第一話 歴史オタク、英雄召喚戦争に巻き込まれる
第一話 歴史オタク、英雄召喚戦争に巻き込まれる
図書館は好きだった。
静かだからではない。
本が好きだからでもない。
そこに、人類の積み上げてきた歴史があるからだ。
「織田信長は本当に人気だな……」
神代ユウマは歴史書のページをめくりながら呟いた。
高校二年生。
趣味は歴史研究。
休日は図書館。
好きな偉人は多すぎて選べない。
戦国武将も好きだし、中国史も好きだし、西洋史も好きだった。
だから学校では変人扱いされていた。
今どき歴史オタクなど珍しい。
みんなゲームや動画の話ばかりで、ナポレオンの戦術や始皇帝の統一政策について語れる人間はほとんどいない。
「この辺の逸話が面白いんだよなぁ」
ユウマは微笑む。
英雄とは人間だ。
失敗もする。
敗北もする。
矛盾も抱える。
だから面白い。
そんなことを考えていた。
その時だった。
世界が白く染まった。
「え?」
本棚。
机。
天井。
床。
全てが光に消えていく。
耳鳴り。
浮遊感。
そして。
気が付くと知らない場所に立っていた。
◇
そこは巨大な円形闘技場だった。
空まで届く観客席。
中央に刻まれた巨大な魔法陣。
西洋風の城壁。
見知らぬ人々。
まるでファンタジー世界だった。
「なんだここ……」
周囲を見る。
自分と同じように困惑している人が五人いた。
鎧を着た青年。
修道服姿の少女。
獣人の大男。
ローブの老人。
豪華な衣装を着た銀髪の少年。
そして自分。
合計六人。
その瞬間。
空に巨大な顔が現れた。
人間ではない。
黄金の瞳を持つ発光体。
まるで神だった。
『歓迎しよう』
声が世界を震わせる。
観客席から歓声が上がる。
ユウマだけが顔をしかめた。
『選ばれし六人の召喚士よ』
『これより英雄召喚戦争を開始する』
ざわめき。
空が震える。
巨大な魔法陣が輝き始める。
『最後まで勝ち残った者には願いを与える』
観客席から大歓声。
だがユウマは違和感を覚えていた。
願い?
戦争?
英雄召喚?
話の流れが胡散臭すぎる。
『英雄を召喚しろ』
神が告げる。
『英雄は汝らの剣』
『英雄は汝らの盾』
『英雄は汝らの運命だ』
魔法陣が発光する。
他の五人は迷いなく魔法陣へ向かった。
どうやらこの世界の住人らしい。
ユウマだけが異質だった。
「ちょっと待て!」
叫んだ。
しかし誰も聞かない。
神も無視する。
そして各召喚士の前に巨大な本が出現した。
『英雄録』
そう表紙に書かれている。
ユウマも本を開く。
ページには無数の名前。
歴史上の人物達。
思わず息を呑む。
「まさか……」
徳川家康。
真田幸村。
アレクサンドロス大王。
ジャンヌ・ダルク。
ナポレオン。
アインシュタイン。
チンギス・ハン。
エジソン。
始皇帝。
歴史の偉人達が並んでいた。
『好きな英雄を選べ』
神の声が響く。
すると銀髪の少年が笑った。
「なら決まっている」
彼は豪快にページをめくる。
「世界最大の征服者だ」
光が放たれる。
次の瞬間。
巨大な狼の遠吠えが響いた。
黄金の鎧。
大剣。
圧倒的な威圧感。
『余を呼んだか』
観客席が沸き上がる。
「チンギス・ハン様だ!」
「最強候補!」
「優勝だ!」
ユウマは眉を上げる。
チンギス・ハンか。
確かに強い。
だが扱うのは難しい。
軍勢運用型の英雄だ。
単純な戦闘力だけではない。
そう考えていると別の召喚士が叫んだ。
「私は天才を呼ぶ!」
現れたのはアインシュタインだった。
さらに別の召喚士はナポレオン。
別の召喚士はジャンヌ・ダルク。
次々と有名人が召喚されていく。
だがユウマは気付いていた。
全員選び方が雑だ。
有名だから。
強そうだから。
それだけ。
英雄を理解していない。
それでは本当の力は出せない。
「なるほど……」
ユウマはようやくルールを理解した。
知識が力になるゲームだ。
歴史知識。
逸話。
伝説。
実績。
それが英雄の力に直結する。
だったら。
歴史オタクの自分が負ける理由はない。
ページをめくる。
迷いなく目的の名前を探す。
そして見つけた。
織田信長。
戦国最大の革命家。
天下布武の魔王。
日本史上最も有名な英雄の一人。
だが。
ユウマは微笑んだ。
「いや」
違う。
信長が強いから選ぶのではない。
「俺がお前を一番知ってるからだ」
指を置く。
魔法陣が輝く。
世界が震える。
他の召喚士達が振り返る。
異様な魔力だった。
巨大な炎が渦を巻く。
雷鳴。
爆炎。
そして。
炎の中から一人の少女が現れた。
黒髪。
赤い瞳。
軍服風の和装。
整った顔立ち。
凛々しい美貌。
腰には刀。
肩には火縄銃。
少女は堂々と立っていた。
観客席が静まり返る。
「女……?」
誰かが呟く。
少女は鼻で笑った。
「女で悪いか」
声には圧があった。
覇王の風格。
彼女は周囲を見回し。
最後にユウマへ視線を向けた。
そして。
不敵に笑う。
「面白い」
その笑顔は。
教科書の中の織田信長そのものだった。
「貴様」
少女は言った。
「余の名を知っておるな?」
ユウマは笑う。
当然だった。
全国模試の点数より。
歴史年表より。
下手をすると自分の誕生日より。
彼女のことを知っている。
「知ってるどころじゃない」
信長の目が細くなる。
次の言葉で。
彼女の表情が変わった。
「桶狭間」
少女が反応する。
「比叡山焼き討ち」
さらに反応。
「長篠」
そして。
「天下布武」
信長は笑った。
本当に嬉しそうに。
「なるほど」
魔力が膨れ上がる。
観客席がざわめく。
他の英雄達までもが振り返る。
「当たりを引いたか」
信長が刀を抜く。
炎が吹き上がる。
「ならば見せてやろう」
覇気が世界を震わせた。
「第六天魔王の天下取りをな」
英雄召喚戦争。
その幕が・・・今、上がる。




