表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

『少女たち(過去からの来客)』 3

3人の少女に分裂した母親とのファーストコンタクトを終えた被害者一家のその後です。

 異常事態に遭遇している松下家の物語は地味に進行します(^^;)

 医師と看護士を残して会議室に戻る間の一行は無言だった。会議室には早川家が全員揃っていた。真っ先に優衣の姿を見つけた陽菜が駆け寄って彼女の手を握りながら訊いた。


「ゆいちゃん、大丈夫?」

「うん、ごめんね。心配掛けて」

「ううん、こっちこそ迷惑を掛けちゃった。ごめん」


 元々幼馴染で、クラスが違っていても一番の親友同士の二人はお互いに謝っていた。

 その横では大人達が会話を交わしていた。


「どうでしたか? 三人の様子は」

「どうしてあんなに落ち着いていられるのか分からない位でしたよ」

「そうですか」

「私達は一旦帰宅しますので一緒に帰りましょうか? 稲本警部補、お願い出来ますか?」

「ええ。手配します」


 病院を出る時の騒動はひどいものだった。被害者なのにまるで犯罪者になったような気分になってしまいそうだった。

 だが、帰りの道中で漏らした稲本刑事の一言がみんなの気分を軽くした。


「失礼ながら、余程仲が良いご夫婦なんでしょうね。もし私が同じ立場で、同じ様に会話したなら、二度と口を開いてくれないでしょう」

「そうですね、子供の頃から大好物だったお菓子を知っている位には仲が良いですよ」

「完敗です。見習って今晩にでも家内に聞いてみます。気味悪がられるでしょうがね」


 確かに優しい刑事だった。


「しまった! 肉も米も野菜も全部忘れてきた!」


 一樹の声が松下家の自宅の玄関にこだました。

 多分、警察が回収してくれていると思うが、今晩の夕食の役には立たない。わざわざ冷蔵庫に保管してくれるとは思えなかったので、肉は腐っているだろう。あれだけ大量に買い込んだだけに勿体無い話だった。

 結局、夕食は冷蔵庫に有ったベーコンとキャベツともやしの炒め物と簡単なみそ汁だった。陽菜が当然のように料理をした。その手つきは手馴れていた。

 テレビを点けると、丁度ニュースを流していた。


「本当に巻き込まれたのね」


 じっとテレビ画面を見ていた陽菜がささやいた。自分達が乗っていた黒い1BOXカーが自宅に入っていくシーンが流れていた。自宅は浩史の収入からすれば大きかった。この家は榛菜の祖母の遺産だった。


「ああ」


 答えたのは一樹だった。浩史は携帯でどこかに電話をしていた。


「明日から大変ね。買い物に出るのも大ごとね」


 テレビ画面は自宅から少し離れた場所からの中継に替わった。警察が制止線を張って立ち入りを制限してくれているので、玄関までは近付けないのだろう。若手の男性アナウンサーが手元のメモをちらちらと見ながらスタジオのアンカーからの質問に答えている。周りには野次馬が群れていた。


「へー、周りはこんな状態だったのか。すごい人だかりだな」

「あの稲本っていう刑事さんの指示なのかな? だけど近所の人に謝っとかないとね」

「そうだな。とりあえず電話ででも謝っておいた方が良さそうだ」


 画面は事件の経過を初めからまとめたビデオに切り替わった。母親の写真が映った。

 写真の下に名前が出ていたが、『松下榛菜』ではなく『岩崎榛名』になっていた。しかも職業が絵本作家になっていた。


「え、絵本作家??」

「うそ? そんな話、聞いたこと無いよ。あ、でも、家に何冊か有るのを見た事ある」


 二人は父親を見たが、まだ電話をしていた。 


「あ、律子がインタビューに出てる」


 画面は顔が映らないように胸から下へ向けていた。


「よく判るな」

「だって、あのシャツとスカートに見覚えが有るもん」


 やっと、電話が終わった浩史が二人に話し掛けた。


「二人とも冷静だな。とりあえずは安心した。そこで、今後の事を話しておきたい。新品のノート無いか? 出来れば大学ノートがいいけど」


 一樹が部屋から持って来る間に、陽菜がコーヒーを淹れてくれた。


『うん、良い子達に育ってくれた』


 浩史の顔がほころんだ。この子達ならこれからも力になってくれるだろう。

 妻の榛菜の力だった。どちらかと言えば、自分は子供の教育に向いていないと分かっていた。元々大の子供好きなのだが、必要以上に甘やかし過ぎる傾向があった。目に余ったのだろう、一樹が幼稚園に上がる頃に榛菜にきつく言い渡された。


『ヒロさんが手伝ってくれるのは嬉しいし、子供の相手を沢山してくれるのもありがたいわ。でもね、なんでもかんでも甘やかして良いってものじゃ無いの。だから勝手にお菓子やおもちゃを買ったりしないで』


 それからの浩史は榛菜の言う通りにした。遊んで上げるのはそれまで通りだが、子供達がお小遣いやおもちゃをねだっても心を鬼にして全て断った。


『お母さんにまずお願いしてごらん。お母さんがお父さんに頼んできたら、その時に考えてあげる』


 すごすごと母親の元に行く子供達の背中を何度寂しく見送ったか分からない。

 だが、そのおかげで自制心を持った子供に育ってくれた。それに榛菜が罪滅ぼしの為か分からないが、実態以上に自分を持ち上げてくれたみたいで、世間の父親よりは家庭内の地位は高かった。少なくとも挨拶はしてくれるし、娘の陽菜は父の日と誕生日には手作りのプレゼントを毎年くれる。


『うん、俺は恵まれていると思う』


 だからこそ、今回の件は全力で当たりたいと思っていた。三人の幼い妻の為に出来る事は全てして上げる事が、三人に分かれてしまって居なくなった妻への恩返しだった。

 それから1時間にわたって、浩史の説明が続いた。現状分析・予想される問題・問題に対する対処方法・緊急時の対応・浩史の考え等など・・・・・。

 説明が終わる頃には、一樹と陽菜の父親の評価がまた上がった。説明には二人が全く考えていなかった側面が多々含まれていた。系統立てて教えてくれた説明はすんなりと頭に入った。元々、母親の榛菜が『お父さんは偉い・お父さんはすごい』と子供達を洗脳していたが、その理由が分かったような気がした。

 もっとも、浩史に特別な才能があるという訳ではなかった。彼の仕事がたまたま総務だったので、慣れた作業に近いだけだった。実際のところ、家庭では『役立たず』『ダメおやじ』『ウザい』と子供に馬鹿にされている父親が、会社では別人のように有能といった例は多い。

 また、浩史がオタクの性向が有った事も有利な点だった。常識にとらわれずに事態を受け入れる下地が有ったおかげで、刑事や医師では考えも及ばない仮定を色々と思い付いていた。

 この二つの偶然と、浩史の非常時になれば冷静になれるという性質が今の状況では有利に働いただけだった。説明が終わって、もう一杯コーヒーを飲んだ後で彼らは行動を始めた。

 

 その頃、例の病室では三人の少女達が深刻な表情で見詰め合っていた。



如何でしたでしょうか?

 本当に地味に進行中です(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ