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『笹岡啓子(肉食動物の少女)』 5

『神隠しから生まれし少女』の第26弾です。

 通算26編目、本編23編目となります。

 相変わらず、地味に進行中です(^^;)


 

 松下瑠菜は空を見上げる事をやめて、深く溜息をついた。


「無理でしょうね。愚痴を言うみたいで嫌だけど、問題が山積みだわ。この時代は私達の時代と違って、ややこし過ぎる。これからの事を考えると気が休まりそうに無いわ」


 啓子は自分で同情しないと言っておきながら、彼女達三人に同情し始めている自分に驚いた。自分を追い詰めた瑠菜にも心配や不安が有るという告白は新鮮な驚きだった。


「あんたでも弱気になる事が有るんや? ところでネットの書き込みをどうやって消したんや? どう考えても分からんのや」

「企業秘密だけど、特別に秘密の一部を教えて上げようかな。最近出来たホームページが有るでしょう? 隠し撮りの写真が載っていて、私達の悪口とか印象とか書き込めるやつ。あれはネット上で私達の事を知りたいと思っている人間を誘う罠なの。思ったより効果が有ったわ。あなたも学校裏サイトの管理人もその罠にはまったのよ。管理人さえ特定できれば、こっちのもんよ」

「なんで、そんな知識が有んのよ? あんた達にそんな知識が有るとは思えんわ」

「学校に来るまでに生き残り策を考えた結果よ。さっきも言った通り、私達は生き残りたい。その為にはあらゆる手間は惜しまない。ちなみにホームページで私達の悪口を書いているのは私よ。便乗して悪口を書く人間をあぶりだす為にね。さて、その一環で・・・」


 瑠菜のセリフは途切れた。彼女達に向かって一直線に歩いて来る女子生徒の姿が見えたからだった。

 その表情は青ざめていた。

 目も完全に座っていた。右手を後ろに隠しており、左手にはリストバンドをしていた。


「泣きっ面に蜂って奴や」


 啓子はそう呟いて立ち上がった。瑠菜も立ち上がりながら追加した。


「弱り目に祟り目とも言うわ」


 女子生徒は啓子の前で立ち止まり、感情がこもらない声で話し掛けた。


「ええ気味や。今度はあんたがいじめに遭ったらええねん」

「私はあんたと違うで。いじめられたからと言って、わざとらしく何回も手首を切ったりせえへん」

「口が減らん子や。やっぱり我慢でけへん」


 女子生徒の背中でカチカチという金属音が聞こえた。彼女はいきなり啓子の顔に向けて横殴りで切りつけた。

 だが、その手は啓子の顔の手前で止まっていた。刃を伸ばしきったカッターを持った手を握りながら、瑠菜が冷静な声で女子生徒に話し掛けた。


「穏やかじゃないね。刃物で顔に傷を付けたら、あなたも学校を辞めさせられるかもしれないわよ。だから」


 瑠菜が力を込めて捻ると、カッターはあっさりと落ちていった。


「ビンタで我慢しなさい。笹岡さんもその結果、鼓膜が破れても文句を言わないわ。そうでしょ?」

「あ、ああ、そうやな・・・ それ位は仕方あらへんな」


 啓子は眼前で繰り広げられた暴力シーンに思考力が落ちたまま答えた。彼女は今まで身体を使った喧嘩をした事が無かった。

 小さい頃は『良い子』になろうとしていたし、この二年間は暴力ではなく言葉やネットで周囲を動かして暴力以上の効果を得ていた。

 だから直接的な暴力に対する免疫が無かった。


「ほら、本人もOKしたから、思いっきりビンタしたら」


 瑠菜は落ちているカッターを拾い上げた。

 見事な音が響いた。ビンタをした本人が驚いた程の音だった。驚いているのは彼女だけではなかった。啓子も驚いた顔をしていた。何故か避けようと思わなかったので、まともにビンタをもらっていた。


「痛い。めちゃ痛いわよ。どうしてくれんのよ? 化け物」

「当たり前よ。あなたからいじめられた彼女はもっとつらくて痛い思いをしたのだから」


 殴ったままの格好の女子生徒の真正面に立った瑠菜がそう話しながら彼女の目を見詰めた。

 女子生徒の目に涙が溜まっていた。瑠菜は正面から抱締めて、自分の胸に彼女の顔を押し付けながら優しくささやいた。


「つらかったでしょうね。でも、もうあなたを傷つける人は居なくなったわ。もし現れたら私に言いなさい。味方になって上げるから」


 女子生徒は泣き出した。恥も外聞も無く鼻をすすり上げながら、瑠菜にこれまでのつらかった過去を一生懸命に説明し始めた。

 啓子はさすがに恥ずかしいのか背中を向けていたが、それでもその場から逃げ出さなかった。

 こうして、事件の第三幕が幕を下した。

如何でしたでしょうか?

 何気にこの『肉食動物の少女』は重要なので、もうしばらく続きます。

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