ブラックスターその2
タクトは馬を走らせていた。その動きに呼応するように、ブラックスターがその巨体を震わせながら追いかけてきた。
「ねえ、タクト。あいつ速いよ」
「しっかり掴まってろよ。馬が汗掻いちまってるみたいだ。そして温度が高いほど奴の速度は上がるみたいだ」
「何処に行くの?」
「あいつを倒す唯一の方法を思いついた。そのためにはあそこに行く必要がある」
タクトは馬に鞭打った。馬の速度がさらに上がって行く。
「速さを上げると、結局、ブラックスターも速くなっちまう。意味ないぜ」
二人が向かったのは、先日に馬を購入した馬小屋である。まさか道を戻る羽目になるとは思わなかった。しかしこの場所こそが、ブラックスターを倒せる場所だ。
「よし、あったぞ」
タクトは馬小屋の前にある藁を銃で撃った。藁に火が点いて燃え始めた。
「さあ、行け」
ブラックスターが凄まじい勢いで藁を飲み込んだ。そして火がその黒い液体に燃え移った。
「液体を気体にしてやったぜ」
ブラックスターはそのまま炎に包まれて粉々になった。
「危なかったぜ・・・・」
タクトと双葉がブラックスターを倒した頃、クレスタ城の門には、バームがアサムと何やら話をしていた。
「私が終わらせてくる。愚弟に引導を渡す」
バームは栗毛に乗ると、兵士に門を開かせた。それをアサムが追いかける。
「あなたに弟を始末できますかな?」
「黙れ。私はもう奴の兄ではない。クレスタ城主だ。自らの手で決着をつけるのは当然の義務」
アサムに毒されたバームは、かつての優しさや思いやりなどを全て封印し、感情のない冷酷な国王となっていた。その姿は父アガメムノンに似ており、血は争えないという言葉を地で行くようであった。
「アサムよ。城の中のことは頼んだぞ」
バームは馬に鞭打ち、そのまま無限に続くかのような荒野の上を駆けて行った。
アサムはそれを静かに見守ると、兵士達を城内に戻して、自身も馬に乗った。
「フフフ、彼はアガメムノンよりも頭が悪いようですね。国王が単身で乗り込むなど、愚の骨頂。しかし構いませんよ。もうこの世界で果たすべき目標は、大体果たせました。最後のお勤めとして、タクトと、私が呼び寄せた、あのガキを始末し、帰るとしますかね」
アサムは門を出ると、焦るバームとは対照的にゆっくりと駒を進めた。彼の真意を知る者はいない。




