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『笹岡啓子(肉食動物の少女)』 7

通算28話目の『神隠しより生まれし少女』です。

「菜々と瑠菜はよく誤解されるんだが、瑠菜は優しい子だよ」


 そう言葉を掛けて来たのはこの家の主だった。


「菜々は三人の中では一番気が強い割に人当たりがいい。だから彼女の方が優しいと勘違いされるようだ。それが理由で、彼女は三人の触覚と盾みたいな役割をしている。常に周囲を探っているし、自分が先頭に立って接触する事で二人の防壁になっている。その情報を分析して次の行動をするのは瑠菜が担当している。菜々の盾に対して剣の役割だな。だが、優しすぎる所が有る。瑠菜が区別の為に標準語を使っているから、冷たく感じられるのは仕方無いがね。瑠菜が君の事を何と表現したか分かるかな?」


 啓子にしては珍しく大人の問い掛けに真剣に考えた。

 啓子にとっての大人とは、子供を理解しているふりをしながら干渉してくる馬鹿か、初めから理解せずに命令してくる馬鹿かの二種類だった。そして、啓子はどちらの馬鹿も扱いに慣れている。

 だが、この大人は少し違った種類のようだった。適当にあしらう事が難しそうだし、こちらの嘘が通用しそうにない気もする。自信を持った態度が嫌味にならずに、信用できると思わせる雰囲気があった。

 啓子にとって一番やりにくい大人のはずだが、初めて会った時から何故か警戒心を抱かなかった。それに葉瑠菜三人がこの血が繋がらない父親を信頼しきっている事をこのパーティーで気付いていた。

 啓子から見た浩史は童顔のせいか、会う前に想像していたよりも若く見えた。自分の父親との年の差は10歳くらいだが、もっと離れて見える。けちを付けるとしたら、服装のセンスは啓子の父親よりイケていなかった。はっきり言って、ださい。

 それはさておき、啓子は探りを入れる意味合いも有って、念の為に『良い子』モードで答えた。


「分かりません」

「可哀想な少女と言っていた。母親に捨てられて片親になった田中さんや、最近身内に不幸が有った子や盛田君が居るにもかかわらずね。今日初めて君に会ったが、どうやら可哀想な少女からは脱したみたいだな。少なくとも、過去の自分にけじめを付けた君は身軽になっているんじゃないかな。今の君ならこれまで分からなかった事も見えるはずだ」


 その時に陽菜と早川優衣が笑い声を上げた。拓海が何か冗談を言ったようだった。早川翔太が切り返して、更に笑いの輪が広がった。そこに松田貴志が冗談を追加して全員が笑い出した。その様子を撮影していた清志もカメラを構える事を諦めたようだった。笑ってしまって手ブレを補正しきれないのだろう。葉瑠菜三人も含めてみんなが楽しそうだった。


「今はみんな仲が良いだろ? だが、ほんの一ヶ月前にあの三人はこの世に居なかった。どういう意味か分かる?」


 啓子は瑠菜と話した時から考えていた事を浩史に話した。


「生き残る為の環境作りですか? 瑠菜さんから聞きました。でも大袈裟のような気がします。そこまで深く考えなくても生きて行けるはずです」

「そうだね、中学生なら普通はそう考えるだろうね。生き残る為に味方を増やす必要が有るなんて、普通の中学生には想像できない事だな。共通した時代背景があるから、周囲とかなりの意思疎通が出来るからね。しかも親なり学校なりで守られている。でも彼女達はそれだけでは足りなかった。例のホームページの話を聞いたよね。あれを作ったのは僕の部下の彼だよ。彼が、葉瑠菜三人が中学校に行く前に絶対にネット上で罠を仕掛ける必要が有ると言って作ってくれたんだ。元々そっち方面の知識が豊富だったからね。やっかいな学校裏サイトを潰す事と、潜在的な敵を炙り出す事が主な目的だが、その他にも、三人の情報やマスコミをコントロールする狙いも有る。全く情報が無いと、人間は何とかして探ろうとするだろ? そして、もう一つの大きな方針を決めた。何だと思う?」

「敵を作らない、ですか?」

「まあ、それも含むけどね。その前の段階の話さ。環境上好ましくない状況、例えばいじめ、学級崩壊、教師の能力不足、その他色々なマイナス要因を無くす事だよ。君達の学校は公立ではまだマシな方だが、大なり小なりの問題は有ると仮定して、戦闘意欲満々で彼女達は学校に乗り込んだんだ。徹底した先制攻撃をモットーにね。だから君は抵抗できない内に周りと切り離された。君からしたら少々卑怯だとも思うがね。彼女達の分析では、後はじっくりと腰を据えて取り掛かれば問題は無いと言っていた」


 浩史は言葉を切って、葉瑠菜三人を見詰めた。その目は愛しさに満ちていた。


「君はあの子達を化け物と言ったそうだね。別に非難する気は無い。その表現は正しいんだ。あの子達は多分、ある意味人間じゃない」


 啓子は浩史の言葉に衝撃を受けた。周りの光景が現実味を失った気がする。愛情に満ちた目と、言っている内容の差が現実味を奪っている。


「彼女達にはおかしな点が有る事を知っているね?」

「写真にまともに写らない事ですか? さっき自分で言っていました」

「そうだ。自然界には有り得ない現象だ。彼女達の協力で採取された多数の細胞レベルの検査やレントゲン、MRI等の最新機器での検査結果は確かに人間としか言えないし、不審な異物も体内から発見されなかった。実際、食中毒で一度全員が死に掛けたほど人間そのものだ。更に言うなら、妻の残された髪の毛と彼女達のDNAも合致している。その結果を知った上で僕の考えを言って上げよう。彼女達はもしかしたら、人類に対するリトマス紙かもしれん」

「リトマス紙?」

「人類の本質を見る為のね」


 啓子はぞっとした。人類の中に差し込んで、色がどう変わるかで判定する試料が彼女達の正体という考えは想像できなかった。


「本当にそう思っているんですか? 余りにも飛躍し過ぎです」

「難しい言葉を知っているね。可能性の一つだ。まあ、僕以外に信じる奴はほとんど居ないな。でもね、可能性がゼロでは無い。だから、中学校に行くと決まった時は悩んだな。本当に行かせて良いのか?ってね。あの子達が今時の中学生とコミュニケーションが取れるのか? 変な目で見られないか? 他の生徒とトラブルを起こさないか? これが一番の問題だが、他の子を危険な目に遭わせないか? 考えたら心配は尽きなかったからね」


 思わず啓子は突っ込んでいた。


「どんな不良娘なんですか? 余程悪い子供の親でないとそこまで心配しませんよ」

「ある意味では不良娘の方が気楽だよ。自分の娘だけをなんとかすればいいんだからね。あの子達はなんともなくても、周囲に悪い影響や被害が出れば致命的なほど叩かれる。特に危ない組織やマスコミが虎視眈々と狙っている状況ではね」

「それは有るかもしれませんね」

「そして、その事で彼女達の色が劇的に変ったとしたら? 何が引き金になるか分からないだけに無意味な刺激を与えたくなかった。物理的な危険はある程度回避できるがね」

「どうしてですか? 空手でもしてたんですか?」


 質問する啓子の声は少し低くなっていた。


「していないよ。でも、あの子達は先読みする力が有る。いや、超能力って訳じゃないよ。予測する力って奴かな、目の前の状況がどの様に変わるのかを読み切る力がすごい。僕の妻も人並み外れていたが、彼女達は輪を掛けてすごい。だから危険な兆候を嗅ぎ取って、回避する事は可能だと思う」


 啓子はカッターで切り付けられた時の事を思い出していた。納得せざるを得なかった。


「でも、所詮は女の子ですよ。体力では大人や男子に勝てません」

「体力ではね。でも多分、彼女達に勝てないだろうな。さっきも言った、まともに写らないという話だが、もし人間相手にも使えるとしたら? もしかしてバリアの一種だとしたら? 原理が分からないという事は、どれだけの機能が有るか分からないって事だよ」


 葉瑠菜達三人の父親と話しているうちに、啓子はこの家の庭で展開されている光景が益々現実のものではない気がしてきた。


「どうして、そんな事を私に言うんですか?」

「予防措置だよ。君はもうあの子達の敵にならないはずだ。僕が聞いている話から判断すると、君は頭も良いし感受性も高く勘も良さそうだ。そのうちに、ある疑問に辿り着く。『この化け物は何者なんだ?』という疑問にね。その時に無謀な事を考えないように、先にある程度の秘密を教えておくって事だよ。それにね、話しているうちに、君を気に入ったのかも知れない」


 啓子は直ぐに反応できなかった。やっと言った言葉は上ずっていた。


「勝手に気に入らないで下さい。それに私はそんなに頭が良くありません。成績は姉にも負けるし、両親にも嫌われるような子ですよ。今日会ったばかりで決め付けないで下さい」


 浩史の答えは優しかった。


「頭の良さと成績の良さは微妙に違うよ。記憶力が良いか、テクニックを知っていれば成績なんて簡単に上がるさ。両親の事は知らないが、僕から見た今の君は深みのある良い子だよ。それに君は僕と同じ種類の匂いがする。他人の感情に敏感過ぎて、時として他人が馬鹿に見えたり、逆に分からなくてもいい他人の感情に傷付いたりする所とかね。まあ、君が望んで、他人をプラス方向に見る気になればきっと長所になるよ。僕もそうだった」


 その時、浩史を呼ぶ声がした。菜々が清志の方を指差していた。彼の構えるカメラに微笑みながら浩史は啓子に言った。


「ほら、笑って」


 啓子はその言葉に応えた。浩史の右手を抱えて、カメラに向かって微笑んだのだ。多少はこの父親や葉瑠菜達に対するいたずらの意味が有ったが、人生で初めて甘える事が出来そうな大人を発見し、不器用ながら甘えてみたというのが本当だったかも知れない。

 一斉にブーイングが起こった。まず陽菜が飛んで来て浩史を挟んだ形で左手を抱えた。次に瑠菜と菜々が背中に飛び乗り、葉菜が首に抱き付いた。

 結局、最後は浩史を中心にした全員の記念撮影になってしまった。

 清志が選んだ『今日の一枚』はこの写真だった。


 4時間も松下家で時間を過ごした啓子の帰宅の足取りは軽かった。

 彼女が感じた、葉瑠菜三人が浩史を信頼しきっている理由が分かった事と、自分も同じように信頼できると確信したからだった。

 ふと、浩史に聞き忘れた質問を思い出した。『人間じゃないかもと考えている三人を、何故愛しそうに見れるのですか?』

 彼女はそれを知りたくてこれからも松下家を訪ねる事にした。彼女の足取りは更に軽くなった。



 事件の最終幕が下りた。葉瑠菜三人に対抗できたかも知れない最後の生徒、笹岡啓子は完全に取り込まれてしまった。

 葉瑠菜三人を守る人々による、生存圏確保の第一段階が終わった瞬間だった。

如何でしたでしょうか?

 やっと“いじめっ子啓子”編が終わりました(^^)

 次からは第3章に突入します(^^)

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