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GateFragments  作者: 悠蛹
エピローグ

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46/46

【終幕】

「……」

 ルクシアは、大厄災からの日々を思い出していた。

 娘たちを見つけ、長い停滞の霧が晴れ、穏やかな日々が続いていた。

「お母さーん」「ルクシアー」

 下階から声が聞こえる。

 今日は家族全員で、甘いものを食べる冒険に出掛ける予定だった。

 部屋から出てゆっくり階段を降りると、娘二人とシルが、並んで待っていた。

「お母さん、その義肢、まだ慣れないの?」

 アリシアが心配そうにルクシアを見る。

 ルクシアは、ガルトが作成した深い緑色の義肢を外し、一般に普及している物に付け替えていた。

「もう少しかかりそうね」

 そう言うと、ルクシアは三人のそばへ歩み寄る。

「あの義肢は特殊だけど、アタシがメンテナンスするから、使っていいんだよ?」

 シルの提案に、ルクシアは首を振る。

「あれはガルトからの大切な贈り物だけれど、今は必要ないから」

 ルクシアの言葉に、シアリスはニカッと微笑む。

「それに――」

 シアリスはルクシアの言葉を続けながら、腰の触手でルクシア、アリシアとシルを抱き寄せる。


「今度は、私たちが抱きしめるから!」


 ***


 穏やかな木々の中、森から出れば、近くにはいくつかの村が点在する。

 白い花に導かれた先に、畑と小さな庭のある家。

「お茶を淹れたよ」

 デプラが家から顔を出し、庭で土をいじる女性へ声をかける。

「うん、ありがとう」

 ファルムは、魔女と取引を行った。


〈ファルムさん、あなたの『デプラさんと共に生きる』という願いを叶えます〉


「あ」

 ファルムの手に植物の棘が刺さった。小さな傷口から、赤い血がぷくりと浮かぶ。

〈対価として『天使の永遠性』を徴収します〉

 ファルムの血に宿る、テセラコアの永遠は失われた。彼女はこれから、デプラと共に歳をとり、いずれ死を迎える。

 背中の傷は残ったままだが、その傷は過去の痛みだけでなく、デプラの抱擁をより強く感じさせてくれる。


「美味しい…」

 ファルムが顔を綻ばせ、隣に座るデプラを向く。

「良かった」

 デプラは愛おしそうにファルムを見つめると、彼女を自身の胸に引き寄せる。

 二人は見つめ合い、確かめ合うように、その唇を重ねた。


 ***


『もし、彼らに会うことがあったら、二人を手伝ってあげて。あの子たちが、無事に暮らせる場所を見つけられたのか、見届けて欲しいの』

 かつてレムナラが口約束で提示した条件は、ヴェレによって叶えられることはなかった。だが、蛍月がヴェレの全てを継承し、世界渡りの力で二人を別の世界へ移動させたことで履行された。


「さあ、次はカヴォルさんを迎えに行かなくちゃ」


 蛍月は旅を続ける。

 彼女はどこへだって行ける。

 全く違う世界を巡るかもしれなければ、門に導かれた彼らの元を、また訪れるかもしれない。

 ひとまずは、長く罪を背負い続けた騎士の所へ向かう。


「……」

 目を閉じれば、そこにはヴェレ・ルミエラがいる。

 いつでも、そばにいる。


 ***


「ガルト、テセラは?」

 ユールが工房へ顔を出し、ガルトへ声をかける。

 降り続けた雨が止み、霧が晴れたことで、この世界にまだ人が残っていたことが明らかになった。

 リラエムとテセラは彼らの社会で生活を始めた。

 だが、ガルトの工房に残ったユールとテセラは頻繁に互いの家を行き来している。

「お帰り、ユール。テセラなら奥の部屋にいるよ」

「分かった、ありがとう」

 ユールがガルトへ礼を言うと、奥へ続く扉を開く。

 テセラはガルトとリラエムから敬称で呼ばれることを嫌がり、様を付けるのをやめさせた。


「テセラ?」

 ユールが部屋へ入りながら声をかけるが、返事はない。

 窓辺の机に突っ伏し、静かな寝息を立てていた。

 ユールは、そばに掛けていた布を彼女へかけると、向かいの椅子に座る。

「……」

 テセラの睫毛を眺めながら、彼もまた瞼を閉じる。

 暖かな日差しのもと、机には書きかけの紙片が広げられていた。


 ***


 教会本部が完成し、サウラはテセラへ内部を案内していた。

「テセラ様、こちらが大講堂になります」

 サウラに連れられ、テセラは部屋へ入る。

「わあ…」

 テセラが大きく感嘆の声を漏らす。

 少女の視線は、天井に描かれたいくつもの円に注がれていた。

それは、サウラがテセラへ聞かせた中で、特にテセラが好きだった物語の挿絵だった。


「サウラ!」

 テセラが向き直り、その黄金の瞳を輝かせる。

 講堂の奥、鮮やかなステンドグラスから降り注ぐ日差しに、少女の白銀の髪が煌めく。


「わたしも、物語を書きたい!」


 ***


 物語は、あなた自身。

 幸福も不幸も、愛も誇りも。

 痛みも怒りも、あなたの全てが世界になる。


 彼らは、あなたが読んでいない時も、書いていないときも、ずっとそばにいてくれる。

 物語が終わり、本を閉じても――

 彼らは生きて、そこにいた。



『GateFragments』

 ——完——

この物語を読んでくれて、ありがとうございました。

彼らの旅を愛してくれたのなら、私の人生でこれほど嬉しいことはありません。

きっと生きて、いつかあなたの物語を。

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