を見る。
「行く」
女は華を見た。少ししてから、外へ目を向け、頷いた。
華は一人で戸を出た。
*
広場は、昨夜も今朝も人の手があった。
昨夜は卓のまわりに皿があり、火のそばには人の声が重なっていた。笑う声も聞こえた。
今朝は、その近くに板と桶が置かれている。昨夜、卓のまわりにいた人たちも、板や桶のそばで手を動かしていた。
華は少し離れたところで足を止める。
そこへ、草地の方から別の獣が一頭運ばれてきた。
脚を紐でまとめられた獣のそばに、男が桶を置く。切れば血が出ることは、華も知っている。
男は、切り口へ手を向けた。
赤いものが、下の桶へ細く流れた。
血の匂いが、朝の冷たい空気に混じる。男はそれを見てから手を下ろし、刃を取った。
刃が動いても、華が思ったほど赤いものは出なかった。
華は、もう一度桶と、さっき手を向けていた男を見る。
板の上には、切り分けられた肉が増えていった。
*
女が肉の一部に塩を擦り込んでいる。
塩漬けにするのだろう。
別の肉は紐に掛けられ、細い煙の上へ吊られている。下には、煙を出す木片があった。
燻製にするのだろう。
女は残った肉を薄く板へ広げた。
干すのだろうか。
女がその肉へ手を向ける。
濡れた表面が、朝の光を鈍く返していた。
それが、見ているうちに変わっていく。
乾いている。
時間を早回しにしたみたいに、肉から水分が抜けている。
女は手を下ろし、息を吐いた。空いた手で、一度だけ肩を回す。
代わって、別の男が板の前へ来た。
同じ肉へ手を向ける。
華が煙の方を見て、もう一度板へ戻したときも、肉の表面は少しずつ変わっていた。
*
吊るされた肉の下では、煙が細く続いている。
そのそばの男が、火へ手を向けていた。炎は大きく跳ねず、煙だけが途切れない。
昨夜、鍋の下でも同じように手を向けていた。
その火を見ていると、森でレオンが火を起こした夜が浮かんだ。
あのときも、レオンの手のあとに火があった。
今は、目の前の人たちも、同じように手を向けている。
魔法、という言葉が、また浮かぶ。
華は自分の手を見た。指を開き、ゆっくり握る。
みんな、どうやっているんだろう。




