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『笹岡啓子(肉食動物の少女)』 6

相変わらず地味に進行中の『神隠しから生まれし少女』第27弾です。

 日曜日に行なわれたバーベキュー大会は盛大な規模で行なわれた。

 無駄に広い松下家の庭にはテーブルが置いてあり、本格的な手作りのタレと香辛料に漬け込んだ肉類や野菜などの材料が豊富に用意されていた。

 家族は勿論、一樹と陽菜の幼馴染の早川兄妹と盛田兄弟や綾乃と拓海に啓子、浩史の部下の二人も来ていた。そして、もう一人意外な人物も呼ばれていた。

 啓子はその人物、田所清志にぶっきらぼうに尋ねた。


「なんで、あんたがおんねん?」

「いや、俺も分からんねん。昨日、急に呼び止められて、来たいか?って訊かれたんや」


 葉瑠菜三人を撮影しようと苦心していた男子生徒だった。菜々がその疑問に答えた。


「あー、説明したろ。この子は度重なる失敗にもめげずに必死にうちらを盗撮しようと、あの手この手で頑張ってきた、努力の子や」


 菜々は一旦言葉を切り、ウーロン茶を飲んだ。


「でな、うちらは元々自然のもんと違うやろ。だからな、一定の条件でしかまともに写らんねん。これまでに出回った写真が極端に少ないのも、そういう理由やねん。みんなには内緒やで」


 菜々はさらりととんでもない事を言い出した。


「それって、何て言う心霊写真?」


 啓子は思わず突っ込んでいた。菜々の反応は笑い声だった。


「はははは、あんた、思ったよりおもろいな。瑠菜が呼んだ理由が分かったで。あの子は自分にお笑いの才能が無いさかい、あんたを呼んだんやな。ま、それはさておき、努力のし過ぎでほとんど犯罪行為すれすれの努力をし始めてな、このままやったら捕まるんちゃうかと心配になったんや。折角落ち着いてきたのにクラスから犯罪者を出したらまたマスコミがうるさくなるやろ? それはそれで困るからいっその事、取り込んでしまえって事で呼んだんや」


 啓子は額に手を当てながら確認した。


「待った。二つ確認するで。まず最初の質問や。あんたらは心霊写真並みに写りにくいって、どういう事や?」

「実はまだ解明されてないねん。他の『神隠し』の被害者はちゃんと写るんやけどな。うちらはカメラ側の電子機器が上手く働かんようになるんや。昔の古いカメラもあかんらしいけどな。マスコミでは噂になってるらしいけど、写らんもんは仕方ないやろ? どうやらうちらがその気にならんとちゃんと写らんみたいやねん。な、君?」


 振られた清志はしどろもどろになりながら答えた。


「そうやったんか・・・ どうりでデジカメがまともに作動せえへん筈や。でも病院の窓から顔を出した時とか、教室では携帯でまともに写ったんは何でや?」

「サービスや。レントゲンもうちらがその気にならんかったら、撮影出来へんねん」

「菜々、しゃべり過ぎや。後でちゃんと二人の記憶消しとき」


 三人の会話にいきなり葉菜が割り込んだ。彼女は真剣な顔だった。啓子と清志は驚いた顔になっていた。


「そんな事出来んの? 今迄にもやってたんか?」

「葉菜、あんたが言うと冗談に聞こえんから止めとき。心配せんでも、そんな事出来へん」


 菜々が笑いながら葉菜をたしなめた。葉菜はニコリと笑うと雄一兄弟と綾乃の横に歩いて行った。三人の残りの瑠菜は浩史の部下の松田貴志と杉浦美紀と談笑していた。


「葉菜の冗談は切れ味が良過ぎて、肉どころか骨までぶった切るからしゃれにならんのや。それで、次の質問は?」

「田所を取り込んでどうするんや? どうせ、写真を撮ろうとするで」

「ああ、それな。うちら公認のカメラマンになってもらう気や。勿論、撮影したデータは全部うちらの好きにさせてもらうで。でも可哀想やから一日一枚だけは自由にし。それが嫌やったら、一枚も撮れんだけや」


 清志は即決した。


「それでもいいから、撮らしてくれ」

「ズルしようとしても直ぐに分かるで。今もカバンの中で隠し撮りをしとるムービーも失敗してるし、これからも盗撮分は全部まともに写らんで。言うとくけど、うちらには分かるんや。この家にも盗聴、盗撮用に色んな人間が色んな機械を置いてるけど、全部失敗してるで。それと、そこにマンションがあるやろ? あそこからも何人か狙ってるけど、全部写ってないはずや」


 菜々はそう言いながら、親指で背中側に建っている大きなマンションを指差した。


「今ので、また違う行動に出るはずや。自分らがばれてると分かったからな」


 啓子は瑠菜が『周り中が敵に思える状況』と言った理由が少し分かった気がした。

 啓子ほど榛菜三人に深入りしていなかった清志は言葉の深刻さに気付かずに、自分のカバンの中のムービーを停めた。替わりに愛用の一眼レフデジカメを取り出して一枚一枚、声を掛けてから撮影する事を約束した。何の成果も得られないよりはましだった。

 さっそく瑠菜と葉菜に声を掛けて、ファインダーを覗いてデジカメの表示が正常な事を確かめた。その様子を見ていた菜々に啓子は最後の確認をした。


「追加の質問や。田所とは関係無い話やけど、あんた、うちを許したんか? 何も文句を言わんけど」

「許す? ああ、うちらを化け物って言った事か?」

「違う。田中をいじめてきた事や」

「それは綾ちゃんとあんたの問題や。綾ちゃんが本心から許すと言ったら、うちはそれに従うだけや。だから、綾ちゃんが許したあんたをどうこうする権利はうちには無いで」


 菜々はそう言うと、ピースサインを清志に向けた。

 清志が嬉しそうに大きなデジカメを菜々と啓子の方に向けて3枚撮った。彼の全身から『幸せオーラ』が湧き出ていた。


「でもな、もう一度、綾ちゃんを泣かすような事をしたら、その時はどうなっても知らんで。うちは瑠菜ほど優しくないからな」

「あの子が優しい?」

「ああ、そうや。あんたも気付いてるやろ? 結局、何人にビンタされた?」

「5人や。今もひりひりしてる」

「全部にあの子が立ち会ったやろ? そこまでの義理は無いのにな。お互いにしこりを残さんように、あの子が働きかけたからあんたはビンタだけで済んだんやで。うちならお断りや」


 啓子は無言になった。確かにあれから4人に呼び出されたが、どこで気付くのか瑠菜は彼女が復讐される前に呼び出し場所に現れた。そして呼び出した者の悲しみを全て受け止めた。

 瑠菜に抱締められた者はその後では人が変ったように明るくなった。


「だからあんたは瑠菜にとんでもない借りを作ったんや。それだけは忘れんときや」


 そう言うと菜々は葉菜達の所に向かった。一人残された啓子は菜々が言い残した言葉を考えていた。

如何でしたでしょうか?

 いじめっ子だった笹岡啓子さんの“石”は、どこに転がって行くのでしょうか?

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