スクリーチとティラノドレイク
草丈の短い草原地帯が広がっている。そこに茶色の帽子を深々と被った若い男が現れた。そして目の前で岩に腰掛けて寝ている小太りの男を睨み付けた。
茶色の帽子の男は、地面に落ちていた丁度良い重さの岩を見つけると、それを片手で持ち上げた。丁度良い重さとは殴るのに適しているという意味である。
「いつまで寝てんだ・・・・」
茶色の帽子の男は、岩を小太りの男の額に振り下ろした。ガツンと心地良い音が響き、小太りの男は跳ね起きた。そしてダラダラと止めどなく流れる血を手で拭った。
「痛、何すんだよ兄貴」
「なあ、覚えてるかウルフよ。お前がそうやって居眠りしたせいで俺達は捕まったんだよな。お前が間抜けな騎士どもの目の前でよお、もっと間抜けに鼾なんぞかきやがるから、俺達は牢獄で10年も過ごす羽目になったんだよなあ」
茶色の帽子の男は、再び血の付着した岩を持ち上げた。思わずウルフという小太りの男が、両手で自分の顔を押さえた。
「寝るのは百歩譲って許してやる。しかしだなぁ、鼾は何だったんだよ。ええ?」
「待ってくれよ。でも今は牢獄の外だぜ。外の空気が美味しいな」
ウルフの額に再び岩がぶつかった。
「うげえええ。兄貴、マジで止めてくれ。死んじまうよ」
「良いか。俺が言いたいのは。お前の居眠りで牢獄にぶち込まれ、ようやく出られたと思ったら、またお前が俺の前で、何の反省も教訓もなく、相変わらずのうるせえ鼾垂れながら、居眠りしてることにむかついてんだよ。分かるか?」
茶色の男は岩を地面に落とすと、ウルフの服の襟を掴んで、自分の顔の前に引き付けた。そしてドスの効いた声で言った。
「鉄仮面の男からの命令だ。お前のスクリーチで、これから見る野郎を始末しろってこった。良いか、鉄仮面の野郎には仮がある。脱獄させてもらったんだからな。そいつは返さないとな」
「ああ、分かったよ。じゃあ俺の能力を使うぜ」
ウルフの両目が金色に光った。そして地面に二人の男女の姿が映し出された。片方は茶髪で短髪の若い男、もう一人は栗毛色の髪を首の辺りまで伸ばした、セミロングの、男よりも多少幼く見える少女だった。
「こいつらがターゲットか。気迫のなさそうな面だぜ」
「で、でもよ兄貴、女のガキの方、ちょっと可愛くねぇか?」
顔をほんのり赤らめるウルフを見て、茶色の帽子の男は、先程の岩を掴んだ。
「ちょっと、待ってくれ。俺、今悪いこと言ったか?」
「お前、あのガキに惚れたのかよ。殺す相手を好きになるって正気か?」
「好きじゃねえよ。可愛いと思っただけさ。好みのタイプぐらいあるだろ」
茶色の帽子の男は帽子を被り直して、フッと小さく息を吐いた。
「良いかウルフ。ああいう顔の女を嫌いな男はいないぜ。見るからに守って下さいって感じのよお、可憐なお嬢様って感じじゃないか。多分あのガキ、男の方と既にヤッてるぜ」
男の発言に、ウルフの顔が真っ赤になった。それはまるで茹蛸のようで、男は笑いを必死に堪えていた。
「嘘だ。あの娘は多分、そんなこと知らないんだ。きっと大好物はお母さんの手料理で、将来の夢は良いお嫁さんになることなんだ。そんな純粋な娘が、簡単に純潔を捧げるわけないだろ」
「がっつり惚れてんじゃねえか」
男は岩でウルフの額をまたも殴り付けた。しかしウルフは仰け反りはしたものの、今度は倒れない。
「ほお・・・・」
男は感心したように腕を組んだ。
「兄貴、俺のスクリーチの探知能力と、兄貴の見えない恐竜があれば、男の方は絶対に暗殺できるぜ。だが、代わりにあの娘はもらう。俺と結婚して幸せな家庭を作るんだ。これは兄貴にも邪魔はさせない」
「ふん、好きにしろ」
男は馬に乗った。ウルフもすぐに別の馬に乗り、二人はそのまま草原地帯を走り抜けた。目標はタクトと双葉の暗殺。最もウルフは双葉を嫁にもらう気が満々だったが、茶色の帽子の男の眼には、既に二人の死に姿が浮かんでいた。




